( 144748 ) 2024/03/01 23:47:39 0 00 日経平均株価が史上最高値を更新する一方で、日本企業が業績不振などを背景に希望退職を募集するケースが相次いでいる。直近1週間だけでもオムロンや資生堂、ゲーム事業を手がけるソニーグループ子会社など、大手が大規模な人員削減を発表した。株価の高値更新を日本経済が回復する兆しと見る向きもあるが、製造業を中心に需要の回復が進んでいない状態だ。一方で、好業績でも早期退職を募る企業も増えている。背景にはグローバル化やデジタル化への対応を急がなければならない事情があり、雇用の流動化が加速している。
【表で見る】早期退職を募集した主な企業
2月26日、オムロンは国内外で2千人規模の人員削減を行うと発表した。国内は勤続年数が3年以上かつ40歳以上の正社員などを対象に1千人、海外でも1千人程度の人員を削減する。オムロンが大規模な希望退職を募るのは平成14年以来、22年ぶりになる。
その要因となったのは、中国経済の減速に伴う業績の悪化だ。主力の制御機器事業の不振により、令和6年3月期の最終利益は前期比98%減の15億円となる見通しで、人員削減を含む構造改革に踏み切らざるを得なくなった。オンラインで会見した辻永順太社長は「短期的には痛みを伴うが、施策を完遂することでオムロンはより力強く成長する企業へと生まれ変われる」と強調した。
これまで同社はリスキリング(学び直し)による人材育成や副業人材の獲得など人材への投資を積極的に行ってきたが、うまく成果へと結び付けられず、戦略を転換することになった。
資生堂も2月29日、日本事業を担う資生堂ジャパンで約1500人の早期退職を募集すると発表した。5年12月期の最終利益が前期比36・4%減と振るわず、オムロンと同様に構造改革の一環としての人員削減となる。このほか、ソニーグループ傘下のゲーム事業会社もグローバルで約900人の人員削減を発表している。
こうした人員削減の多くは40代以上の社員をターゲットにしており、コストカットによって収益性を向上させる狙いがあるが、人材流出というリスクもはらむ。ワコールは2月、150人程度の予定で募集した希望退職に215人の応募があったと明らかにした。
2年連続で最終利益が赤字となる見通しの同社は昨年11月に不採算店舗の撤退とともに希望退職の募集を発表。販売職を除く45歳以上64歳以下の正社員を対象としたが、予定以上の応募があった。優秀な人材の流出が懸念されるが、同社の担当者は「織り込んだうえで希望退職を実施している」といい、企業側は痛みを覚悟して人員削減を行っているようだ。
ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査部長は「製造業の最終需要は低迷しており、人員削減の動きが出るのはむしろ自然なことだ」と指摘。人員削減というと労働者にとってマイナスのイメージが強いが、「優秀な人材がより条件のいい企業へ移る動きも増え、日本全体の雇用の流動性が高まる」と話す。
その上で、株価の高値更新や賃上げなど日本経済が上向く兆しはあるものの「まだ物価高が賃金上昇を上回っていることなど、さまざまな点で厳しい状況は続いている。今の状況は『生みの苦しみ』といえるだろう」と述べた。
■背景にDXやグローバル化
業績が厳しくないのに早期退職を募る企業も増えている。背景には、DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応や、グローバル競争で勝ち抜くために企業が求める人材が変化していることがある。多くの企業が終身雇用を転換し、積極的に外部から戦力を調達する方針にかじを切っている。
塩野義製薬は令和5年8月~9月、50歳以上で勤続5年以上の社員を対象に早期退職を約200人募集した。対して応募し退職した社員は最終的に301人に達した。
同社の5年3月期連結決算は、開発した国産初の新型コロナウイルス感染症の飲み薬「ゾコーバ」などが貢献し、過去最高益を更新していた。担当者は「グローバルな成長や新規事業に向けて人的資本を見直している。中途採用を拡大しなければ人材を確保できない」と説明する。
生産技術や市場の変化が激しい電機メーカーでもリストラが相次ぐ。富士通は4年3月、早期退職に国内グループ会社を含む主に50歳以上の幹部社員3031人が応じたと発表した。重点分野のDX事業の強化に向け、人員構成を見直すことが目的とされた。3年9月には、パナソニック(現パナソニックホールディングス=HD)が国内で募集していた早期退職による退職が1千人を超えた。同社は4年4月の持ち株会社制移行で、事業会社の自主責任経営の徹底などの組織改革を実施し、早期退職募集により人材の新陳代謝を図った。
関西経済同友会の宮部義幸代表幹事(パナソニックHD副社長)は先月28日の記者会見で「日本に求められているところは勇気のあるリストラではないか。それによって新しい産業が生まれていく」と話していた。
(桑島浩任、牛島要平)
■「加速する雇用の流動化」 多摩大特別招聘教授・真壁昭夫氏
日本の最大の問題というのは、バブルがはじけたときに雇用を維持するという名目のもと「ヒト・モノ・カネ」を生産性の低いところに塩漬けにしてしまったことにある。本当は生産性の低いところから高いところに移動させないといけない。
日本の経済でもっとも難しかったのは労働市場の改革だが、最近は中途採用が増加するなど雇用の流動化が進んでいる。大手企業が希望退職を募る一方で、中小企業では人手不足による倒産が起きるというような人材のミスマッチによる混乱は短期的には起きるだろう。しかし、長期的に見れば解雇された人はいずれ職に就く。みんな給料が高いところに行きたがるわけだから、生産性の高いところに人材が移動することになる。
バブル崩壊後、日本は政策を間違えたが、現在は外部要因によって物価上昇や賃上げなど経済が成長する方向に向かいつつある。これを維持するには日本企業が技術やマーケティングで実力をつけ、高くても売れるものを作っていくことが重要だ。
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