( 150240 )  2024/03/17 23:58:51  
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日本人が質問下手になっていることに大きな影響を及ぼしている要因とは(写真:Graphs/PIXTA) 

 

目に見える事象(What)の「向こう側」には、必ず目に見えない理由や背景(Why)があります。ビジネスコンサルタントの細谷功氏は、Whyを考えることこそが「思考する」ということであり、Whatのレベルで「言われた通り」「マニュアル通り」「前例通り」の行動をとるのは思考停止でありと指摘します。では、どうすればWhyのレベルで考えることができるのでしょうか?  細谷氏の著書『Why型思考トレーニング』の内容を一部抜粋・再構成のうえ、ご紹介します。 

 

■「質問できるのは今のうちだけだぞ」の真意は?  

 

 OJTということで一つ思い出す言葉があります。それは、新入社員に対して使われる言葉です。私もよく言われた経験がありますし、逆に言った経験も何度もあるような気がします。 

 

 その言葉とは、「質問できるのは今のうちだけだぞ」というものです。読者の皆さんにも心当たりがあるのではないでしょうか。 

 

 大体新入社員というのは、仕事のはじめについた先輩から多かれ少なかれこの種の言葉をかけられます。その意図というのは「後になったら恥ずかしくて聞けなくなるから、今のうちにたくさん聞いておきなさい」ということですが、皆さんはこの言葉の本当の意味を考えてみたことがありますか?  「なぜ」質問は今しかできなくて、後ですると恥ずかしいのでしょうか。 

 

 私は、日本のビジネスの現場が伝統的に行ってきたのがWhat型の人材育成であることを非常に端的に物語っているのがこの言葉だと思っています。 

 

 実は職場での何気ない「質問」にもWhat型の質問とWhy型の質問の2通りがあるのです。 

 

 まずWhat型の質問とは、文字通り「○○って何ですか?」とか、「○○ってどこにありますか?」、あるいは「××さんて誰ですか?」といった、正解があってそれがたいていの場合簡単な名詞か短文で答えられる、言い換えれば選択式のクイズにできるような質問のことです。 

 

 

■What型の質問とWhy型の質問の違い 

 

 厳密に言えば2番目の質問の疑問詞はWhere、3番目の質問の疑問詞はWhoとなりますが、これらは全て「What型の質問」ということにします。 

 

 続いてWhy型というのは「どうしてこうなっているのか?」とか「なぜそういう計画なのか?」といった、文字通り「なぜ?」という理由や背景を問う質問のことです。 

 

 ここで、先ほどの「今だけしかできない質問」とはこれら2つのうち、どちらの質問か考えてみてください。明らかにWhat型の質問であることがわかるでしょう。 

 

 「経費の承認は誰に申請すればいいんですか?」とか「うちの会社ってどこに工場があるんですか?」といった質問は、確かに入社して5年もしてからしたら恥ずかしい質問と言えるでしょう。 

 

 つまり、OJTの世界で暗黙のうちに想定しているのはWhat型の質問ということなのです。 

 

 これまでの日本の会社(あるいはビジネスに限らず社会全般)では「なぜ?」と聞くこと、つまりWhy型の質問はあまり歓迎されませんでした。たとえば先輩からの仕事の指示に対して(たとえそれが単純に「理由を聞きたい」だけだったとしても)「なぜこれをやる必要があるんですか?」などと言えば、「つべこべ言わずにとにかくやれ!」ということになったでしょう。これ以外でもとかく「なぜ?」という質問はいい大人がすると煙たがられる質問でした。 

 

 ところが今求められているのがまさにこの「なぜ?」という質問なのです。 

 

 「なぜ?」というのは思考回路を起動するパスワードのようなものです。「なぜ?」を封印させるということは思考停止の強制を意味します。今改めてWhy型思考を導入する上でこの「悪習」にチャレンジしたいと思います。 

 

 What型の質問、Why型の質問というのが性質が異なるということは前項でおわかりいただけたのではないかと思います。 

 

 「性質が異なる」ということを見たときに、ここで一つ指摘しておきたいのが、「当たり前の質問」というものの位置づけです。当たり前の事象についてのWhat型の質問というのは「愚か者がすること」ですが、反対に当たり前のことに対してのWhy型の質問というのは極めて本質的なものになるのです。 

 

 

■「当たり前の質問」が、実は深いWhy型の質問になる 

 

 例を見てみましょう。 

 

例① 

 What型質問① 「空の色は何色?」 

 Why型質問① 「空が青いのはなぜ?」 

  

例② 

 What型質問② 「うちの会社の社長は誰?」 

 Why型質問② 「うちの会社の社長が○○さんなのはなぜ?」 

 ①、②とも、What型の質問を改めて身の回りにすれば「あの人一体どうしちゃったの?」ということになるかと思います。 

 

 ではWhy型の質問はどうでしょうか?  

