( 151962 )  2024/03/23 00:34:56  
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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Paperkites 

 

作業服チェーン「ワークマン」が2期連続の営業減益の見込みだ。なぜワークマンの快進撃は止まってしまったのか。ライターの南充浩さんは「作業服とファッション衣料は客層も販売方法も異なる。両者の共存には無理があった」という――。 

 

【画像】2月22日に開店したWorkman Kidsの全国1号店「イオンモール沖縄ライカム店」の様子 

 

■業績下方修正、営業利益は2期連続減益 

 

 今年2月にワークマンが24年3月期決算の下方修正を発表しました。24年3月期第3四半期決算も発表され、対前年同期比でマイナス0.4%の営業減益に終わりました。通期でも営業利益は2.8%減との見通しです。23年3月期決算は10.1%の営業減益でしたから、2期連続の営業減益はほぼ確実でしょう。 

 

 ここまで急成長を遂げてきたワークマンですが、成長期が終わり停滞期に突入したといえます。それは23年度の月次速報を見ても明白でした。23年度の月次速報では既存店売上高・客数の前年割れが常態化しています。 

 

 今回はワークマンの成長期が終わった要因と、今後の方針について考えます。 

 

■無限に成長し続ける企業はない 

 

 最大の要因は「売り上げ規模がほぼ極大化してしまって伸び代が少なくなってきたため」と考えられます。 

 

 無限に成長し続ける企業はありません。どこかで成長は必ず鈍化しますから、ワークマンもその域に達しつつあるということでしょう。24年3月期決算でのチェーン店全店売上高は当初目標よりも下方修正されましたが、1758億8800万円と見込まれています。国内の衣料品チェーン店としてはかなりの大きな規模になっています。伸び率が鈍化しても当然でしょう。 

 

 続いて営業減益についてです。営業利益は本業のもうけを表し、土地の売買や株式の売買、為替の差益などの要因は含まれていません。本業のもうけが減益になっているということは、以前よりももうからない状態になりつつあるということです。 

 

 営業減益の理由はさまざまあります。最も大きいと考えられるのは原材料費の高騰、円安傾向、燃料費高騰などでしょう。2020年のコロナ禍以降、全ての原材料費が高騰しています。円安傾向と燃料費高騰も同様です。商品の海外生産比率・調達比率が高いワークマンにとって、商品の製造・仕入れコストは上昇せざるを得ません。 

 

 その一方でワークマンは、一部を除き多くの品番の価格を据え置きました。そうなると当然もうけは減ります。 

 

 

■ファッション衣料は「値引き販売」とセット 

 

 停滞のもうひとつの理由として考えられるのが、売れ残り商品の「値引き販売」が増えたことです。値引き販売するともうけが減ることは自明の理です。近年アパレル業界で「プロパー(定価)販売」がやや過剰気味に叫ばれているのはそれが理由です。 

 

 ではなぜ売れ残り品が増える傾向なのかというと、それは近年急速に推し進めてきたファッション化のデメリットが顕在化してきたためと考えられます。 

 

 ワークマンが画期的と評価されたのは「作業服を一般向けにも売ること」にありました。作業服は元来、作業員が作業時に着用する服なので、モデルチェンジのサイクルが3~5年と長く、長期間で売り切るという商品でした。ですから、発売年に売れなくても値下げせずに翌年以降も定価で販売することができました。 

 

 これを当初のワークマンは商品を共通化することで一般向けとしても販売していたので、値下げをせずに複数年で売り切っていました。このため、値下げによる営業利益の減少は起きにくかったわけです。 

 

■カジュアル服はサイクルが早く、販売期間も短い 

 

 しかし、カジュアル服は嗜好(しこう)品としての性質が強いため、最低でも年に4回はシーズンごとの新モデルを投入せねばなりません。言ってみれば販売期間は3カ月しかありません。長くても半年です。当然全品番を売り切ることはできません。 

 

 ワークマンとて同様です。その結果、期末には値引き販売される品番が必ず出始めます。2月半ば時点の公式通販サイトでは20品番の衣料品の値下げ販売が確認できました。これまでのワークマンでは考えられないほどに値引き販売の品番数が増えています。 

 

 同社はワークマン女子、ワークマンプラス、ワークマンカラーズと一般向けファッション業態を増やすことを明言していますから、今後も売れ残り品番が期末に値引き販売されるケースは増え続け、値引き販売が常態化すると考えられます。 

 

 ワークマンのアンバサダーである山田耕史氏も自身の記事で「一般客向けの製品は売り場の鮮度を高めることを目的に、マークダウンしてでも売り切る方針であることが語られた」と言及していますから、今後もカジュアル向け用途を拡大させ売れ残り品を値引き販売することはワークマンとして既定路線だといえます。 

