( 152548 )  2024/03/24 22:48:06  
00

(写真:読売新聞) 

 

 車を運転中にスマートフォンなどを使う「ながら運転」が原因の死亡・重傷事故が再び増加している。5年前の厳罰化で減少したが、抑止効果が薄れてきたとみられる上、スマホの画面上に情報が自動的に表示される「プッシュ通知」の利用拡大も影響しているようだ。死亡事故の発生率は、携帯電話を使用していない場合に比べて4倍近くに上るとのデータもあり、警察当局は対策を強化している。 

 

【図解】こうすれば運転に集中できる…スマホの設定方法の例 

 

 「携帯電話の画面を見ていて、前をしっかり見ていなかった」。昨年11月中旬、奈良県橿原市で男子大学生(22)をはねたとして、自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致傷)容疑で現行犯逮捕された会社員の男(52)は県警の調べにこう述べた。 

 

 現場は片側1車線の見通しのよい直線。大学生は自転車を押して横断歩道を渡っていたが、男の車にはねられて飛ばされた後、対向車線の車にもはねられ、頭蓋骨骨折など全治2か月の重傷を負った。男は「気が付いたら前に自転車があった」と供述しているという。 

 

 ながら運転は携帯電話の普及とともに社会問題化し、1999年の道路交通法改正で禁止され、罰則が設けられた。だが、徐々に交通事故が増えて2017年にピークの2832件に上り、政府は19年に同法を改正して罰則を強化した。運転中にスマホなどを使った場合は最大で懲役6月か罰金10万円、携帯電話を使って事故を起こすなどした場合は最大で懲役1年か罰金30万円となり、20年以降、事故は半減した。 

 

 死亡・重傷事故で見てもピークの18年の107件から20年は66件に減少したが、21年以降は3年連続で増え、23年は122件と統計の残る07年以降で最多になった。122件のうち約9割の107件が表示画面の注視で、他の15件は通話だった。軽傷を含む人身事故全体でも887件で3年続けて増えた。 

 

 なぜ再び、ながら運転の事故が増えているのか。大阪国際大の山口直範教授(交通心理学)は「厳罰化から時間がたって規範意識が緩み、『少しくらいなら大丈夫』と思う人が増えたのではないか」とみる。さらに魅力的なアプリが増え、プッシュ通知によりスマホの画面に情報が表示される機会が増えた影響を挙げ、「運転中でも通知などが気になって周囲への注意が散漫になり、重大な事故につながっている可能性がある」と話す。 

 

 

 ながら運転はわずかな時間でも深刻な事故を招きかねない。警察庁によると、ドライバーが運転中にスマホなどの画面を見た場合、危険を感じて再び運転に集中するまでに少なくとも2秒かかる。時速60キロで走行する自動車なら計算上、33メートル進むことになる。過失が最も重い「第1当事者」が自動車だった事故全体に占める死亡事故の割合を見ると、23年は携帯電話を使用していた場合は、それ以外のケースに比べて3・8倍だった。 

 

 大阪府警が過去10年間のながら運転による事故269件を分析した結果、9割超の256件が直線道路で発生していた。府警幹部は「見通しのよい場所は安心感から油断が生じやすい」と分析した上で、「運転する前にスマホの電源を切ったり、運転中に通知が表示されない設定にしたりしてほしい」と呼びかけている。 

 

(写真:読売新聞) 

 

 ながら運転の防止策として、スマートフォンの電源オフやいわゆる「ドライブモード」の設定のほか、アプリやAI(人工知能)を活用して車の走行時にスマホ画面をロックしたり、車内の画像から兆候を把握して警告したりする方法もある。 

 

 損害保険会社大手の三井住友海上火災保険(東京)が提供するのは、自動車の運転中にスマホを自動停止させるアプリだ。アプリを導入したスマホを車に持ち込むと、運転席に取り付けた車載器の電波を受信し、アプリが自動的に起動。時速10キロを超すと、アプリがスマホの操作をできなくする。車載器は4000円程度で、利用料は無料。 

 

 AI開発会社「ナウトジャパン」(東京)が開発したドライブレコーダーは搭載したAIの画像認識技術で、ドライバーがスマホを2秒以上触ると、運転席のカメラ映像をもとにドライバーの顔の様子や手の動きなどを分析して異常を検知し、警告音を鳴らす。 

 

 同社の担当者は「AIによる警告はその場の行動を思いとどまらせるだけでなく、安全意識の向上にもつながるはずだ」と話す。 

 

 

 
 

IMAGE