 

 ①については、物理現象などについてかなりの理解がなければ説明することはできないでしょう。「空が青い」という誰でも知っている事実に関しての「Why?」という投げかけは、実に深いものになります。 

 

 続いてWhy型質問②を見てみましょう。 

 

 職場でこの質問がされるとすれば、恐らく「あの人は社長に適任ではない」ことの反語表現として用いられることが多いのではないでしょうか。ここでは「文字通りの」意味を考えてみると、極めて本質的なことが浮かび上がってきます。 

 

 「なぜ○○さんが社長なのか?」を問うてみることはその会社の出自やカルチャー、あるいは今の置かれた状況をあぶり出すことになります。その人は創業者なのか?  そうであれば「なぜ」今の事業を始めたのか?   

 

 「なぜ」別の事業ではだめだったのか?  その人は総務・人事・企画部門出身なのか、あるいは営業部門出身なのかの問いからは、その会社が「管理中心」の大会社なのか、あるいは「営業中心」の会社なのか、はたまた技術部門出身であれば技術をコアとする会社なのかといったことがわかるでしょう。 

 

 そして現社長は「花形部門」を歩いてきたのか、あるいは「裏街道」を歩んできたのかを見れば、会社が直面する課題や向かおうとしている方向性(既存路線の延長なのか、抜本的なパラダイムシフトが必要なのか)もわかってくるでしょう。 

 

 このように、Why型の質問というのは一見誰もが疑いもしない疑問であればあるほど本質的な疑問を投げかけ、課題の深層に入っていくことができるのです。 

 

 今私たちに求められているのは、こういった「Why型の当たり前の質問」なのではないかと思います。日本人は学校教育時代から質問が苦手です。これは伝統的What型教育のなせるわざであるところが大きいと思いますが、Why型思考を身につけていく上で必ず越えなければならないハードルではないかと思います。 

 

 

 一見子供じみた質問を一笑に付さずに真剣にゼロベースで考える力というのが、これからますます必要になってくるでしょう。 

 

■なぜ日本人は質問が苦手なのか?  

 

 ここで「なぜ日本人は質問が苦手なのか?」ということを考えてみます。 

 

 まず、もともと日本人は比較的見知らぬ集団に入ると寡黙になるという「ムラ意識」というのが影響していることは間違いないでしょう。「国際会議で難しいのはインド人を黙らせることと日本人をしゃべらせることだ」というよく言われる話(ジョーク)も、この一面を表しています。 

 

 こうしたベースとなる理由に加えて、ここではWhy型/What型という観点でこの疑問を解明してみたいと思います。 

 

 What型の質問とWhy型の質問の特徴は、まとめれば「What型質問は愚か者がすること」であり、「Why型質問は本質を解明するためのきっかけになる」(質問しないのは思考停止と同じ)ということでした。 

 

 知識詰め込みのWhat型教育で質問をするということは、ちゃんと聞いていなかったか、頭に入れられなかったかのどちらかですから、質問することは基本的に後ろ向きかつ恥ずかしいことになります。 

 

 これに対してWhy型の質問というのは、ここが全てのスタートで、考えるという行為の第一歩であるというのはこれまで述べてきた通りです。こうした点を考慮しても、日本人の質問下手の大きな要因としてWhat型教育の影響が大きいのは間違いないと思います。 

 

 それに加えて、「What型教育は一方向でもよいが、Why型教育は双方向でなければならない」ということもあるでしょう。What型教育では、最悪、教える側が一方的にしゃべりまくれば一定の目的は達せられたことになりますから、そこでたとえ質問がなくても問題はないわけですが、Why型教育というのは双方向ですから、質問がないという状態が放置されることはないはずです。 

 

 Why型/What型の観点から見ると、これら二つの要因が日本人が質問下手になっていることに大きな影響を及ぼしていると結論づけられるでしょう。 

 

細谷 功 :ビジネスコンサルタント、著述家 

 

 

 
 

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