( 144188 )  2024/02/29 12:57:45  
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岸田政権が打ち出した少子化対策はどれも的外れ?(写真:代表撮影/ロイター/アフロ) 

 

 2023年の出生数(速報値)は8年連続の減少で75.8万人と過去最少となった。 

 経済アナリストの森永康平氏は「岸田首相は2030年までが(少子化トレンド反転の)ラストチャンスと発言しているが、これまで出てきた政策は的外れ」と指摘する。 

 「ITで人口減社会に対応」「移民受け入れ」という選択肢はナンセンスで、出生数減の本質である「未婚者の急増」を解決すべく積極財政に今すぐシフトすべきだと説く。 

 (湯浅大輝:フリージャーナリスト) 

 

【写真】「どこが異次元の少子化対策なのか、開いた口が塞がりません」 

 

■ 今すぐ未婚の若者の手取りを増やせ 

 

 ──2023年の出生数が過去最低でした。この数字をどのように分析していますか。 

 

 森永康平氏(以下、敬称略):岸田首相が「2030年までが少子化反転のラストチャンスだ」と発言している通り、75.8万人という数字は危機的な水準だと思います。もっとも、少子化は先進国共通の問題であることも事実。日本固有の問題は「(他先進国と比較すると)出生数の減り方が急である」ことと「結婚の意思がある男女の割合そのものは変わっていない」ことにあります。 

 

 少子化の本質は「未婚者の急増」です。結婚と出産、子育てが直結している日本では、結婚するカップルが増えないと、子どもの数も増えようがないのです。 

 

 出産適齢期世代が「結婚したくない」と自分の意思で思っているかといえば、案外そんなこともないのです。2021年の出生動向基本調査によれば「いずれ結婚するつもり」と考えている18~34歳において男性は81.4%、女性は84.3%いました。多少減少しているとはいえ、今も8割の若者が結婚したいとは思っているのです。 

 

 にもかかわらず、彼らが結婚できないでいるのは、(1)所得が上がらない・不安定だ、(2)税負担が重い、という経済的なものがメインです。 

 

 政府もこんな簡単なロジックは理解しているのです。現に、内閣府の「少子化対策大綱」においても「若者の雇用の安定」を掲げています。ところが、実際に出てきた政策は「現役世代の財布から毎月500円頂戴します」「3人目の大学進学を無償化します」というすでに子どもがいる世帯に向けたもの。どこが異次元の少子化対策なのか、開いた口が塞がりませんよ。 

 

 結婚したい若者を結婚させるには、彼らの手取りを増やすしかないでしょう。その上で取り組むべきは「減税」に他なりません。特にボディブローのように効いている社会保険料と消費税は早急に見直すべきです。賛否両論あるかもしれませんが、他にも、現金給付などの方法もあります。とにかく、手をこまねいている場合ではないのです。 

 

 ──この手の話をすると、必ず「財源はどこから持ってくるのだ」という批判があります。 

 

 

■ 高齢者からの反対に過剰反応する必要はない 

 

 森永:少子化対策は若者向けの政策なのですから、(社会保障の主な受益者である)高齢者からの反発に対して過剰に反応する必要はないでしょう。高齢者には出産する能力がありませんから。岸田首相自身が「2030年までがラストチャンスだ」と言っているのだから、政治的リーダーシップを発揮すればいいだけの話です。人口ピラミッド構成の問題もあるのでしょうが、反発を恐れている間に少子化は加速度的に進行していきます。 

 

 私は積極財政を支持しています。独立してから一貫してこの立場を取っていますが「プライマリーバランスの黒字化」を錦の御旗に掲げる緊縮財政派の主張を鵜呑みにすると経済は成長しないことは、失われた30年ですでに明らかになったのではないでしょうか。 

 

 家計と国家財政は同一視できません。個人が借りた借金は返す必要がありますが、“国の借金”と呼ばれる国債は別物です。「国債を発行しすぎると財政破綻する!」というのが主な反論ですが、では日本よりも国債残高が多いアメリカやイギリスはなぜ財政破綻していないのでしょうか?  国家財政を「家計」というイメージしやすいもので捉えても、それは実態のない議論で意味がありません。 

