( 149729 )  2024/03/16 13:32:02  
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高輪ゲートウェイ駅の無人コンビニ「TOUCH TO GO」。この店舗のように実用化された例はごくわずかだ Photo:PIXTA 

 

 「無人コンビニが普及し、手ぶらで決済できる時代が来る」。そんな報道が盛り上がったのも今は昔。無人コンビニが日本国内を席巻する日は未だ到来せず、実証実験ばかりが繰り返されている。それどころか「セルフレジ」すら使われず、有人のレジに客が並んでいる様子を目にすることも多い。なぜ無人コンビニはいつまでたっても普及しないのか。その背景にある「二つの理由」を明らかにする。(流通ジャーナリスト 森山真二) 

 

【画像】苦戦が続いている、米Amazonの無人店舗「Amazon Go」 

 

● 「無人コンビニ」が話題になってから 数年が経過したが… 

 

 なぜ、「無人コンビニ」の出店に弾みがつかないのか――。 

 

 日本では7~8年ほど前から、無人コンビニの「実証実験開始」といったニュースをチラホラ聞くようになった。細かな仕組みは企業ごとに異なるが、客がキャッシュレス決済のアカウント情報を事前に登録してから入店すると、人工知能(AI)・カメラ・センサーなどによって「いつ・誰が・どこから・どの商品を取ったか」を識別。自動で決済が完了するというのが大まかな流れだ。 

 

 客にとっては、店員と顔を合わせる必要がなく、「セルフレジ」のように自分で決済する手間も生じない。「レジ待ち」という概念もなくなる。店舗側にとっても、オペレーションの効率化につながる。実用化すれば、客と店の双方にとっていいことづくめだ。 

 

 そんな無人コンビニは当初「東京五輪までの実用化を目指す」といった発表や報道がなされ、しばらくすると「新型コロナウイルスの感染防止に役立つ」と期待を集めた。あるコンビニチェーンの担当者が、「レジ無し店舗の正確性は90%超で、(人物や商品を)ほぼ正しく認識できます」と自信たっぷりに胸を張っていたこともある。 

 

 筆者も「関係者がそう言うなら、無人店舗は普及が進むだろう」と見ていた。だが、4年たっても5年たっても一向に進展しない。東京五輪は延期された末に開催され、新型コロナは「5類」に移行してしまった。今もコンビニ各社では実験が進んでいるものの、全国展開にはほど遠い現状だ。実用化されている店舗はごくわずかである。 

 

 それどころか、業界で最も先進的だとされてきた、米Amazonの無人店舗「Amazon Go」ですら閉店が相次いでいる。もともと2018年に米シアトルに1号店をオープンし、21年までに3000店舗を展開すると意気込んでいたが、現在は20数店舗にとどまっている。 

 

 なぜ無人コンビニは普及しないのか。国内のコンビニ関係者に取材したところ、二つの答えが見えてきた。 

 

 

● 「レジは店員に打ってほしい」 根強い客の固定概念 

 

 無人コンビニが普及しない理由の一つ目は、極めてシンプル。「客側がどうしても慣れない」というものだ。 

 

 コンビニやスーパーで、なぜかセルフレジはガラガラに空いている一方で、有人レジだけが混んでいる光景を見たことはないだろうか。 

 

 この例からも分かる通り、どうしても消費者の頭の中には「会計は手慣れたレジ係の人がやるべき」「そちらの方が早いし、間違いがない」という固定概念が根強くあるようだ。「ヘタにセルフレジを使って、うまくバーコードを読み取れずに戸惑い、後に並んでいる人に迷惑をかけてはいけない」いう思いもよぎる。だからこそ、客は有人レジに並ぶといえる。 

 

 これと似た構図で、無人コンビニに対してもどことなく抵抗感を持ち、「レジは店員に打ってほしい」「機械よりも人間の方が正確」という固定概念を持つ一般消費者は根強く存在する。「自販機を並べたような店舗で買い物をしたくない」「人間の匂いがする店舗がいい」という意見もあると聞く。 

 

 また、最近は技術が進歩して見かけることが減ったが、実は5~6年前まで、無人コンビニの実験店舗では天井などから無数のカメラがぶら下がっていた。冒頭で述べた仕組みで顧客の顔や商品を識別し、AIで分析するには、大量のカメラが必要だったからだ。 

 

 慣れてしまえばいいが、一挙手一投足を監視されるのは、客にとってあまり気分がいいものではない。運営側の小売事業者やシステムを提供するIT事業者も、その課題に気付いてカメラやシステムの改良を進め、台数を減らしたとみられる。 

 

