( 145203 )  2024/03/03 13:14:46  
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写真提供: 現代ビジネス 

 

 危険で過酷なルートを辿ってアメリカに亡命しようとする中国人が増えている。もし彼らが日本に来て介護人材になってくれれば、介護保険の窮状を救ってくれるだろうに。しかし、日本はそれを求めていない。 

 

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アメリカーメキシコ国境と越境希望者たち by Gettyimages 

 

 中国人の亡命希望者がアメリカの国境に押し寄せているというニュースが相次いでいる(日本経済新聞、2024年2月13日「米国境に中国移民10倍増、現地ルポ 熱帯雨林を踏破」。朝日新聞、2023年12月1日〈元の記事は、NYタイムズ、11月24日付電子版〉「希望失った29歳、密林抜けNYへ 中国系移民が米国に流れ込む理由」。 NHK、2023年7月12日「アメリカへ“亡命”目指す中国人が急増? いったいなぜ?」。産経新聞、2023年7月17日「米国への中国人不法移民が急増 政府の抑圧逃れ亡命希望」)。 

 

 彼らは、中国からタイ、トルコ、エクアドルと大回りをして、メキシコから国境を越えて米国に密入国しようとしている。エクアドルからは陸路で、熱帯雨林を2日も歩き続ける。これは「走線」と呼ばれる、過酷なルートだ。 

 

 こうした中国亡命者が、このところ急増しているのだそうだ。 

 

 なぜ急増しているのか? 政権に批判的な意見をSNSに投稿したため、警察署に連行された人もいる。最近では、不動産の販売をしていたが給料が未払いになって生活ができなくなったとか、宝石のセールスマンをしていたが上司が給料を払わなくなったからなど、経済的理由を挙げる人も増えている。 

 

 2017年に中国のIT企業テンセントが作った会話ロボット Baby Q が、問題を起こしたことがある。「『中国夢』とは何か?」との質問に、「アメリカに移民すること」 と正直に答えてしまったのだ。 

 

 中国当局は、あわててこのAI対話サービスを閉鎖してしまった。ネットユーザーは、これを「AIロボットが逮捕された」と表現した。 

 

 その後、中国は変わったように思えた。2018年頃には、中国IT企業の躍進ぶりが話題になり、IT技術で中国はアメリカと並んだように思えた。 

 

 しかし、ゼロ・コロナ政策に見られたように、習近平政権の強権的な姿勢が強まり、中国経済は失速した。最近では、不動産バブルの崩壊が、深刻な問題を引き起こしている。だから、中国から脱出したくなるのは、我々にもよく理解できる。 

 

 それにしても、これは、信じられないほど危険なことだ。熱帯雨林を2日も歩くのは確かに大変なことだが、国境まで来ても、アメリカに入れるかどうかわからない。それほどの危険を犯してまで中国を脱出したいという状況になっているのだ。 

 

 もっとも、中国からの亡命者は、認められる可能性が高い。2001年から2021年までに中国からの申請者の約67%に亡命が認められた。また、退去を命じられた者が強制送還される可能性は低い。それでも、申請が処理されるまで数年間は待つ必要がある。 

 

 

 日本人がこのニュースを聞いて、当然持つ疑問は、なぜこれほどの危険を犯して、アメリカを選ぶのか、なぜ日本に来ないのか? ということだ。 

 

 日経の記事では、この質問が亡命者に投げかけられているが、それに対する答えは、「日本は中国にあまり好意的でないから」というものだ。 

 

 確かにそうなのかもしれないが、日本人はこの答えを聞き流すのではなく、真剣に捉えるべきではあるまいか? なぜなら、日本は深刻な人手不足に悩んでいるからだ。 

 

 国連の統計で移民の出生地を見ると、最大のインドは、約1800万人。2位がメキシコ(1200万人)で、3位が中国(1100万人)だ(国際連合、プレスリリース 19-081-J 2019年09月18日)。 

 

 受け入れ国は、アメリカが全世界の国際移民の19%である5100万人を受け入れている。第2位と第3位はドイツとサウジアラビア(それぞれ1300万人)。 

 

 外国人労働者を見ると、中国から日本への移動は減っている。厚生労働省『「外国人雇用状況」の届出状況まとめ』によれば、2023年10月末の状況は、つぎのとおり。 

 

