( 146291 )  2024/03/06 14:30:03  
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電動キックボードのシェアリングサービスを展開するLUUPが、埼玉県・飯能でのライドシェアリングの実証実験を始めた。

LUUPは国内で最大手であり、現在8都市で運用されており、2025年までに全国1万箇所にポートを増やす予定。

シェアリングサービスの利用が増える一方、事故や交通違反も多く報告されており、安全面への懸念が強い。

LUUPはポートを活用することで都市の空きスペースを有効活用し、軒先空間の復権や新たなコミュニケーションの場を生み出す可能性も示唆されている。

今後の展望には未知数の部分もあるが、安全性や利用者マナーの向上が重要視される。

(要約)

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/simonkr 

 

免許不要の電動キックボードのシェアリングサービスを導入する自治体や企業、店舗が増えている。環境負荷の低い新しい近距離移動手段としても注目されている一方、利用者の事故や交通・ルール違反も多く報告されるなど課題も多い。ライターの谷頭和希さんが、利用者が大きく拡大している背景を都市論の観点から解説する――。 

 

【写真】ポートは街の中の「空きスペース」を利用して作られている 

 

 電動キックボード・電動自転車のシェアリングサービスを展開するLUUP(本社:東京地千代田区)が、2月23日から3月24日までの期間限定で、埼玉県・飯能でのライドシェアリングの実証実験を始めた。 

 

 これは、2月23日(金)から3月3日(日)に開催される移住促進イベント「はんのう Yellow Week~早春の飯能をめぐる10日間~」に合わせて実施されたもので、飯能市が支援をしている。 

 

 国内で稼働している電動キックボードのシェアリングサービスはいくつかあるが、日本での最大手がこの、LUUPだ。 

 

■シェアを拡大するLUUP 

 

 LUUPは現在、国内8都市で運用され、2025年までには全国1万箇所にポート(電動キックボードや電動自転車が置いてある場所のこと)を増やす見込みだという。昨年の7月には運転にあたっての免許が不要となり、それによる利用者の増加も見込まれている。 

 

 LUUPが創業したのは2018年。シェアリングサービスを始めたのは2020年5月、コロナ禍真っ只中であった。当初は電動自転車のシェアリングサービスのみだったが、2021年には電動キックボードのシェアリングサービスを始める。その後、さまざまな都市で実証実験を繰り返し、現在に至っている。 

 

 料金体系は2024年3月1日に改定され、改定後は「基本料金50円+1分15円」。これは2023年11月以前の料金体系と同じで、現行では「30分200円」となっているのだが、短時間利用の利便性を考えて、元に戻される形だ。 

 

 一方、サービス拡充に伴って事故の件数も増加。手軽なだけに交通ルールを無視する利用者も多いことから、その安全性への指摘が後を絶たない状態だ。LUUPも利用前に交通安全のためのチェックテストを行うなど、いくつかの対策は行っているが、まだまだ安全面への懸念は強い。フランスのように、電動キックボードを日本よりも早く取り入れたものの、安全面の問題からその運用に大きな規制をかけた国もある。 

 

 さまざまな論点のある電動キックボードであるが、日本でその利用が大きく拡大している背景、そして今後の展望を、筆者が専門とする都市論の観点から見ていきたい。 

 

 

■都市のスキマに設置されるLUUPのポート 

 

 筆者の目から見てLUUPがシェアを増やす背景にあるのは「都市のスキマを埋めるポート設置」だ。 

 

 電動キックボードや電動自転車が置いてある場所は「ポート」と呼ばれるが、このポートの場所が非常に面白い。例えば、これは以前、筆者がLUUPを使用したときの話である。LUUPでは返却ポートがアプリ上で表示される仕組みになっている。そのアプリによると、もう返却地はすぐそこらしいのだが、どう行ってもそこに辿り着けない。あれやこれや移動しても、なぜか表示されている返却地に正確に辿り着けないのだ。その理由がこれだ。 

 

 なんと、その返却地、この短い道を抜けたどん詰まりにあるのだ。この道を抜けると、この光景が現れる。狭い住宅街の道を抜けると、そこには何十台もの電動キックボードと電動自転車があるのだ。 

 

 LUUPを使ったことがある人は、同じような経験をしたことがある人もいるかもしれない。LUUPのポートを探すときはいつも、こうした都市のスキマのような場所を歩くことになる。 

 

 往々にして、ポートは街の中の「空きスペース」を利用して作られている。いや、作られているというよりも、「再発見されている」と言ったほうがいいかもしれない。街の中でデッドスペースになっていた場所を、ポートとして再発見するのだ。 

 

 LUUPの公式ホームページでは、こうしたポート用の物件を募集していて、その利点の一つとして「デッドスペースの収益化」を挙げている。そこには「自動販売機2台分から設置可能なため、今まで使い道がなかった小さなスペースを有効活用することができます」とあり、こうした「都市のスキマ」を使うことが推奨されているのだ。 

 

■空きスペース活用というトレンド 

 

 都市論的な観点から言えば、こうした空きスペースを活用して都市の中にさまざまなスペースを作っていく動きは、近年盛んになっている動きだ。 

 

