( 145083 )  2024/03/02 23:49:18  
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AT車のシフトレバー(画像:写真AC) 

 

 クリープ現象とは、自動変速機(AT)を搭載したクルマにおいて、ブレーキペダルから足を離すと、アクセルペダルを踏まなくても自然にクルマがゆっくり前に進む現象である。 

 

【画像】えっ…! これが60年前の「海老名サービスエリア」です(計15枚) 

 

 わかりやすくいえば、クルマが 

 

「勝手に歩き出す」 

 

ようなものだ。 

 

 このクリープ現象は、AT車ではトルクコンバーターというエンジンからタイヤに動力を伝える装置が原因だ。このトルクコンバーターは、エンジンがアイドリング状態でもエンジンの動力をわずかにタイヤに伝えられる。 

 

 しかし、近年ではAT車のクリープ現象は当たり前ではなくなってきている。それはなぜか。本稿ではその理由をひもといてみよう。 

 

AT車では、前進または後退ギアが選択され、ドライバーがブレーキペダルとアクセルペダルから足を離したときにクリープ現象が発生する(画像:Learn Automatic) 

 

 AT車のクリープ現象が当たり前でなくなった第一の理由は、近年の電気自動車(EV)、ハイブリッド車(HV)、連続可変トランスミッション(CVT)搭載車の増加である。これらのクルマには、基本的に従来のAT車に見られたクリープ現象が見られない。その主な理由は、エンジンの代わりにモーターを使用し、 

 

「異なる駆動方式」 

 

を採用しているからである。 

 

 EVはモーターから直接駆動されるため、一部の車種を除き、複数のギアで構成されるトランスミッションを必要としない。HVもエンジンとモーターを組み合わせることでクリープ現象を模倣できるが、AT車のように頼る必要はない。 

 

 また、CVT搭載車やデュアル・クラッチ・トランスミッション(DCT)車も、トルクコンバーターがないため、原理的にクリープ現象は存在しない。 

 

 クリープ現象を低減・解消することは、エネルギーの無駄を減らし、特にEVでは航続距離を伸ばすことにもつながる。また、ドライバーがより意識的に車両をコントロールできるようになるため、安全性の向上にも貢献する可能性がある。 

 

 このように、クリープ現象は、 

 

・運転のしやすさ 

・環境への配慮 

・エネルギー効率 

 

など、車両技術の進歩とともに多角的に見直されている。 

 

 

信号待ちのクルマ(画像:写真AC) 

 

 前述したように、クリープ現象を軽減する動きはあるが、一部の自動車メーカーは人工的に再現する技術を開発し、運転のアシストとして機能させている。それはなぜか。 

 

 クリープ現象の最大のメリットは運転のしやすさにある。例えば、信号待ちや渋滞の際、ドライバーはブレーキから足を離すだけで車両をゆっくり動かすことができ、アクセルペダルに余計な微調整を加える必要がない。そのため、 

 

「ドライバーの疲労が軽減」 

 

され、スムーズな運転が可能になる。 

 

 また、車両の制御性を向上させる効果もある。特に坂道発進時、車両が後退することなくスムーズに発進できるため、安全性が高まる。このように、クリープ現象は運転の利便性だけでなく、安全性にも貢献しているのだ。 

 

 ただし、使い方を誤ると重大な事故につながることも忘れてはならない。特に、信号待ちや渋滞時に事故が起きやすく、インターネット上には次のようなコメントがあふれている。 

 

「前のクルマに近づきすぎて、ブレーキを踏もうとしたら誤ってアクセルペダルを踏んでしまった」 

「落ちていたものを拾おうとしたとき、ブレーキペダルの踏み込みが甘かったために、前のクルマと衝突してしまった」 

 

このように、クリープ現象による事故は不注意によるものも報告されているので、常に注意を払う必要がある。 

 

ブレーキペダルから足を離しても停止状態を維持する「オートブレーキホールド」(画像:日産自動車) 

 

 では、クリープ現象は今後も残るのだろうか。自動車運転において便利な場面もある。しかしその一方で、抑制する新しい技術も生まれつつある。 

 

 そのひとつが「オートブレーキホールド」である。これは、ドライバーがブレーキペダルから足を離しても、クルマを停止状態に保つ機能である。信号待ちや渋滞など、ブレーキペダルを踏み続けなければならない場面で、足の疲労を軽減する。運転席周辺にあるスイッチを押すとパーキングブレーキが作動し、ブレーキペダルから足を離してもクルマが停止した状態を保つ。 

 

 さらに、「eアクスル」と呼ばれる先進のトランスミッションも登場している。これは、EVのようにモーターを主動力とするクルマの走行に必要な主要部品をワンパッケージ化したもので、ギア、モーター、インバーターなどの部品を中心に構成されている。このパッケージ化により、パッケージ全体が小型・軽量化され、 

 

・省スペース 

・電費向上 

・低コスト 

 

などの効果が得られる。 

 

 ただ、恩恵が感じられるケースもあることを考慮し、意図的にクリープ現象を作り出している車種もあるため、いつでも安全に停止できるようにブレーキペダルに足を乗せておく必要がある。 

 

 特に、渋滞などで長時間立ち往生している場合は、適宜ニュートラルにシフトし、サイドブレーキを引くこと。そして、発進時と停止時の集中力が特に重要である。 

 

 以上のように、クリープ現象は運転に影響を与えるが、新技術の登場でそれを制御することも可能になってきている。ドライバーとしては、こうした変化を理解し、新しい運転技術に対応していく必要がある。 

 

木村義孝(フリーライター) 

 

 

 
 

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