( 151767 ) 2024/03/22 14:17:37 0 00 北陸新幹線(画像:写真AC)
北陸新幹線が3月16日、福井県敦賀市のJR敦賀駅まで延伸した。これにより、北陸と首都圏の距離が縮まる一方で、「古くから交流が深い関西が遠くなる」と嘆く声も聞こえた。
【画像】えっ…! これが北陸新幹線の「ルート全貌」です(計10枚)
北陸新幹線が敦賀へ延伸した週末が終わり、敦賀駅では帰りの観光客らが切符売り場に列を作っていた。JR西日本の職員が案内役を務めるが、混雑をなかなかさばけない。そんな中、千葉県浦安市へ帰る60代の夫婦は
「福井の食と名所を堪能できた。東京から新幹線1本で来られるようになり、福井がとても近くなった気がする」
と笑顔を見せた。
延伸当日、県都の福井市では歩道を埋め尽くす人出に地元の人が驚いていたが、敦賀市も敦賀駅前とその周辺で「つるが街波(まちなみ)祭」と銘打った記念イベントが催され、多くの観光客でにぎわった。
石川、富山、福井の北陸3県は関西との行き来が盛んな土地だが、敦賀市新幹線誘客課は
「首都圏や長野、新潟両県など北陸新幹線沿線からの観光客が目立った」
という。北陸新幹線が人の流れを変えたようだ。
敦賀駅止まりとなった大阪発特急のサンダーバード(画像:高田泰)
北陸新幹線の敦賀延伸で大阪市から石川県金沢市まで運行してきたJR北陸本線の特急「サンダーバード」は、敦賀止まりになった。関西から金沢市や福井市へ向かうには、敦賀駅で乗り換えが必要。大阪市から福井市までは3分、金沢市までは22分の時間短縮になるとはいえ、乗り換えの影響は大きい。
敦賀駅の新幹線ホームで話を聞いた。京都市から来た30代の会社員は
「系列会社がある越前市へ出張でよく来るが、乗り換えは面倒。サンダーバードを金沢まで残してほしかった」
と不満げな表情。堺市から50~60代の6人で観光に訪れた女性グループは
「敦賀駅が広くて乗り換えが大変。来年は乗り換えのない行き先にする」
と苦笑していた。
敦賀駅で切符売り場に列を作る観光客ら(画像:高田泰)
北陸3県は言葉が関西弁に近く、関西と密接な関係を持っている。福井県西部の若狭地方と京都市を結ぶ若狭街道は「鯖(さば)街道」と呼ばれ、古くから京都へ日本海の物資を運んできた。
戦前から高度経済成長期にかけては、繊維産業が北陸と関西を結んだ。当時、石川、福井の両県は日本を代表する繊維産地。大阪市は繊維製品を扱う問屋が集中していた。このため、関西と北陸の往来が盛んで、サンダーバードやその前身の「雷鳥」は“繊維特急”と呼ばれていた。
福井県産業技術課は
「生産拠点の海外移転や大阪の企業の多くが東京都へ本社を移転したことから、当時ほどの往来はないが、密接な付き合いに変わりない。乗り換えでビジネスが不便になるかもしれない」
と不安がる。京都市の村田製作所が福井県に関連会社、大阪市の参天製薬が石川県に工場を置くなど、繊維以外の産業も関西との結びつきが深い。
新幹線延伸祝賀ののぼりがはためくJR敦賀駅(画像:高田泰)
北陸3県の高校生が北陸を出る場合、京都の大学へ進学し、大阪の企業に就職するのが一般的だった。福井県教育庁によると、2023年に福井県の高校を卒業した若者の進学先トップは京都府で、2位は大阪府。今も関西志向が続いている。
しかし、文部科学省によると、石川、富山の両県は北陸新幹線が金沢延伸した次の年の2016年卒業生から東京都がトップに立ち、
「首都圏志向」
に変わった。関西の大学や企業からすると、北陸出身者の確保が難しくなりつつある。
観光への影響も頭が痛い。福井県は温泉客や名所を訪れる観光客の7割程度を関西や東海から集めてきた。当分は新幹線延伸効果で首都圏からの誘客が見込めるとしても、リピーターとなってきた関西の客を失う危機にさらされている。
「関西の奥座敷」と呼ばれるあわら市の芦原温泉では、ベテランの女将が
「兵庫県の城崎温泉など特急1本で行ける地域に客を奪われかねない」
と危機感を募らせる。福井商工会議所も
「関西との縁をつなぐには、新幹線を大阪へ延伸させる必要がある」
と語った。
敦賀駅で発車を待つ富山行き北陸新幹線のつるぎ(画像:高田泰)
ところが、大阪延伸のめどは立っていない。ルートは敦賀市から福井県小浜市へ西進したあと、京都府を南下して京都市下京区の京都駅を通り、京都府京田辺市経由で大阪市淀川区の新大阪駅へ向かうが、京都府で反発の声が高まっているためだ。
京都府のルートは主に地下を通る。地下水への影響や建設残土の処理など環境面の不安に加え、兆単位となりそうな建設費の地元負担など難題が山積している。さらに、並行在来線になるとみられる湖西線の扱いも、滋賀県の反対を考えると難しい。
関西経済連合会の松本正義会長や大阪府の吉村洋文知事らは早期開通を訴えているが、2月に投開票された京都市長選では主な4候補のうち、落選した3候補が反対の立場で、当選した松井孝治市長も
「慎重な判断が必要」
と賛否を明言しなかった。京都の世論がルート反対に傾きつつあるからだ。
膠着(こうちゃく)状態にしびれを切らせた石川県では、敦賀市から東海道新幹線が通る滋賀県米原市の米原駅を目指すルートへの変更を求める声が出ている。加賀市の宮元陸市長が米原ルートを主張しているほか、小松市議会が2023年12月、米原ルート採用を求める決議を採択した。しかし、東海道新幹線はダイヤ過密で、北陸新幹線の乗り入れが難しい。
関西は戦前、工業出荷額で首都圏を上回る日本経済の中心地で、大阪市の人口が当時の東京市を上回ることもあった。戦後の東京一極集中で経済の地盤沈下に苦しむ関西経済界は、北陸の関西離れに危機感を持つが、大阪延伸を妨げる難題解決の妙案は浮かばない。新幹線延伸の陰で苦悩は深まるばかりだ。
高田泰(フリージャーナリスト)
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