( 146193 )  2024/03/06 12:49:17  
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(写真:maruco/イメージマート) 

 

 2023年の出生数(速報値)は8年連続の減少で75.8万人と過去最少となった。 

 『限界国家』(双葉社)を2023年に上梓した作家の楡周平氏へのインタビュー後編では、人口減少社会をどのように生き抜くべきかを聞いた。 

 楡氏は、学歴偏重と過剰な高齢者向け医療サービスを見直すべきだと主張。既存の概念にとらわれない若者の発想に期待をかける。(JBpress) 

 (湯浅 大輝:フリージャーナリスト) 

 

【写真】地方ではいずれ祭りもできなくなる? 

 

■ 異常にカネがかかる「教育と医療」 

 

 ──前編で楡さんは、少子化の背景には現代社会が抱える根本的な要因があると指摘しました。これらのほかに、日本固有の事情はあるのでしょうか。 

 

 楡周平氏(以下、敬称略):教育と医療のあり方を見直すべきです先ほど(前編)もお話ししましたが、先進国の中でも韓国・中国の出生率の低下は異常です。共通するのは「学歴信仰社会」。科挙の伝統を引き継ぐ、高学歴の人間しか、社会で高い給料と社会的地位を確保できない社会のことを指します。 

 

 こうした社会においては、(大学卒業までの)教育費がものすごくかかる。韓国はSKY(スカイ、三大難関大学)、中国では国家重点大学に合格しないと、その時点で人生のレールから外れてしまいます。 

 

 日本は両国よりはマシとはいえ、企業と親が学歴を重要視していることに違いはありません。大都市では中学受験熱が過熱しており、塾などの学校外教育に大金がかかります。子どもが1人ならまだしも、2~3人も費用を捻出できる余裕はない家庭が多いでしょう。 

 

■ 医学界は人間の弱さを巧妙に突いている 

 

 楡:次に、重すぎる社会保障。私はもうこれは不可能だと思っていますが、多額の税金が注ぎ込まれている医療体制のあり方は見直すべきです。 

 

 終末期の医療でも、もう先が見えているのにあの手この手で延命しようとする。患者側も自分がそんな状態になった時、どうして欲しいのか、あらかじめ事前指示書で意思を明確にしておくべきなんです。 

 

 実際、私の母は93歳ですが、ずいぶん前に「延命治療は一切拒否。たとえ 死期を早めることになろうとも、痛みを抑える治療だけ行って欲しい」と明記した事前指示書を自ら託してきました。私も夫婦間で、同様の意思確認を済ませてあります。 

 

 世界的に見ても、日本の医療は過剰です。抗生物質をこれほど安易に処方する国は日本ぐらいのものだとはよく言われますが、検査だって同じです。数値に異常があれば直ちに薬。病気の発症を未然に防止するのは大切ですが、コントロールのために延々と薬を飲み続けることになる。 

 

 しかも定期の通院を強いられる上に、他に異常が見られればまた薬。「命」「健康」を引き合いに出されると反論しようがないのですが、これほど大量の薬を常用しているのは日本人だけです。 

 

 社会保障に関しては、現在は人口が多い団塊世代を、現役世代が支えるという構図になっています。現役世代が不公平感を感じるのも当然だと思います。 

 

 ただ、私自身66歳だから分かるのですが、年金生活に入っている高齢者も、介護保険料や所得・区民税その他で重い税負担を背負ってはいるのです。とにかく、日本は国として庶民の税負担が重すぎますし、使われ方にも無関心に過ぎるように思います。 

 

 ──「限界国家」では、20代の若手コンサルタントが「2050年の日本の姿」を突きつけられ、驚くシーンがあります。人口は1億人を切り、内需は縮小。技術革新も相まって人々は職を追われるほか、地方のお祭りなどの伝統は失われるという世界でした。 

 

 

■ 人口減少で知の資産にアクセスできなくなる 

 

 楡:人口減少社会は悲惨です。特に日本のような基本的に単一言語の社会では、真っ先に衰退するのは言葉、日本語を使う産業です。新聞・出版・テレビといったマスコミは、日本語人口が減少するにつれ、経営が維持できなくなるのは明白ですからね。 