 

 ただ明るい兆しもあります。地上波のアンケートで国民に「今やるべき経済政策はなんですか」と聞いたところ「消費減税」が1位になっていました。国家財政に明るくない庶民も「何かがおかしい」と気づき始めているのです。 

 

 ──潮目が変化してきているのですね。 

 

■ 「移民」「ITデジタル」はナンセンス 

 

 森永:ただ、積極財政にシフトするにしても、早い方がよいと思います。仮に30年後に積極財政に転換するとしても、その頃には内需が縮小していて、思ったような効果は得られないからです。 

 

 残酷ですが「財源はどうするんだ」と右往左往している間にも、出産可能な未婚女性のタイムリミットは近づいていきます。「結婚したいけど経済的な理由で難しい」と考えている人たちがまだいる今のタイミングこそ、積極財政にシフトすべきなのです。 

 

 少子化は、日本が直面するさまざまな課題の中でも、最も緊急に解決を要するものだと私は思います。大袈裟ではなく、日本人がいなくなってしまう危機なのです。人口減少社会において、IT・デジタルを活用して省人化に取り組むべきという主張もありますが、既存インフラを出生数75.8万人で維持していくことは現実的ではないでしょう。 

 

 そして、私が最も警戒すべきだと考えているのが「人口が減るのだから移民を受け入れろ」というソリューション。すでにイギリスやフランスなど、同様に少子化に悩む国々がある意味「社会実験」として移民を受け入れ、治安が悪化しているのを見ているわけです。 

 

 繰り返しになりますが「今、結婚・出産したいけどお金の問題でできない」と考えている若者をお膳立てすることが、国としてまずやるべきことです。当たり前ですが、外国人よりまず日本人を増やすべきでしょう。現実的に、今すぐに積極財政を実現する政治的決断が仮にできなかったとしても、高齢者に偏った歳出を是正できなければ、日本人がいなくなってしまいます。 

 

 

■ 不動産が高すぎてDINKsが「勝ち組」に 

 

 ──出生率は地域別でも大きな差があります。何が理由でしょうか。 

 

 森永:地方の出生数減の理由は明確で、経済的な将来不安による未婚者数・産み控えの増加が大きいでしょう。一方、都内も決して現役世代に優しい環境ではないと思います。特に不動産価格の上昇は未婚者・子育て世帯にとって厳しい現実です。 

 

 結婚して子どもができた時に、今の不動産価格では広い間取りの住居を確保することが難しいです。東京都内でそこそこ稼いでいるカップルが結婚するとしても「DINKs」のようなライフスタイルを送った方が快適だよね、だから子どもはいらない、と思う可能性が高いのです。 

 

 結局、国が抱えるさまざまな問題というのは、つながっているのです。都内の不動産価格が異常に高いのは、東京一極集中が主要因で、これも従来からずっと問題視されていた課題でした。今起きている出生数減という問題は、こうしたさまざまな経済問題が平成の間放置されてきた帰結として表出しているのです。 

 

 ──対処療法的な政策を打つだけでは、もはや後戻りできないところまで少子化は進行している、ということでしょうか。 

 

■ 必要なのは政治のリーダーシップ 

 

 森永:平成の30年間のマクロ経済政策が間違っていて、それが少子化をはじめとしたさまざまな問題を引き起こしていることに気づくしかありません。例えば、平成に入ってから雇用という聖域にメスが入り、非正規労働者が一般的になりましたが、これも若者の雇用の不安定化につながり、結婚を阻んでいるのです。 

 

 では、どうすればよいのか。平成の日本が歩んだ道の「逆」を今すぐに歩むべきです。将来への投資に国家予算を充てるべきですし、企業はもう一度終身雇用を含めた、労働者の経済的安定を何よりも重視する姿勢を示すべきでしょう。 

 

 岸田首相の「2030年までがラストチャンスだ」という発言は、正鵠を射ています。未婚者の増加の理由が経済的理由である、という分析自体も、その通りなのです。課題の認識は正確なのですから、あとはそれを解決する政治的リーダーシップが必要とされているだけです。 

 

湯浅 大輝 

 

 

 
 

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