( 144118 ) 2024/02/29 00:08:27 0 00 Pool / Gettyimages
自民党の支持率低下が著しいが、野党もパッとしない。立憲民主党の泉健太代表が、他の野党に共闘を呼び掛けたものの、否定的な態度を取られている。そこで本稿では、実現可能性を度外視して、政権交代を勝ち取るポテンシャルを秘めた「野党連合」の体制・政策・リーダーを大胆に提言してみたい。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)
【写真】新勢力のリーダーとして適任といえる人物
● 自民党支持率が低迷も 野党もまた然り
「パーティー券問題」で揺れる自民党の支持率低下が止まらない。時事通信が今年1月に実施した世論調査によると、自民党支持率はわずか14.6%。野党時代を除けば、1960年の調査開始以来、最低の数値だという。
この機に乗じ、2月4日に開かれた立憲民主党の定期党大会で、泉健太代表は「政権交代を必ず成し遂げよう」と訴えた。また、衆院選で200人以上の候補者を擁立し、単独過半数を目指す考えも示した。
さらに泉代表は党大会で、立民が単独過半数に達しなくても、特定の政策に絞って他の野党と手を組む「ミッション型内閣」を目指す方針も掲げた。
だが泉代表の呼び掛けに、日本維新の会・国民民主党・日本共産党といった野党は否定的な態度を取っている。「総スカン」といえる状況だ。自民党のピンチに乗じて野党が結集する事態は、今のところ訪れていない。
なお、時事通信が今年2月に実施した世論調査によると、自民党支持率はわずかに回復したものの、野党各党の支持率はいずれも4%を下回っている。実は野党の支持率も低迷しているのだ。その要因は、野党が打ち出す政策面に目新しさがないからだろう。
というのも、自民党は日本国民のニーズに幅広く対応できる、政策的には何でもありの政党だ。野党との違いを明確にするのではなく「野党と似た政策に予算を付けて実行し、野党の存在を消してしまう」のが自民党の伝統的な戦い方である(第169回・p3)。
現在の岸田内閣も、左派野党が「弱者救済」を訴えれば、「野党の皆さんもおっしゃっているので」と躊躇(ちゅうちょ)なく予算を付けて実行できる。その場合は、もちろん自民党の実績となる。左派野党は事実上の「自民党の補完勢力」と化しているのだ。
先述した立民党大会で泉代表が訴えた「子ども・若者応援」「教育無償化」も、細部の差はあれど、すでに自民党が取り組んでいる。野党がそれらの必要性を叫んだとしても、実現すれば「自民党の手柄」になるだけなのだ。
● 政権交代のカギを握るのは 無党派層の支持獲得!?
このように与野党の双方に期待できない現状を憂慮してか、時事通信による1~2月の調査では「支持政党なし」の無党派層が6割をゆうに上回っている。
本連載では、こうした無党派層を「サイレント・マジョリティー(物言わぬ多数派)」と呼んできた(第136回)。中道的な考え方を持つ現役世代、子育て世代、若者らに加え、都市部で暮らすサラリーマンを引退した高齢者などがこれに含まれる。
ただし、イデオロギーに強いこだわりがなく、表立って声を上げないとはいえ、サイレント・マジョリティーが投票行動を一切しないわけでもない。常日頃から支持している政党はないものの、時流や政局に応じて一票を投じ、選挙の結果を事実上左右する力を持ってきた。
例えば、かつて民主党への政権交代を支持したのはこの人たちだ。また、第2次安倍晋三政権は、経済政策「アベノミクス」や、弱者を救済する社会民主主義的な政策でサイレント・マジョリティーの支持を獲得し、憲政史上最長の政権を実現した(第218回・p6)。
ところが現在のサイレント・マジョリティーは、自民党はもちろんのこと、野党第1党である立民にも満足していない。筆者の見立てでは、彼・彼女らの票が流れ込んでいるのは「改革」を標榜(ひょうぼう)する維新である。
2023年4月の統一地方選を思い出してほしい。この選挙では維新が躍進した。大阪府知事・市長・府市議会を「完全制圧」し、維新に所属する全国の首長・地方議員の合計は774人となった(第329回)。このうち505人は近畿圏であり、悲願の全国政党への脱皮は道半ばだが、それまで以上に維新に支持が集まったのは確かだ。
その理由は「バラマキ」を是とせず、地方分権・行政改革・規制緩和などを志向するラディカル(急進的)な政策が評価されたからだろう。その観点からも、冒頭で述べた「維新などの野党と組んで政権交代を目指す」という立民・泉代表の方針は間違いではない。
ただし、サイレント・マジョリティーの支持を獲得する上では、誰彼構わず「ミッション型内閣」への参画を呼び掛けるのではなく、維新以外の連携先を“絞る”ことがカギになるだろう。
「全方位外交」に取り組む、指針の曖昧な政党に、目の肥えたサイレント・マジョリティーは票を投じない。だからこそ本連載では以前、立民・泉代表に「党内に存在する『共産党との選挙協力を模索するグループ』と縁を切り、党を割るべきだ」と提言したことがある(第336回)。
本稿でも改めて、立民が政権交代を本気で目指すのであれば、維新などの限られた政党と組んで改革を訴えた方が合理的だと強調しておく。
では、立民と維新を中心とする「シン・野党連合」が成立した場合、政権交代を目指すにはどんな政策が必要なのか。今回は実現可能性を度外視して「三本の矢」を提案したい。
● 「シン・野党連合」が打ち出すべき 政策「三本の矢」とは?
