( 145823 ) 2024/03/05 13:06:27 0 00 岸田文雄首相[Photo by gettyimages]
異例の「土曜国会」となった3月2日午後、2024年度予算案が衆議院を通過した。土曜日に予算案が通過したのは31年振りのことだった。これで憲法60条2項に規定された「30日ルール」により、年度内の自然成立が可能になる。
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「本当にバカバカしい。総理がもっとうまく立ち回れば、こうした事態は防げたはずだ」
批判の声を発したのは、野党の関係者ではない。自民党の中の方が怒りは大きいようだ。
理由は岸田文雄首相が出席した政倫審だ。派閥のパーティー券をめぐる裏金問題で、衆議院では安倍派から塩谷立座長と事務総長経験者の松野博一前官房長官、西村康稔前経産相、高木毅前国対委員長、そして二階派から事務総長の武田良太元総務相が出席することになっていた。
しかし塩谷、松野、高木の各氏が公開を拒否。当初は公開を容認していた西村、武田両氏も後に出席を拒否したと報道され、当初は2月28日と29日に予定されていた政倫審の開催は厳しくなった。
それにしびれを切らしたかのように、岸田首相は2月28日午前に自らが政倫審に出席することを表明。全面公開で行うことを明らかにした。
これに促されて4名も、全面公開での政倫審を出席を余儀なくされた。2月29日には岸田首相と武田氏、3月1日には西村、塩谷、松野、高木の各氏が政倫審に出席した。
小野寺五展予算委員会委員長[Photo by gettyimages]
しかしこの1日のずれが大きな波乱を生んだ。なんとしても年度内成立を目指したい岸田首相は、衆議院では予算案を3月1日に通そうとした。予算が成立すればいつでも解散を打てるようにするためだという。タイムリミットは暦の上では3月2日だが、土曜日に該当するため、通常は国会は開かれない。
一方で野党は審議時間に不満を持っていた。例年なら80時間の審議時間があったはずが、今国会では69時間に過ぎなかったからだ。
「そもそも通常国会を開会したのが1月26日だったというのが遅すぎた。もっと早く開会しておけば、予算の審議時間は十分にとれていたはずで、野党から付け込まれずにすんだ」
国会が始まれば、「政治とカネ」問題が持ち上がってくるのは必然。だから岸田首相は通常国会の開会日時を遅らせたのだろうという見立てだ。
そして案の定、小野寺五展予算委員会委員長は2月29日に、3月1日の予算委員会の開催と予算案の決議を行うことを決定した。立憲民主党はすぐさま小野寺氏の解任決議案および鈴木俊一財務相の不信任決議案を立て続けに提出した。
不信任決議案が提出されれば、院内の委員会は全て止まってしまう。3月1日は果てしない深夜国会になるかと思われた。しかし深夜12時前に、自民党と立憲民主党は「停戦」を合意。翌2日に予算委員会を開くことで、予算案を可決することで落ち着いた。
だが岸田首相の近辺は落ち着かない。リーダーシップをとろうと、捨て身で挑んだ政倫審だったが、野田佳彦元首相の追及によって「在任中はパーティーを開かない」と約束させられた。また党内では「岸田首相は4月初旬に米国訪問した後、退陣するのではないか」との声が出始めている。
原因は底が見えない支内閣持率の低下だ。もちろん岸田首相だけの責任ではない。「政治とカネ」問題を明らかにした安倍派や二階派、さらには「赤ベンツでカナダ人のサックス奏者との不倫」を週刊誌で暴かれた広瀬めぐみ参議院議員などが岸田首相の足を引っ張っている。
自民党の茂木敏充幹事長[Photo by gettyimages]
だがもっとも協力的ではなかったのは、茂木敏充幹事長だったかもしれない。幹事長は総裁の女房役として党内の問題に責任をもってあたらなければならない。巨額な「政策活動費」があてがわれているのは、そのためでもある。
にもかかわらず、政治倫理審査会への出席をしぶる安倍派の議員たちに対して、茂木氏は働きかけを行わなかったようだ。むしろ、問題が混乱することで岸田首相が党内の求心力を落とし、退陣を迫られる事態を期待していたかのようにすら思える。
もっとも岸田首相と茂木氏の関係は良好とはいえないようだ。1月には岸田首相がいきなり宏池会の解散を表明したが、これに呼応するように小渕優子選対委員長や青木一彦参議院議員らが平成研を離脱した。茂木氏は平成研の会長であるものの主流とは言い難く、彼らの離脱は総裁選出馬にも影響することは間違いない。
岸田政権は岸田派、茂木派、麻生派のトロイカ体制で維持されてきたが、その一角が欠けるとなると、もはや維持は不可能になる。よって「キングメーカー」たる自民党の麻生太郎副総裁は、上川陽子外相擁立説を唱えるのだろうが、もし上川政権が成立しても長期政権になるとは誰も思ってはいない。
そして自民党と立憲民主党は、(1)4月に衆議院に「政治改革特別委員会(仮)」を設置、(2)予算成立後に衆参両院の予算委員会で集中審議、(3)「政治とカネ」問題について、参考人招致などを協議しつつ、政倫審で申し出のある議員の弁明・質疑を行うと合意。「秋の政局」ならぬ「春の政局」が、これから始まろうとしている。
安積 明子(政治ジャーナリスト)
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