( 150720 )  2024/03/19 14:16:56  
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兵庫県の斎藤元彦知事(右)に青森県産リンゴなどをPRする宮下宗一郎・青森県知事(写真:毎日新聞社/アフロ) 

 

 4月1日にトラックドライバーの残業規制が強化されるのに伴い、ドライバーの1日の拘束時間の上限も「最大16時間」から「最大15時間」に引き下げられる。青森県の宮下宗一郎知事は、県の特産品であるリンゴを1日で東京に運べなくなるとして、拘束時間の上限を緩和するよう国に特例措置を要望した。全国一律に規制するのではなく、各地域の実情を考慮してほしいと訴える。胸中を聞いた。 

 

【関連画像】1979年青森県むつ市生まれ。東北大学法学部卒業後、2003年国土交通省入省。外務省出向(在ニューヨーク総領事館領事)などを経て、14年むつ市長。23年6月から現職(写真:尾苗清) 

 

青森から東京の豊洲市場や大田市場に届けようと思うと、15時間だとやっぱり厳しいですか。 

 

宮下宗一郎・青森県知事(以下、宮下氏):厳しいですね。運転時間そのものが9~10時間かかり、法定の休息時間に荷受け、荷下ろしなどの時間もあります。実際に試算もしてみました。朝8時に出庫し、午前中に3カ所の荷主を回ってリンゴを積み込み、休憩を挟みながら東北自動車道を走ります。荷下ろしが完了するのは午前0時。拘束時間は16時間になります。 

 

 地図を見れば一目瞭然ですが、東京と青森は(直線距離で約580キロと)大きく離れています。この物理的な距離はなかなか埋められない。青森県はドライバーの需給ギャップが特に深刻です。野村総合研究所の予測によると、2030年には44%もの貨物が運べなくなる可能性があり、(35%の)全国平均を大きく上回っています。青森県にとっては結構、死活問題です。 

 

国に特例措置を求めた理由を改めて聞かせてください。 

 

宮下氏:やっぱり分かってほしいですよね。私たちの地域性というのを。労働規制だということで始まっているんですが、我々にしてみれば、産業構造の転換だと思うんですよ。今回の2024年問題は。だからそこを理解してほしい。 

 

 特例措置をずっと続けてほしいというわけではないんです。十分な準備期間があっただろうという人もいますが、確かに物流業界で体力のある大手企業は、様々な取り組みができるでしょう。ですが、中小・零細企業でトラックが10台とかそういう規模で事業をやっている人たちはなかなか対策は取れないんですよ。そうしたことにも配慮してほしいということですね。 

 

●1日で運べるところが2日に 

 

産業構造の転換ということですが、青森県にとってはやはり農業、漁業への影響が大きいのでしょうか。 

 

宮下氏:1次産業ですよね。1次産業は鮮度が勝負ですし、さらにはやっぱりコストの問題です。今まで以上にコストがかかるとなると生産品の競争力が落ちるので、そこはすごく懸念しています。 

 

 1日で運べるところを2日にするわけですから、2倍ということまでいくかどうか分からないですけど、その分コストがかかります。 

 

 誤解のないように申し上げておきますと、「ホワイト物流」は推進されるべきことだと思います。今までの日本の物流は、トラックドライバーの非効率な働き方に支えられてきた部分がすごくあると思うんですよ。ドライバーの処遇が改善されることはすごく大切なことだと思います。 

 

 ただ一方で、青森県の場合は、2024年問題の対応がドライバーにとってマイナスになる可能性すらあるわけです。中小企業が事業を継続できなくなって廃業に追い込まれたり、ドライバーが職を失ったりということがある。 

 

 急いで運ぼうとすると、安全性が確保されないリスクが出てきます。荷物の出し入れを急いだりしても事故のもとですよね。 

 

 だから本当にドライバーのための改革になっているかは、地域によって違うと思うんですよ。首都圏で1日8時間労働して、それをなりわいとするドライバーだとしたら、すごくいい改革になっていると思うんですが、超長距離を前提にして、それをなりわいにしているドライバーだと、むしろマイナスです。 

 

 本当の意味で日本が多様な働き方というものを推進するならば、一生懸命働きたいという人たちのニーズにも応えるべきだと思います。現場からは、なんで自分たちの収入が減ることをするんだという話が耳に入ってきます。 

 

 

地産地消や、東北他県など近隣への輸送を拡大するという手は考えられませんか。 

 

宮下氏:いや、そんなの絶対無理です。そんな机上の空論で経済は動かない。そもそも商売のルートというのは、何十年もかけて確立されたものがあるわけですよ。 

 

 津軽のリンゴは2月ごろに出荷のピークを迎えます。そのときに、大田市場や大阪の中央卸売市場にこれだけ出荷しますとなっている。それが首都圏などのスーパーに並んでいくという話でしょう。仮に地産地消してくださいなんて言ったって、そんな量を消費できるわけがないので。だから、今までのルートをちゃんと確保する物流をしない限り、経済が衰退していくということになります。 

 

最近は、JR東日本の「はこビュン」など鉄道輸送も整い始めています。 

 

宮下氏:いや、それでどれだけリンゴを運んでいるかという話ですよ。青森のリンゴは日本の生産量の6割ぐらいを占めている。確かに地域でも食べてはいますが、その大半は(日本全国の)皆さんの食卓に並んでいる。 

 

どちらかというと、鮮度よりもコストがオンされることが大きいようですね。それによってリンゴの店頭価格が上がるかもしれない。 

 

宮下氏:そうそう。リンゴは国民食ですが、ミカンに勝てなくなってくるかもしれない。 

 

 スーパーに行くと必ず、入り口のそばにリンゴがあるわけじゃないですか。リンゴかミカンがあるわけじゃないですか。ミカンの方が100円安ければ、みんなミカンにいくわけでしょ。その勝負をいつもしているのに、この超長距離の物流でコストがプラスアルファになるのは大きい。物流のコストがオンされたら、だいぶ競争力が下がると思いますね。 

 

 これから2%ぐらいのマイルドなインフレが続いていくと、おそらく実質賃金も追いついていく好循環に向かっていくと思います。ですが、30年にわたって消費者に染みついたデフレマインドはそう簡単には拭えないでしょう。 

 

 だからスーパーの店頭で選ばれるためには、1円でも安いということがすごく大事です。おいしいことも大事ですけど、2024年問題によって価格競争力が落ちてしまうのは、ものすごい理不尽だと思うんですよ。 

 

青森県としてできることはしていきますか。 

 

宮下氏:結局、国を頼りにしていても、あまり話が進まないということはよく分かってきたので、パレットの規格統一とか、物流の拠点をつくることについて、自分たちでできることはやろうと考えています。 

 

 私は日本経済の底力とか奥行きの深さというのは、零細企業が支えていると思うんですよ。そういうのがなくなってくると、日本の力強さというのは、経済の力強さというのは、なくなってくると思うのです。労働規制がそれをぶち壊すというのは何とか避けたいですよね。 

 

酒井 大輔 

 

 

 
 

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