( 153018 )  2024/03/26 00:10:32  
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中国由来の資料が飛び出した再生エネルギータスクフォース。写真は河野太郎氏(写真:共同通信社) 

 

 (山本一郎:財団法人情報法制研究所 事務局次長・上席研究員) 

 

 国家機密の漏洩を中国など外国に漏らさない仕組みである「セキュリティクリアランス」が法制化に向けて検討が進んでいる足元で、我が国のエネルギー問題を議論する内閣府「再生エネルギータスクフォース(以下、再エネTF)」が燃えています。 

 

【写真】自然エネルギー財団の大林ミカ事業局長 

 

 内閣府で行われている再エネTFは、安倍晋三政権以降、重要閣僚を歴任した自民党・河野太郎さんが用意している審議会に準ずるハコで、国民に広く負担を求めている再エネ賦課金や再生エネルギーの固定買い取りをするFIT価格に関して政府に提言を行う会議体です。 

 

 もともと河野太郎さんは教条的な脱原発思想の持ち主で、政策的に原子力発電から再生エネルギーにシフトさせることを重視してきました。2021年には、我が国のエネルギー政策の大きな方針を定める『エネルギー基本計画』の策定において、原案について説明に来た官僚を怒鳴りつけ、パワハラ騒ぎを起こしています。 

 

 【関連記事】 

◎河野太郎大臣 パワハラ音声 官僚に「日本語わかる奴、出せよ」(週刊文春電子版) 

 

 問題は、パワハラを起こしたことだけではなく、河野太郎さんが原案にあった「(日本の発電能力のうち)再生エネルギーの比率を『36~38%』という上限のある数字ではなく『36~38%以上』に(しなさい)」という河野太郎さんの主張そのものにあります。 

 

 この河野太郎さんの主張を政府内で後押しする会議体のひとつが、今回問題となった再エネTFです。実質的な構成員4人のうち、大林ミカさん、高橋洋さんの二人がソフトバンク系の自然エネルギー財団からの起用です。 

 

 その大林ミカさんが政府に提出した再エネTF関連の資料には、中国国営の送電企業である国家電網公司の資料であることを意味する刻印が刻まれており、日本のエネルギー政策を議論し改善案を提案するべき再エネTFに中国製資料が混ざっているというのはどういうことなのか、と問題になったのが今回の事件です。 

 

 【関連記事】 

◎河野太郎の再生エネルギータスクフォース(内閣府)で元活動家構成員が中国企業の資料で政府への提言取りまとめ(note) 

 

 結局、内閣府は、ハッキング被害に遭ったからという雑な理由で資料の公開を一時中止しましたが、今回の会議資料だけでなく、昨年12月に行われた前回資料にも実はその中国企業の刻印があったことが判明すると、釈明を二転させています。 

 

 また、河野太郎さんもTwitter(X)上で、「チェック体制の不備でお騒がせしたこと」とポストしていますが、これは河野太郎さんらしいレトリックで、責任はそのような会議体に大林ミカさんらを選任した河野太郎さん自身ではなく、会議体を運営している官僚のミスだと話をすり替えているようにも見えます。 

 

 

■ 河野太郎のハイリスクな人選 

 

 実際、今回問題になった大林ミカさんは反原発活動を繰り返し行っているNPO団体「原子力資料情報室」の元幹部です。ソフトバンク系の自然エネルギー財団の事業局長として選任するのはともかく、このような人物を河野太郎さんがイデオロギー的親和性から政府の会議体に招聘してしまうというのは割とリスクの高いことです。 

 

 折しも、政府の重要とされる指定情報について、出入りする官僚や民間事業者に対して認定がない限り公開させないというセキュリティクリアランス法案がいまの国会でまさに審議されようとしているところです。その中で勃発したのですから、何ともタイミングの悪い話です。 

 

 この内閣府再エネTFは、霞が関的にはあまり重要視されていない会議体ではあります。しかしながら、上記のようにエネルギー基本計画やFIT価格、再エネ賦課金にまつわる議論の中で国家機密に該当する事項を河野太郎さんが知っている可能性が高く、その内容について再生エネルギー界隈にとって有利なように反論や提言をさせることも充分に考えられますから、非常に可燃性の強い事件であると言えます。 

 

 また、今回の件では、再生可能エネルギー、ひいては太陽光発電が抱える問題を理解しておく必要があります。つまり、太陽光発電ゆえに日中にしか稼働しないことから、夜の時間帯の電力需要に合わせるため必要な大容量蓄電池も、いずれも中国製太陽光パネルや中国産レアメタルの依存度が高い商品だということです。 

 

 河野太郎さんのことなので、じゃあアメリカはいいのか、原発もトイレなきマンションでいいのかと議論をしてくる可能性は高くあります。 

 

 しかしながら、アメリカとは互恵関係にあり、原子力業界的にもアメリカ資本やアメリカ企業とは日本も相互に買収や投資でご一緒できる関係です。使用済み核燃料の問題も、次世代核融合炉や中間貯蔵施設も含めた核サイクルの議論も進捗中です。 

 

 そもそも日本の電力会社や電源開発企業が中国で自由にビジネスができないことを考えれば、相互主義の観点から中国に日本政府が格段の配慮を行う理由はまったくありません。 

 

 むしろ、原発事故も起こしてしまった日本は諸外国に比べて原子力発電の新規設置数では見劣りしています。また、欧州の過剰な再生エネルギー礼賛の動きがロシアによるウクライナ侵略の影響で完全に頓挫し、脱原発を完了したとされるドイツですら原子力に回帰させています。EUでは、原子力発電を「グリーン」認定せざるを得ない状況になっているんですね。 

