( 145888 ) 2024/03/05 14:23:08 0 00 BYDドルフィンの価格は中国では約210万円から(BYD)
現在もメディアのEV(電気自動車)に対する懐疑的な論調は続いており、最近ではメルセデス・ベンツが「2030年までに販売するすべての車両をEVのみにする」という公約を撤回することになった。2023年10月にはフォードが電動化に120億ドル(約1兆8000億円)を投資する計画の延期を決め、同年12月に電動SUV「F-150ライトニング」の生産を半減すると発表。さらに今年2月の決算説明会ではEV戦略のさらなる縮小を明らかにした。このことを、EVというのは結局のところ、それほど良い案ではなかったことの表れであると見る人もいる。
【画像】伝統的な自動車メーカーが苦戦するEVに安価な中国製EVが迫る
しかし、これらの伝統的な自動車メーカーは、自ら罠に足を踏み入れているとも考えられる。迫り来る中国のブランドは、同等かそれ以上の品質を、さらに安い価格で提供することを約束し、EVに力を注いでいる。
■最大の問題は「価格」
EV市場に注目している人なら誰でも、何が一番の問題なのかということをすでに結論付けている。EVはまだ、同等の内燃エンジンを搭載する車両よりも、はるかに価格が高いのだ。現在の「生活費危機」と呼ばれる状況において、この大きな問題は今まで以上に重みを増している。
従来の自動車メーカーは、ほぼ例外なく、そのターゲットを市場の最上級層、特に高級SUVに置いている。これは電動化に必要な設計、開発、工場の生産設備の変更にともなう費用を、より高価なモデルの大きな利幅で補填したいと考えるからだ。
もう1つの問題は、中古車市場で購入希望者の選べる車両が少ないことだ。もっとも、これは完全に予測できたことであり、現在では解決しつつある。販売される自動車の中で、新車はごく一部にすぎない。英国では2023年の新車販売台数は190万3054台だったが、これに対し、同年に売買された中古車の台数は724万2692台だった。
英国の自動車市場を見ると、新世代のEV(初代日産リーフやルノー・ゾエ、BMW i3の後に登場した車種)の販売は、テスラ・モデル3やジャガー I-Paceが発売された2019年中にようやく活気づいたところだ。販売台数と車種が急激に増加し始めたのは2020年のことで、生産が軌道に乗ったのは2021~2022年になったからだ。その時期でさえ、コロナ禍と半導体不足に阻まれていた。
現在、多くの人が3年から4年のリースでクルマを購入している(あるいは一般的にそのくらいの期間でクルマを買い替えている)ということを考えると、EVの中古車は数が十分に供給されるようになったというだけであり、価格は同等の内燃エンジンのクルマよりも依然として高い。
例えば、英国では2021年型フォルクスワーゲン・ゴルフが1万~1万1000ポンド(約190~210万円)で購入できるのに対し、同年式のフォルクスワーゲン ID.3は1万5000ポンド(約290万円)を超えるだろう。もっとも、EVにありがちなことではあるが、ID.3のほうがゴルフより装備は充実している可能性は高い。EVは中古車の価値が急落しているという説については多くの議論があるが、その一部は明らかに金融と数字の誤解だ。中古でもEVが手頃な価格帯になるまでは、まだ時間がかかる。
■高価格の理由はバッテリー
2020年に市場を見ていた時は、2024年の今頃にはバッテリーセルのコストも下がり、バッテリー式EVと内燃エンジン車の価格差が同程度になると、筆者は予想していた。バッテリー容量1kWhあたりの価格が100ドル(約1万5000円)を下回るタイミングが、バッテリー式EVが内燃エンジン車より安くなる転換点であり、それ以後は勝負がついたも同然になるはずだった。しかし、リチウムイオン電池の価格は2022年に1kWhあたり平均161ドル(約2万4000円)までわずかに上昇し、2023年には1kWhあたり119ドル(約1万8000円)まで下がったものの、2020年以降の経済ショックのため、予想どおりにはなっていない。
エネルギー関連のデータや分析を提供するブルームバーグNEFでは、2025年には1kWhあたり113ドル(約1万7000円)になり、2020年代の終わりまでに80ドル(約1万2000円)まで下がると予想している。つまり、あと数年先になるが、バッテリー式EVと内燃エンジン車の価格差が同程度になる時は近づいている。
また、エネルギー密度の低いリン酸鉄リチウムイオン電池(正極にコバルトやニッケルのようなレアメタルではなく、リン酸を用いるリチウムイオン電池)なら、2025年に1kWhあたり100ドルに達することが予想され、メルセデス・ベンツの新型商用バン「eスプリンター」のように、この電池を採用した車種が増えていることも注目に値する。
しかし、今のところ、バッテリーパックの価格は、EVの高価格な位置づけと、より安価なモデルの不在により、EVの販売が依然として抑制されるだろうということを意味する。
