( 148444 ) 2024/03/12 14:52:59 0 00 Photo by iStock
---------- 「景気」とはいったい何なのか? 日本株投資で勝つために必要な考え方と投資戦略を明らかにした著書、『野生の経済学で読み解く投資の最適解』を発表した岡崎良介氏は、景気とは「成長と物価で構成されるもの」だと定義する。知っているようで知らない「景気」の正体について、同氏に解説していただいた。 ----------
【一覧を見る】運用資産1億円の投資家が保有する115銘柄を一挙公開…!
写真:現代ビジネス
最初に一枚のグラフを見ていただきたいと思います。専門家と称する人の説明やその時代時代で通説とされる考え方が、どれほどあてにならないものかを表しているグラフです。
1990年から2016年まで、日本の長期金利を代表する10年物国債利回りは延々と下がり続けました。その一方で、日本の財政赤字は延々と増え続けました。
いまの時代は財政赤字が金利に与える影響について語る人は少なくなりましたが、90年代においては、“財政赤字の拡大は金利を上昇させる”という説が有力で、“このまま赤字が増え続ければ、やがて政府が利払いができなくなるほどの金利の上昇圧力をもたらし、日本の経済はパンクし、日本の財政は破綻する”という財政赤字罪悪論を、大多数の識者は連日のように声高に叫んでいたのです。
ところが現実はまったく逆の結果となりました。いまの人たちがこのグラフを見たら、むしろ財政赤字が増えれば金利が下がる、などというトンデモ理論を生み出してしまうかもしれません。
Photo by iStock
実際、ついこのあいだまではMMT(Modern Monetary Theory=現代貨幣理論)という名の経済理論が世界中で幅を利かせていたのですが、この理論の主張するところは、通貨発行権を持つ国家は債務返済に充てる貨幣を自由につくれるのだから、「インフレにならない限り国債はいくら発行しても問題はない」、「財政赤字で国は破綻しない」、「財政再建などやらなくても良い」等といった、それまでの主流派と呼ばれる伝統的な経済学を学んだ人たちが眉をひそめるような考え方を、これまた声高に論じていました。
結局のところ経済学というものは、そもそも時代とともに進歩していく学問だけに、使い勝手がいいように拡大解釈されて、その政策を実行したほうが自分の利益となる人々に利用されていく傾向があるようです。
MMTの理論も日本を例にとれば、“インフレもなく金利が上がる気配もないほど景気が冷え切っているのだから、そんな状態なら財政赤字のことなど気にせずにどんどん国債を発行すればいい”という主張を、この理論を信奉する識者は論じていたのですが、そんな理論を引き合いに出さなくても先ほどのグラフを見るとおり、財政赤字が直接的に金利を上昇させる圧力とはならないことぐらい、現実の経済と市場がすでに教えてくれていました。
ちなみに、コロナ危機の後、世界中がインフレに襲われるなかで、このMMT理論はどこかに消えてなくなりました。
Photo by iStock
ではなぜ財政赤字の拡大が日本の金利の上昇に結び付かなかったのでしょう。むずかしく考える必要はありません。それは景気が悪かったからです。
財政赤字が増えたことを政府が大量に国債を発行して、公共投資を増やしすぎたからだと短絡的に考えるのは間違いです。それよりも1990年度には60.1兆円もあった税収が、2009年度には38.7兆円まで多少の変動はありながらも減り続けたことのほうが問題です。
ではなぜ税収は減り続けたのか。それもまた景気が悪かったからです。では景気とは何でしょう。これには諸説あるでしょうが、定義することをためらっていては、話は前に進みません。
そもそも『野生の経済学で読み解く投資の最適解』が目指すところは、そうした言葉の意味を正確に解明することではなく、これからの日本の姿を描いて見せることにありますから、ここは思い切って断定的に定義しておきましょう。
私は、景気は成長と物価の2つに要素分解できると考えています。つまり景気が良いとは成長の拡大と物価の上昇によってもたらされる、国全体の売上の増加です。企業もまた同じように、売上は数量と販売価格(=物価)の掛け算で成り立っていますから、つまるところ売上が景気です。
また、物価の上昇は賃金の上昇と表裏一体の関係を持っていますから、家計においては、景気は就業者数と賃金によって構成されているといっていいでしょう。ここから、家計においては景気が良いとは働く人が増えたり賃金が増えたりすることで、所得が増えることを意味します。
また政府・自治体においては、景気が良いとは税収が増えることを意味します。
つまり景気が良くなるというのは、数(販売の数量や働く人の数で、これが成長を測る尺度となります)が増えながら、同時に価格(販売価格や賃金です)が緩やかに上昇していくことで達成される国全体の売上の増加です。
ですから、数量が増えて成長だけが進んだとしても、それを打ち消すように価格や賃金が下がってしまえば、景気が良くなったという感触は一向に得られません。これがいわゆる、デフレ型経済成長の形です。長らく日本経済はこの形で進んできました。
反対に物価は上昇するのだけれど成長がマイナスになってしまう、というのが1970年代から80年代後半にかけて世界を苦しめたスタグフレーションです。蛇足ながら、成長もマイナス、物価もマイナスというのが、不況であり真正のデフレであることはいうまでもありません。
少し専門的な知識を持ち合わせている方は、ここで私が言わんとしていることが、“なんだ、景気とは名目GDPのことなのか”とお気づきになられたことでしょう。
そのとおりです、私が『野生の経済学で読み解く投資の最適解』で展開している経済モデルは、“景気とは成長と物価で構成される”という極めてシンプルな形で始まっており、後はこれを、時間軸を変えていくことで、現実の解明を試みています。
同時に、成長にしろ、景気にしろ、一般的には実質GDP(物価を除いて純粋に成長を測ろうとするもの)を使って分析しますが、現実には我々の所得も、消費も、株価も、金利も、為替も、不動産価格も、資産も、負債も、何もかもが“名目値”で表されています。
だとすればこうした現実の価値を考えるためには、“名目値”でまずは測る必要があり、それを加工し整理して検証することで、理屈だけでは発見できなかった“現実”の経済が見えてくると私は考えています。
岡崎 良介(金融ストラテジスト)
|
![]() |