 例えば、駅の構内の空きスペースなどで仮設の店舗であるポップアップストアを開くことなどが流行しているが、これもこうした流れを受けてのものであろう(ちなみに、筆者は以前、プレジデントオンラインでこのポップアップストアについて書いたので、興味がある人はそちらも参照してみてほしい)。 

 

 LUUP側としては、手軽にポートを増やすことができるし、設置側としては自宅や所有地の空きスペースを有効活用できる。また、利用者にとってみても、自宅の近くに多くのポートができることによって利便性が向上するのだから、さまざまな方向でいいことずくめである。 

 

 また、少し古い文献にはなるが、槇文彦『見えがくれする都市』(鹿島出版会、1980年)では、日本の都市空間に「すき間」が多いことが述べられている。もともと、日本の都市はこうした「スキマ」空間を活用しやすいもしれない。 

 

 いずれにしても、こうしたトレンドに乗って、ポート数は増えていくのだろうのかもしれない。 

 

 

■LUUPのポートが使う「軒先空間」 

 

 実は、このようなデッドスペースの活用は、思わぬ副産物を産んでいる。「軒先空間の復権」である。さまざまな問題が指摘されるLUUPであるが、こうした方向性において、都市空間における新しい可能性を切り拓くのではないかと筆者はひそかに思っている。 

 

 こうしたデッドスペースの一つとして注目されているのが、小売店などにおける「軒先」である。屋根が入り口よりも突き出した部分をそのように呼ぶが、現在では、建物の敷地と入り口の間の部分をそのように呼ぶこともある。従来こうした軒先には何も置かれていないことが多く、まさにデッドスペースになっていたわけであるが、LUUPの活用によって、軒先にポートが設置されるようになった。 

 

 2022年5月の段階でファミリーマートがLUUPと業務提携を結んでおり、日経クロストレンドでは、これを「軒先ビジネスの本格展開」としている。たしかにいくつかのファミマを訪れてみると、その軒先の多くにポートが設置されていることがわかる。 

 

 また、コンビニに限らず、一般的な住宅や個人商店などの軒先にもポートが設置されている様子が見受けられ、「軒先」がポート設置にとって非常に重要な空間になっていることがわかる。 

 

■LUUPのポートでコミュニケーションが生まれる 

 

 「軒先」で何が起こっているのか。これは、私の知人であるOさんから聞いた話である。OさんがLUUPを使ったとき、都内にある酒屋の軒先にあるポートを利用した。そのときに、その酒屋の主人と会話を交わしたという。 

 

 店の軒先にLUUPがあるから、必然的にそこではその敷地の所有者とLUUPの所有者との間に会話が生まれることになる。もちろん、こうした例はコンビニなどではなかなか起こらないかもしれない。しかし、個人商店や個人住宅の軒先にあるポートであれば、そこで何らかのコミュニケーションが生まれる可能性もあるのだ。 

 

 実は、軒先空間とはかつて、その敷地内の人と外部の人との交流を生み出すコミュニケーションの場になっていた。店先で客と店主が会話をする、という光景は思い浮かべやすい。特にこうした軒先空間を重視して、建築における内側と外側が曖昧な空間を作ることは、伝統的な日本建築が常に意識してきたことでもあった。その意味でLUUPは知らず知らずのうちに「軒先空間の復権」といえる現象を起こしている。 

 

 おそらく、LUUP側はそこまで意識していなかったのかもしれない。ただ、LUUPのホームページを見ると、ポートを置くときの一つのメリットとして、「集客効果の向上」が謳われている。そこにポートがあることによって、立ち寄るはずの無かった人がそこに出向くことが、特に観光地の場合はポート設置の際のメリットの一つとして語られるのだ。 

 

 もしかしたら、LUUPを介した新しい形でのコミュニケーションが立ち上がることもあるのかもしれない。 

 

 

■LUUPの今後の展開は? 

 

 ここまで、都市論の観点からLUUPの拡大の背景、そして今後の展望を見てきた。まだまだLUUP自体が実証実験段階であることもあって未知数の部分もあるが、もしかすると、「都市のスキマ」を利用したポート設置によって「軒先空間の復権」を生み出していくかもしれない、というのが、筆者が思うことである。 

 

 もちろん、先ほども書いたように安全性の問題など解決すべきことは多く、また、海外では規制によって電動キックボードのシェアリングサービス自体が下火になっている事情もある。こうした安全性の問題や利用者のマナー向上は何よりも優先して対策されるべきであることは言うまでもないし、そうした対策があって、はじめて都市論的な視点からLUUPを評価することができることも確かである。 

 

 ただ、もしかすると日本におけるLUUPの拡大は、興味深い展開を迎える可能性も持っていることを指摘しておきたいのだ。 

 

 

 

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谷頭 和希(たにがしら・かずき) 

ライター 

1997年生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業後、早稲田大学教育学術院国語教育専攻に在籍。デイリーポータルZ、オモコロ、サンポーなどのウェブメディアにチェーンストア、テーマパーク、都市についての原稿を執筆。批評観光誌『LOCUST』編集部所属。2017年から2018年に「ゲンロン 佐々木敦 批評再生塾 第三期」に参加し宇川直宏賞を受賞。 

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ライター 谷頭 和希 

 

 

 
 

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