( 150025 )  2024/03/17 13:07:51  
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札幌ドーム(写真:筆者撮影) 

 

 2023年から北海道日本ハムファイターズの本拠地となった北広島市の「エスコンフィールド北海道」を運営するファイターズスポーツ&エンターテイメントは、売り上げが251億円となり、札幌ドーム時代の前年より91億円の増収となったと発表した。 

 

【写真】周辺開発が進むエスコンフィールド北海道 

 

 入場料収入、広告収入に加え、試合のない日の来場者による飲食、物販収入もあり大幅な増収となった。関係者からは「もっと早く移転すればよかった」という声も聞かれる。 

 

■「ネーミングライツ」の応募もない札幌ドーム 

 

 対照的に札幌ドームは苦境を伝える報道が相次いでいる。ファイターズが去った昨年、ドーム側は新たな需要を喚起するためドーム内を半分に仕切った「新モード」を発表。場内を仕切る高さ30mの暗幕などの設備に約10億円を拠出したと言われるが、この新モードは札幌ドームが主催したパブリックビューイングなどに使われただけで、実質的に利用者がなかった。 

 

 ファイターズ人気でついていたスポンサー看板はすべて撤去された。当然ながら、稼働日数は激減した。ファイターズの撤退に加えて、毎年コンサートをしていた人気アイドルグループ「嵐」の活動休止も痛かったと思われる。 

 

 さらに、こうした苦境を脱するために札幌ドーム側は「ネーミングライツ」を募集した。年間2.5億円で複数年という条件だったが、問い合わせた企業はあったもののこれまで応募はなし。2月29日を締め切りとしていたが、ドーム側は「応募があるまで受け付ける」とした。 

 

 筆者は、日本ハム球団と打ち合わせをするために、何度か札幌ドームに足を運んだ。一昨年まで、球団事務所は札幌ドームに隣接するビル内にあったのだ。冬季、雪を踏み分けて事務所に入ったこともある。 

 

 札幌ドームには、地下鉄福住駅を降りてから徒歩で十数分だが、地下通路の両側には北海道日本ハムファイターズと、コンサドーレ札幌というこの施設を本拠とする2つのプロチームの選手や球団のチームや選手の装飾がきっちり50%ずつの割合で表示されていた。 

 

 札幌を代表する両チームの本拠であることを表現していたのだろう。お役所的にはそれでいいのかもしれないが、球場使用料は1日約831万円と言われる。単純計算すれば、年間71~72試合を行う日本ハムはこれだけで5.9億円を支払っていることになるが、コンサドーレは17試合だから1.4億円にすぎない。一説には日本ハムは全部含めれば13億円を札幌ドームに支払っていたという話もある。 

 

 

 「売り上げの大きさで言ったら、五分五分というのは納得いかない気持ちもあるんですけどね」とあるファイターズの営業担当者から聞いたことがある。 

 

■観客動員数は増えたが経営状況は厳しかった 

 

 札幌ドームは2002年の「FIFAワールドカップ」の開催に名乗りを上げるために建設されたが、その後の経営を安定させるために日本ハムファイターズを誘致。東京ドームでの観客動員が伸び悩む日本ハム側と利害が一致して、2004年、札幌ドームへの本拠地移転が決まった。 

 

 日本ハムは札幌ドームに移転してから、北海道を独自のフランチャイズとして開拓。東京ドーム最終年の2003年は、131.9万人だった観客動員数は、移転1年目には161.6万人と増加した。日本ハムの事例は、本拠地移転による成功例とされた。 

 

 しかしながら、経営状況は厳しかった。FA制度の導入以降、選手年俸は上昇の一途をたどった。また、ファンクラブの構築などマーケティングや営業コストもかかったからだ。 

 

 日本のプロ野球は、1954年の「職業野球団に対して支出した広告宣伝費等の取扱について」という国税庁通達によって、プロ野球チームが出した赤字を親会社が補填した場合は「広告宣伝費」扱いとなって税制的に優遇されていた。しかし、それでも人気のないパ・リーグチームの経営は厳しかった。 

 

 おりしもこの2004年に起こった「球界再編」騒動は、赤字に苦しむ近鉄がオリックスと合併するなどして、2リーグ12球団を1リーグ10球団にするという経営側の意向に端を発している。プロ野球選手会のストライキなどで、経営者の意図は挫かれ、楽天の新規参入もあって、2リーグ12球団は維持された。 

 

■指定管理者制度を最初に活用したマリーンズ 

 

 しかしこの時期から特にパ・リーグで経営改革が次々と行われるようになる。リピーターを増やすためのファンクラブの改革や、ネットでのチケット販売、応援団の再編などもそうだが、最大のものが球団の「指定管理者」への移行だった。 

