( 146648 )  2024/03/07 14:15:27  
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入社してすぐ戦力になる新入社員もいれば、すぐやる気をなくす新人もいる。その違いとは?(写真:buritora/PIXTA) 

 

「優しく接していたら、成長できないと不安を持たれる」 

「成長を願って厳しくしたら、パワハラと言われる」 

ゆるくてもダメ、ブラックはもちろんダメな時代には、どのようなマネジメントが必要なのか。このたび、経営コンサルタントとして200社以上の経営者・マネジャーを支援した実績を持つ横山信弘氏が、部下を成長させつつ、良好な関係を保つ「ちょうどよいマネジメント」を解説した『若者に辞められると困るので、強く言えません:マネジャーの心の負担を減らす11のルール』を出版した。 

 

本記事では、会社に属しながらも、まるで退職したかのように最低限の仕事をこなす働き方=「静かな退職(Quiet Quitting)」をしてしまう新入社員の特徴を紹介する。新入社員が主体性をもって働くために上司がやるべきことは何か。書籍の内容に沿って解説していきたい。 

 

■上司も先輩も「静かな退職」者?  

 

 入社してすぐ戦力になる新入社員もいれば、すぐやる気をなくして「静かな退職」をする新人もいる。 

 

 「なんで、こうなるんだ!」 

 

 最も悔しいのは採用に関わった人事部のメンバーだろう。超売り手の新卒市場において、ようやく採用できた新入社員が「静かな退職」をしてしまうなんて。配属先では、どんな受け入れ方をしたのか?  強く残念がるに違いない。 

 

 そもそも「静かな退職」とは、どんな概念なのだろうか?  実のところアメリカのティックトッカーによって拡散された独特の概念だ。現在では世界中のZ世代で使われるようになった。 

 

 サッカー選手にたとえると、ボールが足元に来たら蹴るが、そうでなければ積極的にボールを追いかけたりしない。こんな姿勢ではないか。必要だと言われたらやる。しかし必要だと思わない仕事は積極的に手伝わない。試合に勝ちたい選手からしたら、たまったものではないだろう。 

 

 「静かな退職」といっても、何もやらずにぼーっと職場にいることを指すわけではない。会社のために汗はかかないし、出世のための自己研鑽はせず、淡々と言われたことだけをやる働き方のことだ。 

 

 それにしても、なぜZ世代の若者たちは、配属先の職場に失望し「静かな退職」を選択してしまうのだろうか?  日本企業の場合、理由は簡単だ。自分の上司や先輩も、実際には「静かな退職」者であるからだ。 

 

 言い訳ばかりで結果を出さない営業や、一向に生産性を上げようとしないデスクワーカーも同類かもしれない。いつまで経ってもITリテラシーを高めようとしないベテラン社員も「静かな退職」者と言えるだろう。 

 

 

 目の前の仕事さえこなせたらいいと考えている人は、日ごろの行動でわかる。わかりやすいのは、学習態度と言えるだろう。 

 

■未来に投資をしない「ゼロ勉強社会人」の多さ 

 

 リスキリングという言葉が浸透しはじめたのは2020年頃からだ。世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)において「リスキリング革命」という言葉が使われたことがきっかけである。 

 

 にもかかわらず、日本人の学習時間は驚くほど伸びていない。総務省統計局が2022年に実施した「社会生活基本調査」によると、社会人の勉強時間は平均1日13分だった。 

 

 衝撃的なのは、自己研鑽に関する調査結果だ(パーソル総合研究所の調査)。次の数字を見てもらいたい。 

 

<世界平均> 

・特に何も行っていない(18.0%) 

<日本> 

・特に何も行っていない(52.6%) 

 

 なんと、勤務先以外で自己研鑽に励む日本人は、50%もいないのである。 

 

・読書 

・研修・セミナー・勉強会へ参加 

・資格取得のための学習 

・通信教育・eラーニング 

・語学学習 

 これらも自己研鑽の項目に入っているのだから、文字通り「ゼロ勉強社会人」が5割以上もいる計算だ。 

 

 この「やる気のなさ」は世界最下位レベルである。 

 

■若者を失望させないために「変えるべき」こと 

 

 日本の労働生産性は世界30位(OECD加盟38カ国中)。デジタル競争力は32位(国際経営開発研究所が調べた63カ国中)に甘んじている。しかも年々低下傾向にある。 

 

 もちろん若者たちは、その事実を知っている。そしてそれが今のベテラン社員たちが招いたことも理解しているのだ。だからこそデジタル化の波に遅れ、いつまでも生産性の低い仕事をしていたら、若者からそっぽを向かれるのは間違いない。 

 

 実際に、3年以内に離職する新入社員の多くは「変わろうとしない上司、職場」に強い失望感を抱くという。 

 

 いろいろな事情があり、なかなか変われないこともあることは若者だって理解している。しかし、「変われない」のと「変わろうとしない」のとでは、大きな差がある。 

 

 もちろん、何でもかんでも新しいことを取り入れたらいいかというと、そうではない。 

 

 常に意識すべきは「不易流行」である。 

 

 不易流行とは、松尾芭蕉の、俳諧に対する考え方として有名だ。伝統を大切にしつつ、時代に応じて新しいものを取り入れていく姿勢のことだ。したがって「変えてはならないもの/変えるべきもの」の区別ができれば、それほど迷うことはない。 

 

 

 樹でたとえると、わかりやすい。樹を「幹・枝・葉」の3要素で分解し、それぞれの要素の意味合いをこう考えてみよう。 

 

 ・幹 = 目的、目標、あり方 

 

 ・枝 = 方針、戦略、考え方 

 

 ・葉 = 手段、行動、やり方 

 

 幹や枝は本質的な部分だ。どのような目的、目標があるのか、その目標を達成させるために、どのような方向性でやるのか。このあたりの考え方は、昔から変わらない。 

 

 変えるかどうか悩むのは、葉の部分である。つまり、「あり方」は変わらないが、「やり方」は時代によって変わる場合がある、ということだ。ここさえ押さえておけばいい。 

 

 若者に「静かな退職」をさせないためにも、上司や先輩から率先して変わろうとすることだ。情報感度を上げ、将来のための自己投資を続けるべきである。その姿勢が若者に希望を与え、組織にとって大きな戦力になるだろう。 

 

横山 信弘 :経営コラムニスト 

 

 

 
 

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