( 144618 )  2024/03/01 14:25:37  
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ベストカーWeb 

 

 働き方改革により物流の担い手が足りなくなり物流危機に陥るという「2024年問題」に対して、政府は「2030年度に向けた政府の中長期計画」をまとめ、対応指針と施策のロードマップを示した。 

 

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 具体的には初年度にトラックドライバーの賃金を10%向上し、次年度以降も継続するとか、2030年度に荷待ち・荷役時間を年間125時間減らし、トラックの積載率を16%向上するなど、意欲的な目標を掲げている。 

 

 とはいえ、まさに「言うは易く行なうは難し」だ。政府の目論見通りに物流革新が進むのか、中長期計画のポイントを見ていきたい。 

 

文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部 

図・表/内閣官房・国土交通省 

 

 政府は2024年2月16日に、4回目となる「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」を開催し、いわゆる「物流の2024年問題」への対応指針となる中長期計画をまとめた。 

 

 主要施策のポイントは次の5点だ。 

 

 1.適正運賃収受や物流生産性向上のための法改正 

2.デジタル技術を活用した物流効率化 

3.多様な輸送モードの活用推進 

4.高速道路の利便性向上 

5.荷主・消費者の行動変容 

 

 その中で、初年度(2024年度)に「トラックドライバーの給与を10%前後引き上げる」や、2030年度に「荷役・荷待ち時間を1人当たり125時間削減する」「積載率を16%向上する」など具体的な目標を掲げている。意欲的な内容だが、実現するのは容易ではない。 

 

 そもそもこの関係閣僚会議は、社会経済の変化に迅速に対応し、物流を支える環境整備について政府一体となって総合的な検討を行なうために開催されているもの。令和5(2023)年3月に第1回目の会議が開催され、同6月の第2回で「物流革新に向けた政策パッケージ」案、同10月の第3回で「物流革新緊急パッケージ」案が公表された。 

 

 そして今回、「2030年度に向けた政府の中長期計画」が取りまとめられ、これまでの政策パッケージに盛り込まれていた内容に関して、具体的なロードマップが示された。 

 

 また、政府は同日に「物流革新・賃上げに関する意見交換会」を開催し、全日本トラック協会(全ト協)、日本物流団体連合会(物流連)、ヤマト運輸、佐川急便など関係団体・企業と意見交換の場が設けられた。 

 

 中長期計画の策定と意見交換を踏まえて岸田総理は、「構造的な賃上げ環境を作るべく、あらゆる手段を講じる」とした。 

 

 法改正では一定規模以上の荷主・事業者に対して、荷待ち・荷役時間短縮に向けた計画作成を義務付けるほか、「多重下請」の是正のため、実運送体制管理簿の作成や契約時の書面交付などが義務付けられる。 

 

 運賃の適正化とトラックドライバーの賃上げのため、「標準的な運賃」の引き上げや「標準運送約款」の見直し、トラックGメンによる集中監視など、悪質な荷主・元請事業者への指導を徹底する。 

 

 デジタル化によるドローンの活用・自動化・システム投資のほかに、パレット等の規格標準化を通じて帰り荷の確保をしやすくするなど、トラックの積載率向上に取り組む。自動物流道路の構築や大型コンテナの導入支援など、モーダルシフトの推進も強化する。 

 

 高速道路では大型トラックの法定速度を2024年4月から90km/hに引き上げることが決まっているが、その影響を見極めた上で車両開発等の状況変化が生じた際には更なる引き上げを検討する。また、「ダブル連結トラック」運行路線の拡充や駐車マスの整備など高速道路の利便性向上も促す。 

 

 「大口・多頻度割引」の拡充措置を継続するいっぽう、法令を遵守しない事業者に対しては割引制度を厳格化する。 

 

 消費者の行動変容としては、宅配便の再配達率を現在の約12%から6%まで引き下げるため、ポイント還元等の実証事業を行なう。消費者に誤解を与えている「送料無料」という表示については2023年度中に見直しに向けたフォローアップ調査を行なう。 

 

 政府が運賃の目安を示す「標準的な運賃」制度は令和2(2020)年に導入されたもので、この度、運賃表は平均8%引き上げ、燃料サーチャージの基準価格も120円に改定する。荷待ち・荷役時間が2時間を超えた場合、割増率5割を加算するほか、有料道路利用料を個別に明記する。 

 

 多重下請構造の是正のため、運賃とは別に10%の「下請手数料」を設定し、元請事業者に対して、実運送事業者を荷主に通知することを運送約款に明記する。 

 

 そのほか、有料道路を利用させない場合にドライバーの運転時間が長くなることを考慮した割増運賃、リードタイムが短い運送を求める場合の「速達割増」や、充分なリードタイムがある場合の割引など「標準的な運賃」で多様な運賃設定を認める。 

 

 こうした計画について毎年度フォローアップを行なうとともに、次期「総合物流施策大綱」に合わせて見直しを行なう。 

 

 物流の効率化については、「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律」及び「貨物自動車運送事業法」の改正により、施行後3年で(2019年比で)荷待ち・荷役時間はドライバー1人当たり年間で125時間削減され、積載率向上により輸送能力は年間16%増加すると見込んでいる。 

 

 政策パッケージによる輸送力への影響は、2024年度にプラス14.5%となり、政策なしの場合に不足するとされる14%をかろうじて上回る。2030年度は不足する34%に対して政策の効果がプラス34.6%となり、物流危機はギリギリで回避できるという試算である。 

 

 そしてトラックドライバーの賃金については、標準的な運賃の引き上げによる運賃改定の効果と、これまでに収受できていない荷役作業の料金により、初年度となる2024年度に10%前後(6~13%)の賃上げとなり、次年度以降も効果を拡大するとした。 

 

 意欲的な数字ではあるのだが、連合が掲げる2024年の春闘の賃上げ率目標が「5%以上」だ。運送業は全産業より労働時間が2割長く、給料は1割少ないとされるので、これくらいの賃上げを実現しないと他産業との差が開くばかりで、担い手不足はさらに深刻化するだろう。 

 

 とはいえ、現状で「標準的な運賃」を活用している運送会社は半数に満たず、多くの会社はそれ未満の運賃で仕事を引き受けているのが実情だ。中には運賃ダンピングを行なった上、コンプライアンスを無視して(過積載など)利益を出そうとする悪質な業者もある。制度の周知と悪質な事業者への指導は強化する必要がある。 

 

 具体的な政策とそのロードマップが示されたことには意義があるが、標準的な運賃の引き上げがどれだけ賃上げに繋がるのかは未知数だ。 

 

 荷主企業としても、物流コストの上昇分を消費者に転嫁するわけにはいかないので、立場の弱い運送会社とトラックドライバーに押し付けてきたという経緯があり、誰が物流費を負担するのかという問題に帰結する。 

 

 「物流革新」を本気で進めるなら、消費者も応分の負担を覚悟する必要がありそうだ。 

 

 

 
 

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