( 146638 ) 2024/03/07 14:04:54 0 00 写真:iStock
「EV(Electric Vehicle、電気自動車)というのを自動車として見るのもそうですが、“エネルギーを運ぶモノ”として見ることがEVの本質です」
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長年、世界を飛び回って自動車業界の動向を分析している深尾三四郎さん(42)の言葉は新鮮だった。欧米や中国に比べて自動車のEV化に大きく出遅れている日本の自動車産業は、どう巻き返すことが出来るのか。
その答えを求めて深尾さんに会ったが、話の内容は自動車に留まらず、エネルギー、地方創生など日本社会の在り方にまで広がった。
「自動車の専門家としてEVを見ている観点でいうと大きなテーマは2つあります。EVシフトの本質は何かというのと、もう1つはソリューション(解決)的なところですけど、これは日本が“縦割り”からどうやって抜け出すかという大きなテーマです」
深尾さんの現在の肩書は伊藤忠総研上席主任研究員であると共に、自動車業界で世界最大のブロックチェーン(取引履歴を暗号技術によって過去から1本の鎖のように繋げ、分散的に処理・記録し正確な取引履歴を維持する技術)の国際標準化団体である「MOBI」のアジア人唯一の理事でもある。
麻布高校からイギリスに留学しロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)を卒業した。これまでにヘッジファンドや国内外の金融機関でのアナリストなどを歴任している。
まず、世界のEVの最新動向を確認しよう。
ロイター通信によると、2023年に世界で販売されたEVは前年比で31%増加し1360万台だった。このうちBEV(100%電動車)は950万台で、残り410万台はPHEV(プラグイン・ハイブリッド。外部充電できるハイブリッド車)だ。BEVの販売台数はアメリカとカナダで50%増、ヨーロッパでは27%増、中国では15%増となっている。
さらにIEA(国際エネルギー機関)によると、世界全体の新車販売台数に占めるEV( BEVとPHEVの合計)の比率は2022年時点で14%だ。
各国の新車販売台数に占めるEV比率をみると、ノルウェー(88%)を筆頭に中国(29%)、ヨーロッパ全体(21%)、韓国(9.4%)、アメリカ(7.7%)、日本(3%)となり、世界の自動車産業をリードしてきた日本のEVシフトへの大きな出遅れが目立っている。
トヨタのEV車「bZ4X」(写真:gettyimages)
世界で初めてハイブリッド(HV、エンジンとモーターで駆動)車を造ったトヨタは、2023年のグループ世界販売実績が1123万台と過去最高を更新し、4年連続で世界一となった。
そのうちトヨタ単体のハイブリッド車は342万台、EVは前年比約4.3倍と増えたもののわずか10万台だった。なぜ、トヨタはEVをもっと造らないのだろうか。
「一つは『まだEVなんて』と思っているのではないでしょうか。ハイブリッドのもの凄い成功体験が強いのでしょう。だから、まだEVに本気ではないです。『bZ4X』(トヨタのEV車)とかもそうですけど、やっぱり本気で造っていないと思います。
でも本気でやろうと思えば、エンジニアの皆さんの能力はやはり高いので出来ると思います。しかし今のままでは、EVにおいて『時すでに遅し』の感があります。
エンジン車に加えて、HV、PHEV、EV、FCV(燃料電池車)を造るという“全方位”とも言えるトヨタのやり方は、深尾さんから見て正解なのだろうか。
「それは結果論としては『よかったね』となると思います。しかし、今本気でやるべきはEVです。EVをしっかりちゃんとやって、そしてエンジンもしっかりやって。
でもテスラやBYD(比亜迪)といったEVの新興勢が猛烈なスピードで世界拡販を進め、EVシフトという国際潮流が急速に進む中で、トヨタグループの活動におけるムリが(トヨタの子会社の)ダイハツや日野自動車、豊田自動織機(の品質不正問題)に出ちゃっています。全方位も含めて、いろんなところにやっぱりサプライ(供給)含めて負担を掛けてしまったわけです」
EVシフトに出遅れた日本の自動車産業が、生き残る道はあるのだろうか。
「生き残る道は、僕はまだあると思います。EVを自動車産業のプロダクト(商品)としてみるか、エネルギー産業の新しいバリュー(価値)を持ったプロダクトとしてみるかによって全然違います。前者だと衰退産業です。
