( 145223 ) 2024/03/03 13:34:57 0 00 AdobeStock
岐阜県岐南町の小島英雄町長が女性職員らにセクハラ行為などを繰り返していたと第三者委員会に認定され、辞職することになった。
「頭をポンポンと触られた」「肩を抱かれた」といった不必要な身体接触や不快な言動は少なくとも99件に上り、第三者委員会が「即時の辞職以外の選択肢はない」と指弾したことを受けてのことだ。
町長は「よくできた子、頑張っている子に頭を撫でた」「こんなことでセクハラになるのかな」などと釈明していたが、経済アナリストの佐藤健太氏は「もはや『昭和の価値観』は受け入れられない時代であることを認識すべきだ」と厳しい。
「町長は、女性職員と二人きりで雑談をしている際、または、自分以外がすべて女性である雑談の席で、自分のズボンを脛までまくりあげ、『すべすべだろう』あるいは『白いだろう』といいながら素肌の脛を見せつけることがあった。申し向けられた女性の中には、さらに町長から『触ってみて』と言われた者もいた。なお、実際に、このように露わにされた町長の脛をさわった女性職員はいなかった」
「体調が悪くて退職の相談をしに来た女性職員に対して『更年期じゃないのか、生理は終わったのか』などと聞く」
「Aが庁舎 4 階の会議室で電話対応をしていたところ、町長が部屋に入ってきて『ここにおったんか、何しとるんや』と言って、突如、立ったまま電話対応していたAのお尻を触った。後日、町長はAに対して、『まあ、あれは挨拶みたいなやつや、嫌やったらごめんな』『何か俺がお尻を触ったと爆サイで噂になっとるらしいけど、言ったのAじゃないよな』『誰や、そんなしょうもないことを広めるのは』などと、意図的にお尻を触ったことに対する弁明や逆に何らの問題もない行為であったかのような発言をした」
上記は岐南町ハラスメント事案に関する第三者調査委員会による「調査報告書」に記載された「認定したセクハラ行為」「特定の女性職員を対象としてなされた申告なセクハラ行為」から一部を抜粋したものだ。
第三者委員会は、特定の女性職員を対象としてなされた深刻なセクハラ行為について「町長の弁解内容は、1 度だけ女性のお尻を触ったことと女性かがませたことについては認めているが、それ以外に女性に対する身体接触あるいは性的な言動はなかったというものであった。しかし、後記の事実認定の補足説明のとおり、町長が下記女性職員らに各記載の行為を行ったことは優に認定することができた」ともしている。
「もう少し丁寧な調査をして欲しかった。一方的に書いてあるので『え?』というのもある。最初からセクハラありきではないかと思っていた」。2月27日に公表された第三者委員会の報告書を受けて、翌28日に記者会見した小島町長は中立性を欠いた調査であると不満を示した上で、「やはり時代錯誤、不快に思ったことは申し訳なかったと思っている」と一部のセクハラ行為を認めた。
昨年5月に週刊文春のオンライン版でセクハラ疑惑が報じられ、弁護士で構成する町の第三者委は退職者を含む職員161人へのアンケート調査を実施してきた。その結果、第三者委は「ある程度まんべんなく頭をポンポンしていたと共に、特定の人には繰り返し行っていた」などと指摘し、体を触るといったセクハラ行為や恫喝などのパワハラを認定した。
1950(昭和25)年生まれ、74歳の小島町長は「私らの時代は頑張った子は撫でられた経緯があった」「セクハラの自覚はなかった」などと説明しているのだが、2月27日に公表された92ページからなる調査報告書を読むと、町長が認識する「昭和の価値観」は受け入れられないことがわかる。
第三者委が認定した不必要な身体接触・不快な言動は、たしかに「頭をポンポン」が多い。「ご苦労様」「大変やな」と言って町長室や給湯室などで職員の頭を触っているのだが、なぜ日常的に複数の女性職員らに不必要な身体接触を行う必要があるのか理解できない。
人事院の「セクシュアル・ハラスメントのない職場にするために」と題したガイドラインによれば、セクハラとは「職場において他の者を不快にさせる性的な言動」「職場外において職員が他の職員を不快にさせる性的な言動」であり、受け手や周囲の者が不快と感じれば、「すべて『不快な言動』になります」と記されている。
セクハラの具体例としては、スリーサイズなど身体的特徴を話題にしたり、性的な経験や性生活について質問したり、卑猥な冗談を交わす発言に加え、「おじさん、おばさん」などと人格を認めないような呼び方をするといった性別による差別意識に基づく発言も対象となり得る。行動面としては「身体を執拗に眺め回す」「食事やデートにしつこく誘う」「身体に不必要に接触する」といった性的な関心・欲求に基づくものも当てはまる。