 

 また、専門的な教科書を販売する出版社も危ない。子どもの数が減っていけば、教科書の市場だって小さくなりますからね。最近では全ての授業を英語で行う学校が出てきています。日本人人口が減少していく時代に生きる世代には、外国語の修得が必須なのは間違いありません。 

 

 ですが、日本語よりもまず英語というような風潮が生まれてしまうと世代を重ねるうちに、過去の日本人が積み上げてきた知の資産にアクセスできなくなるという恐ろしい時代が来るかもしれません。 

 

 地方の伝統文化については、すでに祭りなどの多くの行事がなくなっています。地方に行ってごらんなさい。空き家だらけで人もまばら。人がいないのに、どうやって祭りや地域の伝統行事が維持できるのですか?  

 

 ──そもそも、『限界国家』を執筆された動機はどのようなところにあったのですか。 

 

 楡:少子化が最大の国難だという認識があったのはもちろん、これからの日本を背負っていく若い人たちに「親世代の生き方は人口減少社会ではもう通用しない」と伝えたかったからです。 

 

■ 大企業に入社しても出世できなければ悲惨 

 

 楡:『限界国家』でも書きましたが、人口減少社会は、親世代の常識が全く通用しない世界に入っていくことを意味します。内需の縮小とAI(人工知能)に代表される革命的技術の出現によって、あるのが当たり前だった職業や職種が消えていくからです。 

 

 そうした世界に生きているのに、いまだに「安定したレールに乗って生きていってほしい」と子どもを仕向ける親の多いこと多いこと。現実が全く見えていない、というか「今日の暮らしは明日も続く」と考えているとしか思えないのです。 

 

 例えば、医者になれば安心だと子どもに語る親がいますが、患者の数が減っていくんですよ?  海外に出ようにも、日本の医師免許がそのまま通用する国は多くありません。 

 

 昨今は企業社会で出世したくないと考える若い人が増えているようですが、大きな会社に入っても昇進できなければ悲惨ですよ。評価されてこその昇進なのですから、止まった時点でリストラ候補。出向・転籍で酷い目に遭うことは目に見えています。 

 

 

■ なんのために塾にカネを払っているのか?  

 

 楡:先ほど、学歴信仰に基づく異常な教育熱の高まりが少子化の原因のひとつになっていると言いました。今でもこうした価値観を持っている親世代は多いのですが、子どもにこの先、変化していく日本で、どのように生きていってほしいと思っているのか?  なんのために、多額の授業料を払って塾に通わせているか?  

 

 良い大学を出て、良い会社に入れば一生安泰という時代はとっくに過ぎ去っています。技術革新と市場規模の縮小で消えていく職業・職種はごまんと出てくるでしょうし、もうどんな道を選んでも「安全だ」とは言い切れない時代になっているのです。 

 

 そうした中で、親が子どもにできることは何か。子どもの感性、可能性を信じてやること以外にないでしょう。 

 

■ 政界も財界もトップは爺さんだらけでうんざり 

 

 楡:もう親はこれからの時代に対して、ろくなアドバイスをしてやることはできません。若い人はこうした現実を直視するべきで、組織に依存する生き方は危険だと知るべきです。 

 

 海外に活路を見出したり、「これだ」と思った道で起業したりと、いくらでも生きていく道はあります。 

 

 国家としても、もう高度経済成長期の幻影を追いかけるのは、いい加減やめようと言いたい。3世代後の日本は人口7000万~8000万人の国になります。 

 

 当然、海外に出ていくことも必要でしょうが、そろそろ日本独自の強みを活かす道を模索するべき時です。半分冗談、半分本気で言うのですが、いっそ日本を観光のテーマパークにして、観光立国を目指してもいいかもしれませんね。 

 

 政界も財界も、ご重鎮は爺さんだらけでうんざりですよ。彼らが真剣に人口減少社会の行く末を案じているとは到底思えません。若い人たちには、我々の理解の及ばないようなことをドンドンやってもらいたい。そうした行動が、閉塞感漂う日本を変えていくのだと思います。 

 

楡 周平/湯浅 大輝 

 

 

 
 

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