( 142983 )  2024/02/25 22:12:12  
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『高齢者の住居問題』が喫緊の課題 

 

 高齢者大国・日本。2025年には、“団塊の世代”全員が75歳以上の後期高齢者となり、医療や社会保障などへの対策が急務となる中、課題の一つとされるのが『高齢者の住居を巡る問題』です。“貸し渋り”など、高齢者というだけで拒否されることも少なくないという住居問題。現状と取り組みを取材しました。 

 

【動画で見る】孤独死や家賃不払いなどの懸念から住まいを“貸し渋り”される高齢者が増加…家主のリスク軽減のため奮闘する人々に密着 

 

高齢者の住まい探しを支援する社会福祉法人『やすらぎ会』 

 

 40代の小川さん(仮名)は、母親の新たな住まいを探しています。父親が亡くなり、母親の年金だけでは今の家の家賃を賄えず、安い物件に住み替える必要に迫られたためです。相談に乗っているのは、老人ホームなどを運営する社会福祉法人『やすらぎ会』の担当者・吉田真哉さん。『やすらぎ会』では事業の一環として、高齢者の住まい探しを支援しています。 

 

(社会福祉法人『やすらぎ会』 吉田真哉さん) 

「どうしても、75歳という年齢の部分で、不動産屋や家主に蹴られてしまう可能性もあるかなと思います。できるだけうちが間に入って、問題がないようにはします」 

 

2025年、“団塊の世代”全員が後期高齢者に 

 

 今、住む家が見つからない高齢者が増えています。2025年には“団塊の世代全員”が75歳以上になり、国民の4人に1人が後期高齢者に。政府も社会保障の制度改革を進めており、厚生労働省が2022年に取りまとめた『全世代型社会保障構築会議』報告書の中で、独居高齢者の生活について「住まいの確保も含め、社会全体でどのように支えていくかが大きな課題」だと指摘しています。高齢者の住まいを巡る問題は、待ったなしの状況です。しかし…。 

 

“貸し渋り”原因は孤独死への懸念 

 

(吉田さん) 

「不動産屋や家主が嫌がる理由は、孤独死かなと思います。特に高齢者ということで、そういったリスクが非常に高いですから」 

 

 孤独死した場合の遺品の処理や、家賃の不払いなどへの懸念を理由に、家主が“貸し渋り”するケースが多いといいます。 

 

娘との食事が楽しみ 

 

 2か月に一度、沖縄から会いに来る娘・裕子さんとの食事を楽しみにしている瀬川フサヨさん(88)も、住まい探しに苦労した一人です。2021年に夫が亡くなり、収入が自分の年金だけになったことなどをきっかけに、新たな住まいを探そうと不動産業者に連絡しましたが…。 

 

(フサヨさんの娘・裕子さん) 

「『この物件を見たい』と言っても『ダメです』と言われて、内覧さえさせてもらえない状況でした。じゃあ、どこに高齢者が住める場所があるんだろうかと。本当に落胆するというか、受け入れてくれる所はないのかな、と…」 

 

 

貸す側にもリスクがあるのは事実 

 

 そんなとき裕子さんが見つけたのが、高齢者の住まい探しを支援する社会福祉法人『桃林会』でした。定期的な安否確認など、『桃林会』の担当者がフサヨさんの生活をサポートすることを条件に、家を借りることができました。 

 

(社会福祉法人『桃林会』 百武明彦施設長) 

「貸す側にもリスクがあるのは、事実です。貸す側の負担軽減をサポートできるチームがあれば、それが我々だと思っています」 

 

シェアハウスに住む大木さん夫婦 

 

 さらに『桃林会』では、高齢者に住まいを提供するためシェアハウス『白鷺園』を運営しています。支援員・磯野由美子さんが、『白鷺園』に住む大木清さん(74)・あけみさん(73)夫婦の部屋を訪れました。 

 

(社会福祉法人『桃林会』 支援員・磯野由美子さん) 

「生活は、どうです?安定していますか?」 

(大木さん) 

「大体、しています。完全というほどではないけど、安心して」 

(磯野さん) 

「仮住まいなので、お風呂とかもご不便かなと思うんですけど、また何かあれば、いつでも言ってください」 

 

家を失い精神的に追い詰められた 

 

 大木さん夫婦は2022年3月に、このシェアハウスでの生活を始めました。当時、住み込みで働いていた居酒屋が突然閉店し、店を取り壊すことになったため、退去せざるを得なくなったといいます。 

 

(大木さん) 

「居酒屋の家主が、『家を壊す。出て行ってくれ。何もない。保証もない』と…」 

 

 大木さん夫婦は高齢なうえ身寄りがなく、経済的な余裕もなかったことなどから、家を借りることができませんでした。 

 

(妻・あけみさん) 

「『店をやめます』と言われたときは、寝られない気持ちで。そのときは、食事もあまりおいしくなかったです」 

 

シェアハウスのおかげで取り戻した『笑顔』 

 

 行き場をなくした大木さん夫婦でしたが、民生委員からの紹介で、一時的にシェアハウスに入居できました。同じ部屋で一緒に食事をしながら、笑顔を見せる大木さん夫婦。 

 

(大木さん) 

「一緒に食べるご飯は、うまいな。365日、結婚してから離れたことがないんです。だから、なおさら不安だったのと違いますかね。これからも、また大変でしょうけど。こういう施設があると、急な時に助かりますよね」 

 

 現在、施設が運営する配食サービスのスタッフとして働く大木さんは、「少しでも早く、夫婦二人の新たな家を見つけたい」と話しています。 

 

 

貸主の理解がどこまで得られるか 

 

 また、『桃林会』は自治体や不動産業者などと連携し、定期的に居住者の安否確認などをしています。高齢者の孤立化を防止することで、家探しに協力してくれる店舗を増やそうと取り組んでいます。 

 

(磯野さん) 

「賃貸業者さんや大家さんのご理解をどこまで得られるのかが、重要な課題だと思っています」 

 

古い空き家をリフォームして貸し出す 

 

 一方、違った方法で支援する会社もあります。ボロボロの空き家を内見しているのは、居住支援をする会社『リノベーター』の社長・松本知之さんです。松本さんは、住まい探しに困っている高齢者などのために、空き家をリフォームして貸し出しています。 

 

(『リノベーター』社長・松本知之さん) 

「すごくボロボロではあるんですけど、きれいにリフォームして快適に住めるような状態にして、安い賃料で貸しています。高齢で、かつ年金だけでは賄えないというような方も当然ながら増えてくると思っていますので、低家賃で比較的入居の条件が緩い物件というものに関しては、ニーズは増えてくると思っています」 

 

ミッションは「誰も拒まない」 

 

 会社が家主となるため仲介手数料は不要で、敷金や礼金も必要ありません。長く住んでもらえれば、商売としても十分成り立つといいます。現在、130戸以上の物件を所有する松本さんの元には、毎日のように高齢者から助けを求める手紙が届きます。 

 

(松本さん) 

「弊社は『誰も拒まないこと』をミッションに掲げてやっていますので、スムーズに住居が提供できます」 

 

 家主のリスクを減らし、高齢者が安心して暮らせるように…。今、社会全体での取り組みが求められています。 

 

(「かんさい情報ネットten.」 2023年1月31日放送) 

 

 

 
 

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