( 144113 )  2024/02/29 00:01:26  
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日経平均株価は最高値を更新(2月27日。時事通信フォト) 

 

 日本株の上昇局面はいつまで続くのか。日経平均株価は2月22日、約34年2か月ぶりに過去最高値を更新した。長期の月足チャートでのブレイクアウト、強いモメンタムが出ている点などに注目すれば、ここからさらなる上昇も見込めるかもしれないが、バリュエーションを考えて、買いを躊躇する投資家もいるだろう。そもそも現在の相場環境は前回の最高値を付けた1989年12月当時と比べ、遜色がないほど良好なのだろうか。 

 

【写真】米中デカップリングを進めたトランプ前大統領と習近平主席のツーショット 

 

 まず、当時と現在の経済規模を比較すると、1990年の名目GDP(出所はIMF)は3兆1966億ドルであり、2023年は4兆2106億ドル(季節調整済み、速報値、内閣府)だ。単純に両者を比較すれば、拡大しているように見える。一方、世界全体に占める日本の名目GDP比率は1990年には14.1%を占めていたが、2022年には4.2%にまで低下している。ちなみに、この数字がもっとも大きかったのは1994年で17.8%を占めており、当時と比べると日本経済の地盤沈下は著しい。また、2023年の景気が上向いていたというわけでもなく、7-9月、10-12月期の実質GDP(速報値、円ベース)は前期比でマイナス成長となっている。 

 

 成長の原動力となる労働力人口(15歳以上、総務省統計局)は1990年末には6423万人であったが、2023年末には6933万人となっており、増えてはいる。ただ、広い意味での労働力の質(生産性、イノベーションを生み出す力など)を示す一つの指標となりそうな科学論文数(出所はNSF)をみると、2003年までは米国に次ぎ、第2位を確保していたがその後はずるずると順位を下げており、2022年には中国、米国、インド、ドイツ、イギリスに次ぐ6位となっている。また、国際経営開発研究所の世界競争力年鑑をみると、1990年には日本の競争力(総合順位)は1位であったが、2023年には35位にまで落ちており、過去最低を更新している。 

 

 さらに米国への留学生数をみると、2004年には2万7925人(出所はNSF)でトップであったが、新型コロナウイルスが流行する直前の2019年には8900人、世界第8位まで順位を後退させている。これが大学院となるとさらに順位は下がり、2018年(2019年はデータなし)には2510人でコロンビアよりも低い16位となっている。 

 

 

 1990年当時の日本は米国に次ぐ経済大国であり、世界でも最強クラスの国際競争力を誇る国家であったが、現在は残念ながら衰退が著しく、回復の兆しも見られない。では逆に、当時と比べ劇的に改善した点はないのだろうか。その観点から、米国の対日政策に注目したい。 

 

 国際的に活動する銀行の自己資本比率、流動性比率などに関する統一基準(バーゼル合意)が日本で本格的に適用されたのは1992年度からだ。いわゆるこのBIS規制が一部の有識者からは欧米による対日抑圧政策の一環であったといった指摘もあるが、このBIS規制が大きな制約となり、バブル崩壊の加速、後始末の遅れを招いてしまったと言えよう。加えて、1990年代から一段と激しくなった米国による円高(ドル安)圧力、半導体、自動車産業への抑圧的な政策なども、日本経済の発展を抑止する方向に強く働いた。 

 

 半導体、電機産業では、日本の衰退と反比例するかのように、台湾、韓国が台頭した。2021年に中国が正式にWTOに加盟すると、米国は中国をいわゆる製造業における下請け先として積極的に利用するようになった。その結果として、日本、台湾、韓国が高い技術力を必要とする素材、部品を中国に供給し、それを中国が国産の一般素材、汎用部品などと組み合わせ豊富な労働力によって加工し、世界各国に供給するといった大きなサプライチェーンが形成された。つまり、米国が中国のグローバル経済への参加を支持し、後押しした結果として、相対的に日本経済の地盤沈下が進んだと言えよう。 

 

 しかし、2012年に習近平体制が発足すると、中国が国際協調を壊すような戦略、具体的には下流側、上流側でも世界トップを目指すような戦略を打ち出し始め、中国に対する警戒感が欧米に広がった。トランプ前大統領が2018年に中国に対して懲罰的な関税をかけ、その後、対中投資の制限、半導体をはじめとした先端技術の輸出制限などを始めたことで、中国とのデカップリング、デリスキングが進み始めた。 

 

 2012年と2021年以降、2段階にわたり輸出に有利となる円安トレンドが発生、現在の日本は、米国によるデカップリング、デリスキング戦略において、中国の役割の一部を代替することが期待されるまでにその立場を変えている。結果的に、米国の対日政策が日本の発展抑止から発展推進に変わったのである。 

 

 2019年からバフェットは日本の商社株を買いはじめ、2023年には業績好調な中国の自動車企業・BYD株を売ったことがこの転換をよく象徴している。 

 

 この先、米国による対中デカップリング、デリスキング戦略がうまくいくと予想するならば、日本企業の復活はこれからが本番となる。日本株の先行きは明るいということだ。 

 

 

 ただ、中国市場は巨大であり、経済規模は米国の70%(2022年、出所はIMF)に達している。前述の科学論文数では既に米国を超え1位となっており、イノベーションを推進する潜在的な力は高い。一方、一人当たりGDPは世界で70位(2022年、IMF)、米国の17%程度とまだ十分小さい点も、まだ成長余地があると捉えられる。 

 

 世界では対中貿易が対米貿易を上回っている国が多く、そうした国では米国に同調するのも容易ではない。しかも、欧州はウクライナ支援、ロシア制裁の反動で苦境の中にあり、米国は慢性的な貿易赤字、巨額に膨らんだ財政赤字を抱え、依然としてスタグフレーション発生リスクを無視できない状況にある。大統領選挙を秋に控え、政治が不安定なことも不安材料の一つだ。 

 

 もし仮に、バリュエーションが歴史的に極めて高い水準となっている米国市場が大きな調整を余儀なくされるようなことになれば、日本市場への影響は計り知れない。 

 

 結局このタイミングで日本株を買うかどうかは、米中覇権争いの行方、米国による対中デカップリング、デリスキング戦略の成功・不成功を予想することに等しいのではなかろうか。 

 

文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。 

 

 

 
 

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