(EVになると自動車の)部品点数が減り、付加価値を取り込みづらくなります。金額ベースで減ってきます。エネルギー産業で見ると、成長産業です。
再生可能エネルギー産業という新産業の一つのプロダクトでありサービス。再生可能エネルギーをEVは運んでくれるので、そこから新しいビジネスが出来ます」
つまりEVに対する今までの考え方を変える必要があるというのだ。
EVビジネスでは、サプライチェーン(原材料から部品を作り、部品を調達するという一連の流れ)の川上にあたる電池メーカーや、バリューチェーン(組み立てた車両を売った後の価値創造の一連の流れ)である川下でEVを活用したサービスを提供する企業の収益性が高い。それに比べて、EVを組み立てる従来の伝統的な自動車メーカーの収益性は極めて低いというのだ(図表参照)。
「『資源調達・資源循環』と『自動車産業』と『エネルギー』という産業の縦割りを取っ払って、自動車メーカー、自動車産業としては、『資源』に行くか『エネルギー』に行くかという新しい方法論を考えない以上はEVメーカー、EV産業として発展することはないと思います。
縦割りを取っ払って横串を刺すということですね。それが“再生可能エネルギー”です。あらゆるものを脱炭素化させて、そこに付加価値があるというのは、これはあらゆる産業において必要な新しい『価値づくり』なのです。
ボーダレスにいろんな産業と手を組んで再生可能エネルギーを調達して、それを普及させてと考えなければいけない。
EVを組立てた後に、どうやって儲けるか。EVをどう使ってお客さんに価値を提供するかということを考えなきゃいけない。
EVはガソリン車と違うのは、V2X(Vehicle-to-Everything、車とあらゆるモノを繋げる技術)で、車の中に蓄えられている電力を他の用途に使えます。蓄電池そのものも使用済みのものを定置型に使える。資源の循環というものを考える。資源にはエネルギーも入っています。
車だけじゃなくて、その人、世帯、家も含めて一連の生活を中心としたエコシステムの中でEVのことを捉えることができるので。EVを持っていることで生活がより豊かになるということを考えると、そこにサービスってありますよね。
EVを含めた新しい付加価値のビジネスとして、エネルギー・マネジメントだと思いますね。お客さんにとってのエネルギー・ソリューション(解決)・カンパニーみたいな形で、EVビジネスというものを考えていく必要があると思います」
中国「広州自動車2023」で展示された吉利の電気セダン「Zeekr 007」。(写真gettyimages)
さらにもう一つ、日本の自動車産業が重視すべきポイントは『中古車』だという。
「根本にあるのはブランド力だと思っています。すなわち中古車としての日本の車の価値を維持できるかどうかだと思っています。
中国を中心にEVが増えました。今、東南アジアでも増えています。まだEVを買う人たちとして、価値として見いだしていないのは残価率、中古車価格です。
日本車は残価率が高い。壊れにくい、安心ですよね。日本車だったら安心に使えるよねと。だから中古車は高いという、そういう流れが出てきているわけですけど。中国への対抗力というのは、日本車のブランド力が反映されている中古車価格、中古車市場だと僕は思っています。
それは必ずしもEVである必要はないですね。大きな流れはハイブリッド(HV)なんですけど、中国ではプラグイン・ハイブリッド(PHEV)の需要が大きく拡大しています。まだ充電インフラなどがまともに無いようなロシアとか中央アジアでバンバン売ってますね。
結局、今ジーリー(吉利汽車)もBYD(比亜迪)もEVよりも販売を大きく増やしているのはPHEVなんですよ。エンジンの開発ももの凄くやっています。
どういうことかというと、中国勢はEVではもうほとんど勝ちが決まっているようなものですけど、でもヨーロッパとかアメリカでは今EVがちょっとへたって来ています。
景気の要因もありますし、まだインフラが追いつけていないとなってくると、100%EVは難しいから、エンジン車も許してPHEVになるのですよ。そういう風になった時でも勝てるようにしているのが中国です」
<【後編】「トヨタは生き残り、ホンダは苦しくなる」…ここにきて明暗が分かれた「日本の自動車産業」の厳しい現実>では、“電池パスポート”や“データで稼ぐ”というEVビジネスの注目点と共に、日本のEVが今後進むべき方向について、深尾さんに聞いた。
春川 正明(ジャーナリスト)
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