( 151020 )  2024/03/20 13:20:48  
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津地方裁判所=2024年2月26日午前10時43分、津市中央、山本知弘撮影 

 

 生活保護の支給をめぐり、行政側が自動車の利用状況を受給者に報告させることは法的に許されるのか。この点が争われた訴訟の判決が21日、津地裁で言い渡される。地方での暮らしに車が欠かせなくなるなか、車の保有・利用を原則として認めていない現行の生活保護制度は時代にそぐわないとの指摘もある。司法の判断が注目される。 

 

 原告は三重県鈴鹿市で暮らす女性(81)と次男(56)。女性は膀胱(ぼうこう)がんを患って長い距離を歩けず、次男も脳からのホルモン分泌が低下する難病を抱える。2019年10月に生活保護を受け始め、市は21年7月に「次男の通院」に限って車の保有と利用を認めた。その要件として、車の運転経路や用件、同乗者の氏名などの記録を出すよう要求。だが、繰り返しの指導に女性らが従わなかったために市は22年9月に生活保護の支給を取り消す処分を出した。 

 

 女性らはこの処分に反発。同年10月に運転記録の提出は憲法が保障する「移動の自由」に違反するなどとして、市を相手取って処分の取り消しと110万円の損害賠償を求める訴えを起こした。 

 

■司法の判断、焦点は? 

 

 現行制度では、通院や通勤に当たり公共交通機関の利用が著しく困難な場合など、車の保有・利用には厳格な要件が課されている。ただ、具体的な運用は自治体の判断に委ねられている部分もあり、今回、問題となった記録提出は鈴鹿市の独自の運用だ。 

 

 生活保護法は、制度運用に当たって行政側が「必要な指導または指示をすることができる」とする一方、受給者の「自由を尊重し、必要の最少限度に止めなければならない」「意に反して、指導または指示を強制し得るものと解釈してはならない」とも定める。市の運用がこの規定に照らして適法か否かを判決がどう評価するかが大きな焦点だ。 

 

 一方、日々の暮らしでの車の必要性は都市と比べ地方でより高い。自動車検査登録情報協会(東京)によると、国内での自動車普及台数の平均は1世帯あたり1.025台(23年3月末時点)。公共交通機関が充実する東京や大阪などは平均を下回るが、ほとんどの地方は上回っており、三重では1.430台に及んでいる。判決がこうした実情をどう考慮するかも注目される。 

 

 訴訟を巡っては、女性らは提訴にあわせて市の処分の執行取りやめを求める申し立てもしていた。裁判所は「生活保護が停止されれば生命身体に対する危険に直面する」と判断し、申し立てを認容。一審判決が出るまで保護の継続を求められていた。 

 

 生活保護と自動車保有をめぐる裁判は全国で相次ぐ。大阪地裁では13年、「車を使うことが自立を助ける」などとして、大阪府枚方市が通院や買い物に車を使っていた身体障害のある女性の生活保護申請を却下したことを違法とする判決が出ている。(山本知弘) 

 

朝日新聞社 

 

 

 
 

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