( 146283 ) 2024/03/06 14:19:19 0 00 photo by gettyimages
このところ、日本人の若い女性が売春目的で米国に渡航したり、相互交流を目的としたワーキングホリデー(ワーホリ)に、就労目的の応募が増えるなど、これまでの日本では考えられなかった事例を数多く目にするようになってきた。
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これらの変化は全て日本が貧しくなった結果であり このまま事態を放置すれば、状況はさらに悪化するだろう。日本人は再び豊かな先進国を目指すのか、貧しさを受け入れ、それを前提にした途上国的経済運営にシフトするのか選択すべき時期に来ている。
警視庁は2024年1月、米国での売春業務を紹介したとして都内のデートクラブ経営者を職業安定法違反(有害業務の募集)の疑いで逮捕した。容疑者らは昨年、日本人女性を米国内で売春させる目的で、仕事内容を伝えるメッセージをSNSで送り、有害業務に勧誘したとされる。
今回は捜査機関が摘発したことで話題となったが、これは氷山の一角であり、この手の話題は昨年からネット上でよく取り沙汰されるようになっていた。多くの人が知るきっかけとなったのは、売春目的の渡航と勘違いされ、入国拒否されてしまった女性が顛末をSNSで公開したことだろう。
その女性は友人と休暇を過ごすためハワイに向かったのだが、インスタ映えを目的に大量の衣装を持ち込んでいたことから別の目的を疑われ、説明もうまくいかずそのまま帰国せざるを得なかった。
日本人女性が売春を疑われて入国拒否されるケースは昨年あたりから急増しているといわれ、水面下ではすでに多くの日本人が金銭目的で渡航している。これまで売春目的の出入国といえば、アジアなどから日本に女性がやってくるのが常識であり、まったく逆のことが起こっている現実に多くの人が衝撃を受けた。
豊かさを求めて海外に渡航するという意味では、ワーホリの制度でもちょっとした異変が生じている。
英国政府は昨年、2024年からワーホリを使った日本人渡航者の受け入れ枠を、一気に4倍に拡大すると発表した。ワーホリを使った英国への渡航希望者がこのところ急増しており、枠が少ないため多くの若者が断念せざるを得ない状況が続いてきた。枠の拡大によって希望者の半分以上が渡航できる可能性が見えてくる。
ワーホリというのは、双方の若者が長期間、互いの国に滞在し、文化や生活様式など相互理解を深めるための制度である。旅行などの短期滞在では実現できないような深い交流を目的としているため、1年から3年程度の長期滞在が可能となっており、その間の生活費をカバーするため、一定範囲での就労が認められている。
現在でも、外国との相互交流を目的にワーホリを申請する若者が多いが、近年の日本人の応募傾向は以前とは少し違ってきている。どういうことかと言うと、相互交流よりも就労を主な目的とする人が増えているのだ。
英国政府は口が裂けても言わないだろうが、単純に両国の文化交流を促進するためだけにワーホリの渡航枠を拡大したのではない。
先進各国は単純労働に従事する人材の確保に苦労しており、ワーホリによる渡航者は非常に魅力的に映る。ワーホリであれば、1~3年で確実に帰国してくれるので、移民になってしまう心配はない。自ら外国で暮らそうというガッツのある若者が一定期間滞在し、アルバイト的な仕事に積極的に従事してくれるのはありがたいはずだ。分かりやすくいってしまえば、外国人労働者の受け入れ枠拡大に近いのだ。
一方、日本から渡航する若者にも大きなメリットがある。先進国であれば最低賃金で働いたとしても日本の1.5倍から2倍のお金がもらえる。確かに生活費も高いが、稼いだ額の一定割合を貯金すれば、日本で働くよりも圧倒的に多くのお金を貯めることができる。
つまり英国によるワーホリ枠の拡大は、単純労働者を確保したい英国と、高い賃金を目指して渡航したい日本人のニーズがマッチした結果であり、事実上、日本人による出稼ぎが本格化したと考えてよいだろう。
上記の話題は、日本人が外国に稼ぎに出るというものだが、国内では逆の現象も見られる。外国人が多く滞在したり、外国企業が工場を建設した地域では、他地域とはまったく異なる価格が形成され、国内経済の二重構造化が発生しているのだ。
外国人スキーヤーが多く集まる北海道のニセコでは、以前から訪日客を目当てにした宿泊施設の建設が相次いでいる。飲食店などのサービス業も基本的には外国人向けとなっており、外国人の所得水準に合わせて物価も上昇している。ニセコではラーメンやカツ丼が3000円台というケースも珍しくなく、そこで働く日本人の賃金も他地域に比べると大幅に高い。
台湾TSMCが工場を建設した熊本も似たような状況となっている。同社が日本人従業員向けに提示した賃金は他の日本企業と比べると圧倒的に高く、彼らの所得を目当てに飲食店などが多く店を出している。どの店も店員を確保するのに苦労しており、店員の時給もうなぎ上りだ。
一連の現象を「実体のない景気」というニュアンスがある「バブル」という言葉で報じるメディアも少なくないが、これらは決してバブルではない。日本の所得水準が低くなり、外国人価格と日本人価格という二重構造が形成されているだけである。
価格の二重構造というのは、所得水準が低い国ではよく見られる現象であり、外国人が行く店の値段は、似たような商品を提供していても、現地人が行く店の2から3倍の値段になっている。外国人を相手にした方が、より高い利益を得られるので、多くのサービス業が外国人向けに衣替えを行い、これが従業員の所得向上に寄与している。
非常に残念なことだが、一連の出来事が示しているのは、日本はもはや所得が高い国ではなくなったという現実である。筆者は、日本は本来、テクノロジーをベースに成長を続ける先進国であるべきと考えており、外国人の富を取り込むことを主な産業にする、途上国型の経済運営についてはあまり賛成できない。
だが現実問題として、一度、所得が落ち込んだ国が復活することは極めて難しく、もう一度、高所得国の仲間入りを目指したいのであれば、今がギリギリのタイミングであるのも事実だ。日本人は今後の経済運営について、最後の決断が迫られているとも言える。
加谷 珪一
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