( 147193 )  2024/03/08 23:23:04  
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 道の駅や農産物の直売所に漬物を出品する農家が相次いで生産をやめている。食品衛生法の改正で漬物製造が保健所の許可制となり、6月以降は全ての生産者が厳しい衛生基準を満たさなければ販売できなくなるためだ。地域ならではの産品を守ろうと、支援に乗り出す自治体もある。(清家俊生、福永正樹) 

 

【写真】千枚漬、いぶりがっこ…各地の主な特産漬物 

 

直売所に並ぶ手作りの漬物。6月以降は出品する農家が減る可能性がある(2月21日、大阪府泉佐野市で)=吉野拓也撮影 

 

 改正食品衛生法は2021年6月に施行された。北海道で12年、地元の食品会社が生産した白菜の浅漬けを食べた子どもを含む8人が腸管出血性大腸菌O(オー)157による食中毒で死亡したことがきっかけになった。 

 

 漬物の製造に国際基準「HACCP(ハサップ)」に沿った衛生管理が義務づけられ、▽加工施設と住宅の分離▽指で触れないレバー式や自動の蛇口の設置――などを満たした上で、保健所の許可を得る必要がある。改正前から製造する事業者には、今年5月末まで3年間の経過措置が設けられた。 

 

 道の駅や直売所で売られる手作り漬物の大半は、農家が副業として自宅などで生産している。6月以降も続けるには、建物や設備を新設しなければならないケースがほとんどだ。 

 

 大阪府泉佐野市のJA大阪泉州が運営する農産物直売所「こーたり~な」。漬物コーナーには、地元の農家約20人が手作りした白菜や大根の品が並ぶ。昼過ぎには大半が売れるほど人気があるが、6月以降も出品するかを決めかねている人が多いという。 

 

(写真:読売新聞) 

 

 直売所に約20年間、収穫した水なすの浅漬けを納品してきた農家の女性(76)は、昨秋のシーズンを最後に漬物作りをやめた。多いときには1日100本ほど売れ、年間の売り上げは200万~300万円に上ったが、殺菌や消毒のための機械を導入するのに100万円単位の出費が必要になる。 

 

 女性は「年齢を考えるとこれ以上やろうと思えなかった。気に入って買ってくれていた人には申し訳ない」とため息をついた。 

 

 直売所の近くに住む主婦(75)は「漬物は生産者によって塩気や甘みが違う。選ぶ楽しみが減ってしまうのでは」と残念そうに話した。 

 

 

 紀州梅が特産の和歌山県田辺市では、梅干し作りをやめる農家が相次ぐ。同市の直売所「きてら」では、約10人の農家が梅干しや白菜の漬物を出品しているが、6月以降は出品者が3割ほどに激減する見込みという。 

 

 生産を続けてもらおうと、行政が費用を支援するなどの動きもある。 

 

 大根を薫製にした「いぶりがっこ」で知られる秋田県などは22年度から農家や農業団体に対し、製造に使う水道施設や冷蔵庫の導入費として最大1000万円の補助を始め、2年間で約130件を承認した。県農業経済課は「秋田の食文化に欠かせない郷土食を守る必要がある」としている。 

 

 約20のキムチ店が並ぶ大阪コリアタウン(大阪市生野区)では、法改正を加盟店に周知。今月7日時点で6店舗が大阪市保健所の営業許可を取得し、他の店舗も取得準備を進めている。 

 

 キムチ店「キムチのパクちゃん」は、作業場の流し台を増やすなどし、昨年5月に営業許可を得た。山本志暢(しのぶ)専務(50)は「食の安全が厳しく求められるのは当然だと思う。店内の清掃も徹底したい」と話す。 

 

 漬物の歴史に詳しい東京家政大大学院の宮尾茂雄客員教授は「漬物は各地域で脈々と伝わってきた日本の文化の一つだ。行政が共同作業所の整備を支援するなど継承のための工夫をしてほしい」と話している。 

 

 漬物の生産量は、米の消費量の落ち込みや減塩志向の広がりで減少している。 

 

 農林水産省の調査では、1991年の約120万トンから2017年には約69万トンまで減った。21年はコロナ禍で家庭での食事が増えたことなどから約82万トンに回復したが、かつての水準には届いていない。 

 

 

 
 

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