 だがそれでも、従来の監視カメラとは比較にならない高精度で人の動きを追うことは確かだ。不快感を覚える客はゼロにはならない。そのため運営側にとっては「設備投資額の割にCS(顧客満足度)が上がらない」といった課題がつきまとうのだ。カメラの台数を減らした最新式のシステムはコストが高く、「結局はレジ係を採用した方が安上がり」というケースもあろう。 

 

 

● 「現金派」は無人コンビニの メリットを享受できず 

 

 無人コンビニが普及しない理由の二つ目は、「日本ではキャッシュレス決済の普及率がまだまだ低い」というものだ。 

 

 冒頭で述べた通り、無人コンビニはキャッシュレス決済の利用を前提としている。一般的なコンビニとは異なり「現金派」は買い物ができない。大手コンビニ幹部も「(無人コンビニの普及には)1にも2にもキャッシュレス決済が進むかどうかだ」と語る。 

 

 だが経済産業省の試算によると、2022年の「民間最終消費支出」におけるキャッシュレス決済比率は全体の36.0%にとどまった。 内訳はクレジットカードが30.4%、コード決済が2.6%、電子マネーが2.0%、デビットカードが1.0%となっている。 

 

 一方、キャッシュレス推進協議会によると、21年における韓国のキャッシュレス決済比率は95.3%、中国は83.8%、オーストラリアは72.8%――という結果で、日本の水準を大きく上回った。ちなみに、「Amazon Go」が苦戦する米国は53.2%だった。 

 

 日本では少しずつキャッシュレス決済比率が上がっているものの、「お金の感覚が麻痺して、ついつい浪費しそう」「個人に紐づく購買データを取られたくない」「セキュリティ面が不安」といったマイナスイメージがつきまとうためか、未だに他国よりも「現金派」が多いのが現状だ。 

 

 「顔パス」さながらに、財布を持たず手ぶらで決済できるのが無人コンビニのメリットだが、それを逆に「デメリット」だと感じる人がいることが、普及の妨げになっているのである。 

 

 これに対し、コンビニの運営側が無人店舗に対して「話題作りのためにやっている」「本当は今のままでいい」と考えているわけでは決してない。前述した「二つの課題」やコスト面の課題が解決すれば、むしろ「こんなにいいものはない」(あるコンビニチェーン幹部)と実用化を心待ちにしているという。 

 

 その大きな要因は、店舗出店の幅が広がるからだ。これまでは費用対効果の観点から進出を見合わせていたような、工場や郊外の物流センターの内部にも出店できる。企業の福利厚生の一環として、オフィス内への出店を加速することも可能になる。レジ要員を雇わなくても済むため、たとえ日販(一日当たりの売上高)が40万円~10万円台と低くても、出店場所を工夫して効率良く運営すれば利益を出すこともできる。 

 

 

 また、AIに「要注意人物」の顔を学習させることで、万引きの被害を防げるというメリットもある。警察庁が発表した「刑法犯に関する統計資料」によると、22年に万引きで検挙された人数は4万5826人。万引き犯が検挙されるケースは全体の1割とも言われており、万引きの被害に遭っている小売店は数十万店に上ってもおかしくない。その件数を大幅に減らせるのであれば、コンビニを無人化する意義は大きい。 

 

 しかし、提供する側が「これは良い」と思っていても、消費者がそう捉えるとは限らないのが小売業の難しいところだ。 

 

● 「革命が起きる」と言われたが 実現はまだまだ先か 

 

 無人コンビニとは別の例を挙げると、中堅コンビニチェーンのミニストップは店内でコメを炊き、出来立てのごはんでおにぎりをつくる「手づくりシリーズ」を展開して大手と差別化を図っている。だが、同シリーズは爆発的なヒットや認知度獲得には至っていない。 

 

 コメを炊くための重装備が、出店加速や店舗運営の「足かせ」になっているという話も聞く。昨今の客が「人によるあたたかい接客」を望んでいるとはいえ、「過ぎたるは猶及ばざるが如し」であり、何事もほどほどがちょうど良いのかもしれない。 

 

 そのためか、最近のコンビニやスーパーでは、商品のスキャンだけを手慣れている従業員が担当し、決済は客自身が行う「ハイブリッド式レジ」が台頭している。有人レジとセルフレジの「いいとこ取り」をしたような仕組みだ。ただ、高性能なAI・センサー・カメラなどを使っているわけではなく、決済の仕組みとして進化しているのかは分からない。 

 

 今後の一般消費者は、ハイブリッド式レジなどに「寄り道」をしながら、無人コンビニへの理解やキャッシュレス決済の利用をじわじわと進めていくのだろうか。いずれにせよ、このペースでは「二つの課題」の解決はまだまだ先になりそうだ。無人コンビニの実証実験が始まった頃は「コンビニに革命が起きる」と言われたが、蓋を開けてみれば、中身はこんなものである。 

 

森山真二 

 

 

 
 

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