( 143928 ) 2024/02/28 14:29:37 0 00 10年前からDeNAの売上高は3割以上減り、ゲームに次ぐ柱を打ち出せずにいる(撮影:尾形文繁)
かつてソーシャルゲームで急成長を遂げたディー・エヌ・エー(DeNA)が、もがいている。
【図表で見る】DeNAの業績推移。柱のゲーム事業の低迷により、停滞し続けている
IT大手のDeNAは2月7日、2024年3月期第3四半期決算(国際会計基準)を発表した。売上収益は前年同期比2.7%増の1041億円だった一方、営業損益は276億円の赤字(前年同期は50億円の黒字)に転落した。通期でも赤字となる見通しという。
この決算を受けて、DeNAの株価は急落した。足元では1250円前後と、2月7日終値の1528円と比べ2割近くも下がっている。
■柱のゲーム事業の利益は95%減
赤字に陥った最大の要因は、約276億円の減損損失を計上したことにある。
DeNAの事業領域は、①スマホやブラウザゲームを提供するゲーム事業、②ライブストリーミング事業、③野球・バスケなどのスポーツ事業、④ヘルスケア・メディカル事業に大きく分けられる。
今回の減損のうち、とくに大きな損失を出したのがゲーム事業だ。ソフトウェア関連などで114億円の減損を計上した。ゲーム事業の第3四半期累計の売上収益は前年同期比16.5%減の390億円、利益に関しては減損影響を除いても同95.5%減の2.5億円と、厳しい状況に陥っている。
DeNAにとってゲーム事業は、今も全社売上高の約5割を稼ぐ屋台骨だ。それがなぜ苦境に立たされているのか。
これまでDeNAは、日本と中国を拠点にゲームを開発・展開してきた。中国には、2006年7月に「モバゲー」の拠点として現地法人を設立。直近でも、「HUNTER×HUNTER」や「キャプテン翼」など、日本の人気アニメIPのスマホゲームを現地で展開していた。
だが、中国事業は3年ほど前からユーザー消費額の減少が続き、今期は第3四半期累計で営業損失を計上している。不調の背景にあるのが市場環境の変化だ。
中国においてゲームを配信するには、「版号」と呼ばれる政府のライセンスが必要になる。最近は若者のゲーム依存などを背景に、ライセンスの認可に規制がかけられるケースなどが頻発していた。
また、スマホゲームの高品質化や競争激化により、マーケティングにかかる費用が拡大。リリース計画や販売見通しを見直さざるをえない事態が続いていた。そのためDeNAは目下、中国事業の位置づけを抜本的に見直すとともに、拠点規模の大幅な縮小に着手している。
■事業の拠点を日本中心に切り替え
今後は日本拠点を中心に、従来のグローバル市場に向けた大型IPを中心としたパイプラインを推進するという。2025年3月期も3本程度の新規タイトルの配信を予定している。
ただ、その日本も目立った成果は出せていない状況だ。
スマホゲーム市場の競争が激化する中、2023年6月には「takt op.(タクトオーパス)」の配信を開始した。ゲーム配信前にアニメを放映するなどメディアミックスで展開する肝煎りの作品だったが、売り上げが振るわず、2024年2月8日、この4月をもってサービスを終了すると発表。わずか1年足らずでの撤退となる。
日本国内でもスマホゲームの高品質化などで開発費が高騰する中、ボラティリティーの高いゲーム事業のリスクは大きくなっている。
こうした課題から脱却するためにDeNAが新たな手法として掲げたのが、過去に「ポケモンマスターズEX」などのスマホゲームで手腕を発揮してきた、自社の運営力を生かした開発モデルだ。例えばDeNAでは運営を専門に担う子会社の下、リリース後もアクティブユーザー数などのKPIの分析・改善を続け、長期のサービス提供につなげている。
今後はこのような土台を生かし、ゲームの開発初期段階からユーザーのフィードバックを取り込み、ブラッシュアップの方向性や開発継続の可否を判断するといった、低コストかつ低リスクの開発モデルを確立していくという。2022年度下期からアメリカ市場向けのゲームで試験的に導入しており、効果検証を進める。
DeNAは今回、ゲーム以外でもライブストリーミング事業とヘルスケア・メディカル事業で買収子会社などののれんの減損を計上しているが、足元の売り上げやユーザー数の推移などは悪い状況ではない。
89億円の減損を出したIRIAM社はVTuberアプリを展開しており、2021年に完全子会社化した。DeNAの岡村信悟CEOは2月7日の決算説明会で、「(IRIAMは)しっかりとコミュニティが形成されていて、確実にサービスの基盤を作ることを大事にしていく。マネタイズやユーザー獲得施策は当初計画よりも丁寧に進めており、業績面では時間を要している」と説明した。
■今のDeNAは球団頼みの状況に
もっとも、今は両事業とも育成中の段階にあり、本格的な利益貢献には時間がかかる。
ライブストリーミング事業の今期第3四半期累計のセグメント利益は4億円。ライブコミュニケーションアプリ「Pococha」のアメリカでのサービスを終了するなど、収益改善策を進める。先行投資が続くヘルスケア・メディカル事業は、来期に50億円の黒字転換を見込む。
こうした状況下で、今のDeNAにとって頼みの綱は、横浜DeNAベイスターズなどのスポーツ事業(第3四半期累計のセグメント利益は44億円)となっている。
長年柱だったゲーム事業の低迷により、DeNAの全社売上高は10年前から3割以上減った。当時は40%近い営業利益率を誇っていたのに対し、前期実績はわずか3.1%。明確な“次の柱”を打ち出せずにいるDeNAへの市場の評価は厳しく、2月27日終値ベースでのPBR(株価純資産倍率)は0.67倍と、東京証券取引所が改善の目安とする1倍を大きく下回っている。
今回の減損処理で膿を出し切り、再成長へと舵を切ることができるのか。ゲーム事業のボラティリティーを抑えつつ、いかに安定した収益柱を構築できるかが問われる。
武山 隼大 :東洋経済 記者
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