 

 

 2003年、小泉純一郎内閣の「骨太の改革」の一環として「指定管理者制度」が導入された。従来は公施設の管理業務は、地方公共団体が出資する法人や公共的団体、第3セクターなどに限定されていたが、小泉改革によって、株式会社などの営利企業・財団法人・NPO法人・市民グループなど「法人その他の団体」に包括的に代行させることができるようになった。 

 

 プロ野球でこの指定管理者制度を最初に活用したのが千葉ロッテマリーンズだった。本拠地の「千葉マリンスタジアム(現ZOZOマリンスタジアム)」は、当初第3セクターが指定管理者になり、マリーンズは球場使用料を支払っていたが、2006年に球団が指定管理者になった。 

 

 「指定管理者」は、一般的には地方公共団体から指定管理者が委託料を受け取って管理、運営を任されるが、マリーンズの場合、球場の使用権だけでなく施設維持管理・受付・貸出業務・公演なども含めた契約になっている。マリーンズは試合興行のほか、球場内での飲食、物販、広告看板の販売など包括的なビジネスができるようになり、経営状況は大幅に改善された。 

 

 MLBでは市や州が球場を建設してプロ野球チームに無償、あるいは低額で貸与してビジネスをさせ、町の活性化や税収増につなげるビジネスが一般化している。ニューヨーク・ヤンキースもニューヨーク市が建てたヤンキースタジアムを本拠地にしているが、マリーンズの場合、それに近い形だと言えよう。 

 

 マリーンズに倣って多くの球団が、本拠地球場を「借りて使う球場」から「自前の球場」にするよう球場を所有する公共団体に働きかけるようになった。本拠地球場と球団との関係は、個々に違っているが、ただ高い使用料を払うだけの「大家と店子」の関係のままの球団は次第に少なくなっていった。 

 

■第3セクターが指定管理者の札幌ドーム 

 

 しかし札幌ドームは、依然として市や地元財界が出資する第3セクターの株式会社札幌ドームが指定管理者だ。ファイターズは、再三、指定管理者にするようドーム側と交渉をしたが、はねつけられてきた。 

 

 

 他球団の場合、球団が球場内の広告看板をスポンサーに販売したり、球団プロデュースの飲食店、物販店を球場内に出店して収入を上げるなど球場を「コンテンツ」として最大限に活用することができたのだが、ファイターズの場合、毎試合球場使用料を支払ったうえに、広告看板や場内の飲食物販の収入もドーム側に握られていた。ファイターズという存在がなければ、こうした収益はありえなかったのだが。 

 

 ファイターズは21世紀に入ってから、ダルビッシュ有、大谷翔平をはじめとするスター選手を輩出したが、活躍して年俸が上がると球団は彼らを放出した。その背景には、球団の経営が札幌ドームとの契約によって圧迫されていた、という部分もあったのだ。 

 

 2016年にファイターズは北海道で独自に球場を建設することを決定した。当初、新球場の予定地には札幌市も含まれていたが、札幌市に隣接する北広島市のアプローチもあり、北広島市に決定した。 

 

 2023年開場した、新球場エスコンフィールド北海道は、最新の「ボールパーク構想」に則った開閉式のドーム球場であり、飲食、物販などの施設も充実、周辺開発も進み、ドーム球場を核とする「新たな街づくり」と言ってもいい規模になりつつある。 

 

 対照的に札幌ドームは「開閉会式会場に」との期待もあった札幌冬季五輪も頓挫。ネーミングライツも不発となっている。 

 

 札幌市の収支見通しでは、2023年度決算では純損益2億9400万円の赤字となるものの、2024年度には黒字転換し、トータルの収支は900万円の黒字を確保するとしている。しかし毎日新聞の報道によると、3月14日の市議会第1回定例会第2部予算特別委員会で、2023年度は想定よりも赤字幅が拡大する見通しと明かされた。今のところ打つ手はことごとく裏目に出ている。 

 

■思い出す「大阪ドーム」にまつわる迷走劇 

 

 関西在住の筆者は「大阪ドーム」にまつわる迷走劇を思い出す。関西財界の意向で1997年に開業した大阪ドームは、第3セクターの株式会社大阪シティドームによって運営された。周辺には商業施設も作られ、新たな賑わいが創出されるかと思われたが、本拠とした近鉄バファローズの観客動員は伸び悩み、球場使用料の負担にもあえいだ挙句「球界再編」でオリックス・ブルーウェーブと合併してしまう。 

 

 

 
 

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