( 153738 )  2024/03/28 00:33:11  
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小林製薬は日用品や医薬品で独自性のある商品を多く扱っている(撮影:尾形文繁) 

 

 「製品と死亡との因果関係が疑われる事象を1件把握いたしました」 

 

 3月26日、日用品大手メーカーの小林製薬は、腎疾患で亡くなった消費者が生前に同社の紅麹関連商品を使用していたとして、製品と死亡との因果関係が疑われる事象があると発表した。 

 

【画像】創業家の6代目として2013年からかじ取りする小林章浩社長(52) 

 

 同日に厚生労働省は小林製薬に聞き取り調査を行った結果、健康被害が多数報告されており、2人目の死亡事例が報告されたと発表。対象商品「紅麹コレステヘルプ」「ナイシヘルプ+コレステロール」「ナットウキナーゼさらさら粒GOLD」を廃棄するよう命令した。 

 

 現時点で原因となる成分は特定されておらず、商品と腎疾患等との関連性も確定していない。小林製薬は一部の紅麹原料に「未知の成分」が含まれている可能性があるとして調査を続けている。 

 

■公表まで1カ月かかった 

 

 22日の会見で小林製薬の小林章浩社長は、「2月6日にこの話を聞き、何らかの形で回収になるだろうという覚悟を持った」と語ったが、実際には公表まで1カ月以上の時間がかかった。 

 

 「当該製品が原因かわからず、(自主回収の)判断はその時点ではできなかった。原因究明に時間がかかってしまったことを大変申し訳なく思っており、判断が遅かったと言われたらその通りだ」と小林社長は説明した。 

 

 会社側は該当商品の自主回収費用は現時点で18億円程度を見込むが、健康被害が次々と明らかになる中で影響がさらに拡大する可能性もある。 

 

 影響は他メーカーへも波及している。小林製薬は製造する紅麹原料のうち8割超を、取引先52社に販売している。販売先の社名は明かしていないが、宝酒造や紀文食品など数社が商品の自主回収を発表した。 

 

機能性表示食品を取り扱う他社にも問い合わせが相次いでいる。ダイエット関連サプリ「カロリミット」などを展開するファンケルは、「メールやチャットなどを通じて、22日から26日まで2700件以上の問い合わせがあった。弊社は小林製薬の紅麹を使っていない。安全性も十分に検証しているとお客様に伝えている」(広報担当者)。 

 

 

 小林製薬の医薬品は日本でしか買えないものが多い。とくに内臓脂肪燃焼をうたう「ナイシトール」や更年期症状改善の「命の母」が売れている。コロナ禍以前の2019年のインバウンド売上高101億円はコロナ禍で消滅したが、2023年は約74億円まで回復している。 

 

 医薬品は中国に限らず韓国や東南アジアからも引き合いがあり、ドラッグストアでのインバウンド主力商材となっている。小林製薬の商品も独自性や効能が評価され、訪日客のお土産需要をとらえてきた。 

 

■利益率の高いヘルスケアを育成 

 

 小林製薬は2030年に向けて、海外でのヘルスケアを強化する方針を掲げる。2023年の海外売上高422億円のうちヘルスケアは20%だったが、2030年には同900億円の35%まで拡大させる目標。2025年1月には仙台の医薬品新棟が稼働予定で、肩こり治療薬「アンメルツ」などの海外販売に向けて生産能力増強を進めている最中だ。 

 

 小林製薬といえば、トイレ用芳香洗浄剤「ブルーレット」や冷却シート「熱さまシート」といった日用品が知られる。しかし現在、国内の稼ぎ頭は一般用医薬品などのヘルスケアに変わりつつある。2023年度の国内売り上げ1304億円のうち、利益率の高いヘルスケアは670億円と半分超を占めている。 

 

 コロナ禍を脱し、海外進出強化もこれからというタイミングで発生した、紅麹関連のトラブル。商品の品質面で会社の信頼が低下すれば、成長への”足かせ”となりかねない。 

 

 近年、日用品でかつてのような大ヒット商品が出せていないことも課題となっている。ブルーレットや芳香消臭剤「サワデー」などは、前社長の小林一雅会長が開発した商品だ。 

 

 現在の主力商品は、過去に開発したロングセラー商品が中心。会社がKPI(重要業績評価指標)として掲げる、売上高に占める新商品の4年間寄与率も、2016年の21.8%から2023年に11%まで落ち込んでいる。 

 

 

■「小林らしさ」はどうなる 

 

 2013年から舵取りを担う小林社長は、昨年4月に行った東洋経済のインタビューで「開発スピードが遅く新商品数が減少したことで、寄与率も低下してしまった。現在は、非常にユニークで新しいと思える商品は、市場を調査しながら開発に素早く取りかかるよう変更している」と語っていた。SNSの投稿からAIがトレンドを分析するシステムも導入し、商品開発体制を強化している。 

 

 小林製薬には全社員からアイデアを集め、企画会議で新商品を開発していく文化がある。ニッチな需要を拾いあげて、独特なネーミングとともに商品化してきた。 

 

 市場変化へスピーディーに対応すると同時に、徹底した品質管理が求められることは言うまでもない。今回の問題を受けて「小林らしさ」をどう守っていくのか。まずは健康被害への迅速な対応が求められている。 

 

伊藤 退助 :東洋経済 記者 

 

 

 
 

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