 

 もちろん、原子力発電所にいざ事故が起きてしまうと大変なことになりますから、地震など災害の多い日本では、より慎重な運用が求められるというのは言うまでもありません。 

 

 

■ 日本のエネルギー政策に紛れ込む中国の毒 

 

 既に述べた通り、再エネTFが扱う議題で中国の関与が特に危険だとみられるのは、電力代に上乗せされる形で負担させられている再生エネルギーへの付加金の引き上げ、それ自体への提言も再エネ普及の規制緩和等のテーマのひとつになっているからです。 

 

 固定買取制度では、太陽光発電や洋上風力発電などの再生可能エネルギーの普及・振興のため、電力を各家庭や企業に配電する旧一電(旧一般電力事業者;東京電力や関西電力など)に対し、再エネで発電した電力をFIT価格で買い取ることが決められています。これは、国民負担です。 

 

 再生エネルギー政策が拡大したのは、東日本大震災に伴う福島第1原発事故がきっかけでした。この時に原子力発電の稼働が全国で一斉に停止したことに加え、当時の旧民主党・菅直人政権がソフトバンク・孫正義さんらの関与もあって、再生エネルギーの振興へと大きくシフトしたことが出発点です。 

 

 その後の自民党政権でも大型台風やゲリラ豪雨、猛暑などの気候変動対策のために二酸化炭素の排出を削減する政策を打ち出し、二酸化炭素の排出において、発電稼働時は環境負荷が少ない太陽光によるメガソーラーや新たなベースロード電力として洋上風力発電などに脚光が集まりました。 

 

 さらに、安倍晋三政権後に成立した菅義偉政権では、2020年10月26日の臨時国会所信表明演説において、自民党・公明党間での合意に基づき、2050年までに日本がカーボンニュートラルを目指すと宣言しました。 

 

 正直、この2050年に二酸化炭素排出「実質ゼロ(出した二酸化炭素の量と同量の処理、吸収を行って二酸化炭素を増やさないこと)」という事実上の国際公約はかなり高いハードルです。 

 

 こういった環境政策の実現にあたっては、当時の総理・菅義偉さんや河野太郎さんとゆかりの深い側近議員であり、再生エネルギー議連の事務局長を務めていた自民党・秋本真利さんが受託収賄の罪で逮捕・起訴されるという事態も起きています。 

 

 国民のエネルギーという観点でみれば、旧民主党政権以降長らく原子力発電所の稼働ができなかったことから、定常的な電力供給(ベースロード)の大半を火力発電所に頼った結果、日本のエネルギー輸入が2022年には対前年比96.8%増の33兆4755億円に達しました。 

 

 単純に、これだけの日本の国富が海外に流れ出たことを意味し、当然のことながら日本は大幅な貿易赤字に転落しています。 

 

 資源のない日本にとって、エネルギー調達の多様化や、再生エネルギーなどによる国産化は悲願です。同時に、原子力発電所の再稼働がようやく進み始める中、今回の再エネTFでの一件は「我が国政府のエネルギー政策に関する議論が、よりによって中国の影響を受けてしまっているのではないか」という大きな懸念が投げかけられるきっかけとなったのも事実です。 

 

 

■ エネルギーの海外依存がダメな理由(当たり前) 

 

 また、菅直人政権でFIT価格42円/kWh(キロワット・時)という途方もない高値に設定され、再生エネルギー推しになった背景には、当時エネルギー産業への参画に意欲を燃やしていた孫正義さんの考えも色濃く反映されていました。 

 

 その後、孫正義さんは日本の電力を海外から調達する野心的なプラン「アジア・スーパーグリッド構想(ASG)」を立ち上げ、その推進を図るためにこの大林ミカさんらが所属する自然エネルギー財団を組成した面もあります。 

 

 菅直人政権で成立した法外に高いとも言える太陽光発電のFIT買取価格を決めたのは、メンバーリストに載っている調達価格等算定委員会委員長で、当時、京都大学教授であった植田和弘さんです。元自然エネルギー財団の理事を務めておられた方です。 

 

 また、東京都の元環境局長であった大野輝之さんは自然エネルギー財団常務理事を現任されています。この辺、大丈夫なのかなとは思います。 

 

 【関連資料】 

◎国会エネルギー調査会(準備会)について(環境エネルギー政策研究所) 

◎自然エネルギー財団スタッフ 

 

 エネルギー政策がなぜ重要なのかと言えば、海外にエネルギーを依存すると、その海外の政治的な事情で電気を止められた場合、安全保障リスクがいきなり発現するところにあります。 

 

 日本が台湾やマラッカ海峡、インド洋、紅海などの安全確保に常に関与しようとするのは、エネルギーの輸入路であるこれらの海域が日本の安全保障において死活的に重要だからです。 

 

 ましてや、原子力発電所で事故が起きたからと言って、孫正義さんが韓国・中国やモンゴルロシアにまたがるエナジーグリッドを構想したところで、中国や韓国が外交問題などで「ムカついたので日本への送電やめます」とか言われたら日本では死人が出てしまいます。 

 

 ヨーロッパ(EU)では、(イギリスを除き)陸続きということもあり、国を超えたエネルギーの相互融通が問題なく進められてきました。ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー価格が急騰し、脱原発や再生エネルギーへのシフトが頓挫したのも、ロシアから送られてくる天然ガスパイプラインが停止されたことが大きな理由のひとつでした。 

 

 ロシアに天然ガスを依存したヨーロッパのように、エネルギーを外国に依存するリスクを考えれば、日本が中国や韓国に大事な電力供給を依存する考え自体が荒唐無稽であるとも言えます。 

 

 

 
 

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