( 143568 ) 2024/02/27 14:06:46 0 00 通行料無料の道路の有料化や、割引の見直しによる「実質的な値上げ」が相次いでいる(写真:ezozenteika / PIXTA)
この2月、九州の「無料で通行できる道路」の有料化が、相次いで発表された。これまで有料道路は、建設にかかった費用を通行料で賄い、償還が終わったら無料開放されることが基本であった。
【写真】通行量無料の道路が有料になっていく流れがある
たとえば、房総半島を横断する「鴨川有料道路(千葉県君津市~鴨川市)」は、1967年に有料道路として供用が開始されたが、2019年4月に無料開放された。筆者は2020年から2年間、この道路を使って東京から鴨川までマイカーで通勤していたので、この無料開放は本当に助かった。
一方で、高速道路は「いずれ」は無料開放されることになっているものの、2023年6月に償還期間の延長が決まり、最長で2115年まで料金を徴収することが発表されて、多くの関係者を落胆させた。
2115年と言えば、今年生まれた赤ちゃんが91歳になる年である。今生きている人がほとんどいなくなるまで延長されたことが、ネットで話題になった。
■160円→370円と2倍以上に…
今回、有料化が発表されたのは、西九州自動車道の「佐世保道路」と呼ばれる区間の佐々IC~佐世保中央インターチェンジ(IC)間と、福岡県篠栗町と筑豊の飯塚市を結ぶ「八木山バイパス」の2路線である。
佐世保道路は、上下4車線化の工事が進んでおり、それが2024年度に順次完成するのに合わせて、道路の管理を国土交通省からNEXCO西日本に移管。それにともなって、接続する西九州道の武雄佐世保道路と一体で、高速道路の料金体系に組み込まれる。
ただし、佐々IC~佐世保中央IC間の通行に限っては、無料が継続される。
したがって、佐々IC→佐世保中央ICは、現状も有料化以降も「無料」であるのに対し、佐々IC→佐世保大塔ICは、現在も有料である佐世保中央IC~佐世保大塔ICの160円(普通車ETC利用)が、370円と2倍以上に「値上げ」となるのだ。
この有料化は、「4車線化の建設費用の捻出のため」であると説明されている。
無料区間として建設された高速道路が有料化されるのは、実はわが国では初めてのことであり、九州の西端の短い区間であるとはいえ、これまでの「有料→いずれ無料」という流れとはまったく逆行する。この施策をどのように捉えていいのかは、なかなか判断が難しい。
これによって一般道の混雑状況がどう変化するのかも今の時点では読みにくい。先ほど説明したように、佐々IC~佐世保中央ICのみの利用であれば、無料が継続される。これは、佐世保中央で降りて乗り直せば、これまでと同じ料金で通行することもできる、とも考えられる。
■「国道のバイパス」でも有料化が決定
もう1つ八木山バイパスは、「高速道路」ではなくあくまで「国道のバイパス」で、自転車や50cc以下の原付の通行は禁止されているが、あくまで一般道路である。
国道201号線の八木山峠のバイパスとして、1985年に総延長13.3kmで開通した八木山バイパスは、片側1車線のため交通量の増加にともなって慢性的な渋滞に悩まされてきた。
福岡県をクルマで走行中にラジオの交通情報を聴いていると、渋滞発生箇所として常に名前が出てくる道路である。
この八木山バイパス、実は2014年に償還が終わり無料になっていたが、佐世保道路と同じく4車線化の工事が進められており、2024年度中に一部の4車線化が完了することから、再び有料化が決定した。
道路の管理も、供用当初の有料時代は日本道路公団(とそれを受け継いだNEXCO西日本)で、無料開放時に国土交通省に移ったが、今回の有料化にともない再びNEXCO西日本に移管される。
こちらは「4車線の道路維持のための有料化」と説明されているが、有料で開通した道路が無料になり、再び有料化となるケースもわが国では初めてだと思われる。
ちなみに通行料は、一律280円(普通車)となっている。毎日、通勤で利用している人にとってみれば、割引がない場合、1カ月(20往復)で1万1200円の負担増だ。
八木山バイパスは無料がゆえに交通量も多かったのだが、再び有料化されることで、無料の旧道にどの程度のクルマが移行するのか、それによって渋滞などはどう変化するのか、これも始まってみないと予測がつきにくい。
道路の有料化とは意味合いが違うが、高速道路では近年「実質的な値上げ」になるケースが増えている。たとえば、高速道路の休日割引。
最近は「渋滞を助長する」として年末年始やお盆の時期などは割引が行われないようになってきたが、2024年はいわゆるシルバーウイークも割引を適用しないことが発表された。
コロナ禍が収まり観光需要の増加などもあって、休日の渋滞はコロナ禍以前よりもひどいところも多く、需要のコントロールのための休日割引が逆効果ともいえる状況になっているため、今後は休日割引そのものが見直される可能性もある。
神奈川県と千葉県をトンネルと橋で結ぶ東京湾アクアラインは、千葉側から神奈川方面へ向かう方向に限り、休日の午後(13~20時)に割増料金(普通車800円→1200円)を設定する代わりに、20~24時の通行料を引き下げた(普通車640円)。
時間を自由に選べるなら「値下げ」になる人もいるが、その時間に通行せざるを得ない人にとっては「値上げ」である。
さらに現在、混雑が激しいサービスエリア/パーキングエリア(SA/PA)では、特に大型車を停めるスペースが確保しづらい状況から、一定時間以上の駐車を有料化しようという動きがある。これも移動のスタイルによっては支払いが増えるわけだから、実質「値上げ」だ。
■老朽化や自然災害、少子高齢化に向けて
諸外国と比べて高いと言われてきた日本の高速道路は、償還期間が延びて無料になる見通しがはるか先になった。しかも、多くの路線が建設後30~40年を経過するようになり、老朽化対策などに膨大な費用がかかるようになっている。
さらに、近年では豪雨や地震など自然災害による高速道路への被害も増加し、復旧にも莫大な費用がかかるようになった。元日に起きた能登半島地震で甚大な被害を受けた能越道は、2月下旬となった今も完全復旧できていない。
高速道路を維持する財源をどこに求めるのか、人口減や少子高齢化の時代にどう高速道路の機能を維持するのか。こうした有料化の流れは、生活や物流のインフラであり、「観光立国」の重要なインフラでもある高速道路の財源のあり方や利用者負担の問題を、改めて私たちに突き付けているように感じる。
佐滝 剛弘 :城西国際大学教授
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