旗頭となる「第一の矢」は「地方主権」だと考える。自民党が掲げる「中央集権」への明確な対立軸となるからだ(第209回・p5)。
「地方主権」を掲げる政策では、単に国から地方への権限移譲を進めるだけでない。これからの時代は、地域同士が国境を越えて直接結び付き、経済圏を築く「コンパクト・デモクラシー」が当たり前になっていく。その動きを加速させるのだ。
例えば、関西・九州・四国などの地方都市に経済特区を設け、外資を呼び込み利益を上げる。日本の各都市が、シンガポール・香港・上海といった成長著しい国や地域と直接結び付けば、経済成長のスピードは加速するはずだ。
現実化できるかはさておき、現在の日本では当たり前の「中央政府が地方を規制で縛り付け、全てが首都に集中する経済システム」に疑念を呈する活動を、もっと大々的に行ってもよいのではないか。
「第二の矢」は「地方を巻き込んだ政治改革」である。自民党を揺るがす「政治とカネ」の問題は、国会議員の地方での活動量の多さが根底にある。かねて国会議員は選挙で票を得るために、地元の支援団体・地方自治体・地方議会議員など、さまざまな地元の支持者に便宜を図ってきた。
詳しい説明は本連載の第347回に譲るが、そうした癒着を避けるため、約30年前に「選挙制度改革」が行われた。だが「小選挙区比例代表並立制」の導入後も、国会議員の活動が地元中心から議会中心へと変化することはなかった。それどころか、議員と地元の関係はより密になった。議員は政治資金のやりくりに苦しみ、派閥や地元の指示に従って、抜け道を探して裏金を受け取るなどの行為に走らざるを得なくなった。
「政治とカネ」の問題の解決には、1990年代の政治改革がやり残した「議員の地元活動」の縮小が必要だ。そうでないと、地元対応にカネがかかる状況は変わらない。議員は新たな錬金術を考え出すことに必死になるだろう。
そうした観点からも、「地方のことは首長・地方議員が担う」「国会議員は地方から切り離され、国会での政策立案に集中する」といった、地方を巻き込んだ大胆な切り分けが必要だといえる。
● 「育児・教育支援」も 中央集権体制は限界だ
「第三の矢」は、「地域に応じた育児・教育支援」である。
大阪府知事・維新共同代表の吉村洋文氏は、大阪市長時代の2018年に、大阪市の待機児童を「325人→37人(旧基準に準拠。新基準では67人)」に激減させることに成功した(平成30年5月10日 大阪市長会見全文)。一方、当時の自民党は「待機児童対策よりも教育無償化」を志向し、優先順位が逆だと一部で猛批判された。
今思い返せば、当時の待機児童は都市部に集中していた。自民党が「集票基盤」とする地方の多くでは保育所には空きがあり、都市部と比べると待機児童は少なかった。ゆえに、自民党は「無償化」を優先したと考えられる。結果、中央集権国家で地方の事情が考慮され、首都圏や主要都市での待機児童問題が改善されないという逆転現象が起きた。
これこそが「全国一律」の自民党政治の限界ではないだろうか(第209回・p4)。その状況を改善するに当たっては、教育関連の施策も「地方主権」の下、各地域がそれぞれの課題に応じて推進するべきだといえる(第288回・p4)。
なお、維新は2024年度から、大阪府内の高校を対象とした「授業料完全無償化」に踏み切る。この施策を決定した昨年には「拙速」との批判が出たが、地方で独自に財源を確保し、国に先行して教育支援を進めることは注目に値する。政策の財源を中央から地方に移転し、地方の自主財源を増やすことができれば、岸田政権で強まる「財務省支配」への対抗策や、将来の「増税」の不安への対案にもなる。
このように、地方主権を軸として自民党と異なる「国家像」を提起すれば、政権交代への期待が高まると筆者は考える(第208回・p6)。
|
![]() |