テスラ・モデルYは、2023年に世界で最も売れたEVだが、そのテスラでさえ、この影響と無縁ではない。同社の共同創業者で最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスクは2020年に、2万5000ドル(約380万円)のテスラ車を3年以内に発売できるだろうと語っていたが、そんなクルマ(モデル2という車名になるのだろうか?)が間もなく登場するという噂はあるものの、マスクの言っていた「3年以内」を過ぎた今も、まだ発売されていない。おそらくマスクの予想より少なくとも2年は遅れるだろう。
■求められる低価格EV
伝統的な自動車メーカーは、自社の同クラスの内燃エンジン車の代替としてEVを選ぶように顧客を説得することに関して、さらなる大きな問題を抱えているようだ。メルセデス・ベンツの場合、同社のEVは非常に効率的で未来的に見えるにもかかわらず、販売面ではそれほど順調とは言えない状況が続いている。
同社は2023年に米国で35万1746台の新車を販売し、EVの販売台数は2022年比で248%増加したが、それでも新車販売台数全体に占めるEVの割合は15%に過ぎない。その原因の一部は、車両価格の差にある。例えば、メルセデス・ベンツの高級EVセダン「EQS」の英国での価格は10万5610ポンド(約2020万円)からだが、化石燃料で走る「Sクラス」セダンの価格は9万3920ポンド(約1800万円)からだ。内装も内燃エンジン版Sクラスのほうが豪華だという意見もある(日本ではEVの「EQS 450+」が1563万円から、それに性能が近いディーゼルエンジンを搭載する「S 450 d 4MATIC」は1518万円から)。
英国はそれでも、欧州の中ではEVの割合が多いほうだ。メルセデスが英国で販売した新車の22.5%がEVだったが、さらにうまくやっているブランドもある。同じドイツのBMWは2023年に米国における販売の19.5%をプラグインハイブリッドとバッテリーEVにシフトさせたが、英国では全販売台数の25%がバッテリーEVだった。
より安価なEVも、いくつかの欧州ブランドから発売される。ルーマニアの自動車メーカーでルノー傘下のダチアは「スプリング」というコンパクトEVを間もなく英国に導入する。フォルクスワーゲンは手頃な価格の「ID.2all」をコンセプトカーというかたちで発表したが、市販化は2025年になる予定だ。
■中国メーカーの脅威
問題は、伝統的な自動車メーカーがより低価格なEVの投入を急がないと、中国の会社が参入してその隙間を埋めてしまうということだ。BYDはその最右翼となるだろう。ウォーレン・バフェットを投資家に持つ同社は、すでにテスラを抜き生産台数で世界最大の「新エネルギー車」メーカーとなっている。
BYDのコンパクトハッチバック「ドルフィン」は、英国では2万5490ポンド(約490万円)からだが(日本では363万円から)、中国国内ではわずか240万円ほどだ。2024年モデルは中国では約210万円まで下がった仕様が追加されたが、バッテリー容量は3分の2に減る。BYDの「秦 (Qin) Plus EV」はテスラ・モデル3の競合車であり、中国では109800元(約230万円)からという価格で買える。
かつて英国の自動車ブランドだったMGは、すでに欧州市場へ大いに進出している。同社の「MG4」は欧州で4番目、英国では2番目に売れているEVであり、その販売台数はテスラ・モデルYの60%に達する。MG4の価格はBYDドルフィンと同程度からとなっている。
筆者は昨年、ジーリー(Geely、吉利汽車)のEVブランドであるZEEKR(ジーカー)と、同じく中国メーカーのXPENG(小鵬汽車、シャオペン)のEVを運転したが、非常に信頼性の高いクルマだった。これらのメーカーは、欧州市場に参入し、欧州ブランドと同等の高級な車両を、より安価な価格で提供している。NIO(上海蔚来汽車、ニオ)も待ち構えている。欧州の自動車ブランドでも、このクラスの低価格なEVは、スマート#1やボルボ EX30のように、その多くが中国で製造されている。
これらの企業の中国内における現地価格を見れば、欧州や米国の伝統的な自動車メーカーに価格で差をつける余地は十分にありそうだ。中国製のバッテリーは米国製より11%、欧州製より26%安い。もちろん、中国製EVが米国や欧州に輸入される際には、多額の関税が課せられるので、北米や欧州の市場はいくぶん保護される。
しかし、伝統的な自動車メーカーがEV戦略にもたつき、手頃な価格帯のモデルを投入するにはまだ数年を要するうちに、中国製EVが入り込むチャンスは大いにある。EVの販売が伸び悩んでいる理由は、おそらく、人々がEVを欲していないからではない。価格がまだ高すぎるのだ。伝統的な自動車メーカーがEVの価格を下げない、あるいは下げられないのであれば、中国企業が代わりにより安価なEVを投入し、販売を伸ばし続け、利益を刈り取っていくだろう。
James Morris
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