 外国人労働者数は 204.9万 人で、前年比 22.6万人の増加。対前年増加率は 12.4 %と、前年の 5.5 %から 6.9 ポイント上昇。国籍別では、ベトナムが最も多く 51.8万4 人(外国人労働者数全体の25.3%)、次いで中国 40.0万人(19.4%)、フィリピン 22.7万 人(11.1%)。 

 

 2022年では中国が最多だったので、ベトナムとの順位が逆転したことになる。 

 

 日本でなぜ外国人労働者が必要かと言えば、人口高齢化のために、労働力が減るからだ。外国人からの労働者は、これに対する大きな助けになる。 

 

 人手不足がとくに深刻なのは、介護人材だ。訪問介護では、有効求人倍率は15を超えている。 

 

 厚生労働省の分析によると、2022年には、介護分野からの離職者が入職者を約6万3000人上回り、就労者が前年より1.6%減少した。岸田文雄内閣は、2021年に介護職員の月収を平均9000円上げた。それにもかかわらず、他の業種で賃上げが行なわれたために、転職者が増えたのだ。 

 

 こうした事態に対処するために、介護保険サービスの介護報酬が、2024年度から全体で1.59%引き上げられることとなった。 

 

 しかし、信じられないことに、訪問介護、定期巡回・随時対応訪問介護看護、夜間対応型訪問介護の3サービスの基本報酬は引き下げられる。訪問介護の引き下げ率は2%強だ。 

 

 いまでも訪問介護の有効求人倍率は15倍を超えるほど人手不足が深刻なのに、報酬を切り下げられてしまっては、在宅介護は破綻してしまうだろう。 

 

 訪問介護事業所の収支が黒字だから切り下げるというのだが、実際には、人材を確保できないために人件費が減ったのが黒字の原因といわれる、23年には67件が倒産している。 

 

 現場は危機的な状態で、人手不足のため、訪問介護の要請を断らざるをえない場合が続出しているという。日本の介護は、在宅介護を中心とするという基本方針であったはずだ。しかし、実際には、訪問看護は、すでに崩壊寸前まで追い詰められている。 

 

 この状態を何とか解決しなければならないのだが、中国からの人材を増やすというのは強力な手段になるはずだ。 

 

 これは、いますぐにでも、日本が決断すればできることだ。 

 

 (参照:「週刊東洋経済」2024年2月17日号)。  

 

 

 2019年4月に入管法が改正され、「特定技能」という在留資格が新たに創設された。人手不足が深刻な産業分野全12分野において、外国人材の受け入れを可能にしたもの。介護もこの12分野に含まれる。 

 

 特定技能には、1号と2号がある。「特定技能」1号では在留期間の上限が「5年」なのに対して、「特定技能」2号の場合は上限がない。また、「特定技能」2号の場合は、要件を満たせば家族帯同もできる。 

 

 特定技能2号は、建設業と造船・舶用工業の2分野にのみ認められていたが、2023年に対象分野を拡大し、農業・漁業・宿泊・外食業など、11分野が対象となった。しかし、介護分野には、特定技能2号は設けられていない。 

 

 特定技能「介護」では、1年・6カ月または4カ月の在留期間の更新を行いながら、通算5年まで日本で働くことができる。介護福祉士の資格は不要だが、既定の試験に合格する必要がある。 

 

 しかし、特定技能「介護」は、身体介護と付随する支援業務を行うことができるが、訪問系サービスはできない。また、特定技能2号がない。このように、介護は、いくつかの制約がある。しかし、冒頭で見た亡命中国人が求めるのは、出稼ぎ労働ではない。家族を含めての永住だ。だから、こうした制約は解除する必要がある。 

 

 介護に特定技能2号がない理由は、日本で永続的に就労するなら在留資格「介護」を取得すればよいからだとされる(在留資格「介護」は、2017年9月から介護業界の人材不足を解消するために認められたもの。なお、そのためには、介護福祉士の資格を取る必要がある)。 

 

 介護での人手不足解決のために現実的な方策があまりない状況で、外国人労働者は、日本の介護制度を救うための貴重な手段になるはずだ。 

 

 これは、介護を必要とする高齢者だけの問題ではない。家族に要介護者が出れば、その家族が何らかの形で面倒を見なくてはならなくなる。これは日本社会全体の問題だ。 

 

野口 悠紀雄(一橋大学名誉教授) 

 

 

 
 

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