 

 

■子供服への進出は根本解決にならない 

 

 ここまでカジュアル化を積極拡大してきたワークマンですが、同時にそのデメリットも顕在化しつつあり、さらには伸び代もいよいよ少なくなってきました。しかし、ワークマンは矢継ぎ早にリカバリー戦略を打ち出しています。このあたりの対応はさすがです。 

 

 ワークマンのリカバリー戦略は、以下の4つに分けることができます。 

 

 1、子供服専門業態「ワークマンキッズ」の立ち上げ 

2、ワークマン女子の積極的出店 

3、シニア向け腰痛サポート製品の新投入 

4、新開発の肌着を投入 

 

 この中でメディアやSNSで最も話題となったのは子供服専門業態の立ち上げです。ただ、子供服自体はすでにワークマン女子などでも売られていましたので、全くの新商材というわけではありません。子供服専門業態として「ワークマンキッズ」を立ち上げ、ワークマン女子の中に併設させるということです。目標とする売上高200億円はまずまず妥当な目標といえるでしょう。 

 

 子供服は元来大人服よりも市場規模が小さい上に、少子化が進んでいるので200億円が極大値だと考えられます。 

 

 子供服業界では昔から「売上高300億円の壁がある」といわれており、この300億円の壁を突破して長期間維持できたメーカー型ブランドは存在しません。いったん300億円を突破したブランドも、もれなくそこから200億円台へ低下してしまいました。ですから、200億円というワークマンの中長期的目標は極めて妥当な数値設定だと感じます。 

 

 ただ、子供服もファッション衣料なので、毎年4シーズンのモデルチェンジが必要となり、売れ残り品番を大量に発生させる可能性が高いと言えます。値引き処分品が増えて営業利益率を低下させかねないでしょう。 

 

■「ワークマン女子」の拡大は危険な賭け 

 

 ワークマン女子の積極的出店について、ワークマンは2024年9月から2025年3月までの7カ月間で路面店25店舗を一気に出店させると発表しており、恐るべき急ピッチといえます。 

 

 ただ先ほども述べたように、ファッション用途のワークマン女子を積極的に出店すればするほど売れ残り品番も増えるので値引き販売も増え、営業利益率を悪化させることにつながります。個人的にはこれはかなり危険な賭けとなると思います。もしかしたら、将来的にワークマンの屋台骨を揺るがす事態になる可能性も低くはないと見ています。 

 

 

■シニア向け衣料品はヒットの予感 

 

 3つ目の腰痛サポート製品の投入ですが、こちらはシニア向けとして本体の職人向けのワークマンで展開するようです。そのひとつが、3月5日に発売された、腰への負担を軽減できるサポート機能付きシリーズ「XBooster」です。 

 

 XBoosterはベルトで骨盤を固定することで、腰への負担軽減のほか、猫背などの姿勢矯正が期待できるとしています。 

 

 個人的には4つの施策の中で最もこれがヒットするのではないかと思っています。 

 

 理由は2つあります。まず1つ目はパンツ1900円、トップス1500円と比較的低価格なこと、2つ目はワークマンらしい機能性商品だからです。 

 

 さらに言えば、腰痛・肩凝りに悩んでいる人はシニアの職人だけではありません。若い男女でも相当数いますから、全世代に向けてヒットする可能性もあると思っています。私も肩凝り・腰痛持ちなので、一度試してみたいと思っています。近年のワークマンの商品の中で最も試してみたいと思えた商品です。 

 

 このほか、肩などに磁器治療器を埋め込み凝りを改善する「CORICLEAR」シリーズも発売されるとのことです。 

 

 こちらも試してみたくて仕方がありません。 

 

■吸水速乾肌着は目新しさがなく、競合も多い 

 

 最後の肌着は、「旭化成アドバンスと共同開発した“シン・呼吸するインナー”」と発表されています。「旭化成のキュプラを用いて、夏に吸放湿性をアピールする。キャミソールやタンクトップで780円」とのことです。全店展開で5年後に500億円の売上高を目指すと発表されています。 

 

 ただ、吸水速乾肌着はすでにユニクロのエアリズムをはじめ、しまむら、ジーユー、イトーヨーカドー、グンゼなどさまざまなブランド、小売店、メーカーから発売されていますから、それらのワン・オブ・ゼムとしての存在になると個人的に見ています。目新しさはありません。腰痛サポート製品のほうが斬新で競合他社が少ないでしょう。 

 

 

 
 

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