( 152448 )  2024/03/24 14:18:33  
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経済アナリスト森永卓郎(66・右):1957年、東京都生まれ。獨協大学経済学部教授。著書に『ザイム真理教』『書いてはいけない──日本経済墜落の真相』他多数/経済アナリスト森永康平さん(39):1985年、埼玉県生まれ。マネネCEO。著書に『スタグフレ... 

 

 ともに経済アナリストである森永卓郎さんと森永康平さん親子。「年収300万円時代」の到来を予言した父と、人生の大半が「失われた30年」だった息子が日本経済を語った。AERA 2024年3月25日号より。 

 

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森永康平さん(以下、康平):多くの人が短期間で修正できる方法を考えがちで、すぐ効果が出る政策を求めてしまう。僕はそんなにおいしい話はないというのが持論としてある。「失われた30年」と言われますが、30年かけて失ってきたわけだから、取り戻すにも30年かかると考えた方がいい、というのが一つ。それから何をすればいいのかというと、やることやること全部裏目に出てきたのだから、だったら逆にしたらいいんじゃないのという発想です。 

 

 例えば少子化をどうするという時に、親父が1985年起点に言ってたけど、その頃の正社員の比率って85%ぐらいだったんですよ。今って6割ぐらいじゃないですか。非正規をそれだけ増やしたっていうのが、僕は少子化については大きかったと思っていて。厚生労働省のデータを見ていると、年収があればある人ほど結婚できている。 

 

 ただ、政治家は非正規の規制強化や法人増税などは絶対やりたがらないんですよ。企業の経営者に都合の悪いことをやると、当然大きな票田を失うことになるので。 

 

森永卓郎さん(以下、卓郎):康平が言ってるような方向性が出てくればいいんだけど、それは絶対出てこないんですよ。だから私はできないことを言うんじゃなくてもう資本主義そのものをやめようというところに踏み出さないと、と思う。そのいいきっかけがこのバブルの大崩壊になるんだと思っています。 

 

 じゃあどうしたらいいのかというと、グローバルからローカルへ、中央集権から分権へ、大規模から小規模へと、全部経済の仕組みを切り替える。そして、自産自消と言っているんですが、電気でも食べ物でも、自分で作れるものは自分で作る。海外に依存するものはできるだけ小さくしていくという方向性に切り替えた方がいいと思う。 

 

 

■お金は本当は増えない 

 

 それは日本に限らない話で、マハトマ・ガンディーがどうしたら格差をなくせるのかと人生をかけて突き詰めていったんですが、彼がたどりついた結論が「近隣の原理」というものだったんですよ。近くの人が作った食べ物を食べて、近くの人が作った洋服を着て、近くの大工さんが建てた家に住みましょうと。まさにグローバリズムの真逆ですよね。だからガンディーは貿易の自由化に徹底的に反対したし、工場の地方への進出にも反対したんです。 

 

 資本主義に対抗するひとつのモデルとして、私はコロナになってからの3年間で社会実験してきました。うちは東京から50キロぐらい離れているんですが、電気は太陽光パネルで作っていて、60坪ほどの畑を借りて野菜を20種類くらい作っています。昨年の11月にがんの宣告をされ抗がん剤治療で農作業ができなくなったのですが、まだコミュニティーが生きてるなと思ったのは、近所で一緒に畑をやっている仲間たちが、うちの畑の作業をしてくれたんですよ。そういうのって、大都市にはないんですよ。 

 

 畑で採れた野菜は、周りの人と物々交換していろんな野菜が手に入る。そこは金銭取引ではないですから消費税も取られない。でもね、本来はそういう暮らしをずっと日本人はしてきたわけ。だからそっちに戻そうと。 

 

 実は今、私や康平の名前や写真を無断で使って投資に誘うニセの広告がインスタグラムやフェイスブックに出ていて、被害者の人からメールが来るんです。犯人が一番悪いのは確かなんだけれど、投資をしたら3カ月で10倍になります、なんていうのにおかしいと思わずみんなが乗っかっちゃっている。それが今株式市場にも蔓延しているわけです。ちょっと株価が下がると一斉に買いが入る。康平は割高じゃないと言っているけれども。 

 

 例えば、ノーベル経済学賞を受賞したロバート・シラーという経済学者が、バブル期には企業の利益水準自体が水増しされるということを発見して、それを補正するためのPER(株価収益率)というのを提唱しているんですが、今、アメリカは40倍近いんですね。これ、だいたい15倍が適正水準とされているんですよ。つまり、今のアメリカの株価は本来の株価の3倍近くも高いんです。だから、利益が出てるから株が高いんだと言っても、その利益自体がおかしいんです。 

 

 

 お金は本当は増えないんですよ。それを、お金をほったらかしで投資に回したらどんどん増える、みんな豊かになるという幻想を与えたことが、私は今の岸田政権の最大の罪だと思っています。 

 

■肉食と草食の二極化へ 

 

康平:さっき話してきたのはマクロ的な話ですが、じゃあ個人がどうやって生きていくかというミクロの世界観で言うと、ひとつは、今の価値観はもういいやといって、地方に移住して生活費を下げ、ストレスとかプレッシャーから解放されて生きていくような生き方。これが今、リモートワークの普及などでやりやすくなっているんですよね。インフラ的には。 

 

 もう一つはやっぱりガツガツ稼ぎたい人もいる。その稼ぎ方も、おそらくこれからAIとかが発展していく中で、そういったものを利用すれば利用するほど1人当たりの生産性は上げられるので、たくさん稼いで、いいところに住んで、承認欲求を満たすという生き方もある。その二極化だと思います。 

 

 今までは貧困層と富裕層といった上下の二極化などが言われてきましたが、今後は肉食系と草食系みたいな二極化になると思います。そこの意思決定ができるかどうかというのが、若い人にとっては大事になってくるんじゃないかなと思います。 

 

(構成/編集部・秦正理) 

 

※AERA 2024年3月25日号より抜粋 

 

秦正理 

 

 

 
 

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