小島町長のように「自分の時代」は違った、第三者委員会の報告書は厳しすぎると思う人もいるかもしれないが、セクハラ行為が疑われる言動は先に触れたガイドラインのみにとどまらない。とりわけ、セクハラやパワハラ問題においては上司の「当たり前」が無自覚なハラスメントを招く可能性があることを認識しなければならないだろう。
「手相をみたる、と言って手を触られた」
「頻繁に後ろから肩に手を置かれ肩を揉まれた」
「『旦那と仲良くしとるか』などと配偶者との関係を聞かれた」
「お尻を掌でポンと触られた」
「腕とか太ももをさするような感じで触られた」
「後ろから肩の上から腕をまわす感じで抱きつかれた」
「結婚してから、『子供できたか』ということを頻繁に聞かれた」
「彼氏おるんかと聞かれ、『ああ、いないです』と言ったら、『そうやな、○○にはまだ速いな』と言われた」
第三者委員会はアンケート調査と並行し、匿名による送信可能な投稿フォームを設けて職員の声を吸い上げてきた。そこには「小島町長のおっしゃる通り、性的な側面でのやましさはなかったと思います」といった意見が寄せられる一方で、「町長によるハラスメントは、町長になる以前の議員の頃からあった」「町長は職員を自分の所有物と勘違いしているようです」などと辛辣な声が積み上がる。報告書には、小島町長について「昭和の気質そのもの、時代の変化についていけず、昔の人である」との記載もある。
さらに深刻なのは、こうした日常的なセクハラと並行してパワハラ行為が存在していたことにある。第三者委員会が報告書で指摘しているのは「気に入らないことがあると、すぐに『懲戒』『クビ』『降格』という言葉を伴って激高することが頻繁であった」「女性職員に対してだけ、就業時間中に私用車で私費でのお茶菓子の買い出しに同行させた」「反町長派と言われる人物も所属している団体に職員の親族が所属しているという情報に触れたことから、当該職員に対して、その親族を団体から脱退するよう指示した」などと、不可解な言動がズラリと並ぶ。
言うまでもなく、パワハラ行為は労働施策総合推進法において①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であること②業務上必要かつ相当な範囲を超えていること③労働者の就業環境が害されていること―の要件をすべて満たすものとして定義されている。第三者委員会は、小島町長の場合は「業務上必要かつ相当な範囲」とは認められないものがあると判断し、言動内容も町長の「個人的思想」「自らの考えの強固な押しつけ」に起因していると指摘している。
本来であれば、こうしたセクハラやパワハラといったハラスメントを受けた人は相談担当部署や相談機関に通報する。だが、岐南町ではハラスメント相談が総務課の苦情相談窓口に寄せられていたものの、小島町長が「そんなこと、誰が言ったんや」などと反省する様子がなかったことから具体的対応がとられることはなかったという。
セクハラ問題を踏まえて設置された町の危機管理対策本部で本部長を務める傍島敬隆副町長は「二次被害が起きる可能性を懸念した」などと反省の弁を述べているが、職員から相談を受けながら解決に向けた組織的対応をとらなかったことは問題だろう。同町のハラスメント規程によれば、苦情相談に対しては「町長が対応する」とされ、「町長がハラスメント防止委員会を設置する」と規定されている。つまり、町長がハラスメントを行った場合の定めがなかったのだ。組織としての機能不全と規程に欠陥があった責任は重いと言える。
2020年6月、企業にパワハラ対策を義務づける「パワハラ防止法」(改正労働施策総合推進法)が施行され、2022年4月からは中小企業にも適用されている。厚生労働省が2022年7月に発表した民事上の労働相談件数は過去最多の約28万4000件(2021年度)に上り、ハラスメント対策の必要性は高まるばかりだ。同省が2020年10月に実施した調査によれば、過去3年間に勤務先でハラスメントを1度以上経験した人は「パワハラ」が31.4%と最も多く、「セクハラ」も10.2%に上っている。
ハラスメントが起きている職場では心理的安全性や組織への信頼が失われる可能性がある。職場の生産性が低下したり、人材が流出したり様々なリスクが高まる。被害を受けた人が心身にダメージを受けるのは当然だ。
今回の岐南町のケースは週刊誌報道で注目され、町長が辞職することになったが、「昔は許されていた」「そんなことがセクハラ・パワハラになるわけがない」といった価値観で不必要な身体接触や言動を続けているのは危険と言えるだろう。誰もが加害者にも、被害者にもなり得るハラスメントのリスクを改めて一人ひとりが考える必要がある。
佐藤健太
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