( 154408 )  2024/03/30 01:02:38  
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インフレ下での「円預金」はリスク。現金でタンスに置いておくよりは安全だが…(写真と本文は関係ありません) 

 

【マネー秘宝館】 

 

長きに渡った日銀のマイナス金利政策が解除されました。この変更によって金利・株価・為替・物価がどのような動きをみせるのか。私たちの生活に直結するところだけに気になります。私は少々今回の政策決定ニュースを「恐ろしさ」の気持ちをもってみていました。それは「自分たちのことが自分で管理できない」恐怖。 

 

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高度にグローバル化され、つながった現在の金融資本市場において「日本人が管理できること」は限られています。金利や株価は言うに及ばず、スーパーで売られている食料品の価格でさえ、国際的なマーケットの動向や紛争情勢に左右されるのがいまの社会。すべての国が「世界の一部」となってしまった新たな環境で、かつて安全だった行為にリスクが高まっています。例えば、その典型的な例が「円預金」。 

 

これまでの時代、安全確実の代表選手が「円預金」でした。おじいちゃんやおばあちゃん世代はいまも円預金を信用しきっています。郵便局や有名銀行の普通預金が一番安心。余計な株式投資などバクチは考えず、せっせと預金するお年寄りがいかに多いことか。これによってわが国は「株式投資が少なく貯金が多い」となってきたのであります。 

 

そんな円預金は日本が「閉ざされた金融経済島国」であった時代は有効だったかもしれません。しかしこれからの未来はわかりません。金利が上がるとしても、それを上回る物価上昇があるとしたら円預金の価値は実質的に目減りします。つまり本人は安全確実だと思って円預金しているのに、その本人の意に反して円預金はインフレに弱い「リスク資産」になっているかもしれません。そんな「本人が意図しないリスク」が顕在化してきたように思います。 

 

今回のマイナス金利政策の解除ですが、もしかしたら日本人にとって重大な転換点になりそうな予感がします。 

 

日本人はこれまで「慎重な態度で挑戦しないこと」をよしとしてきました。それが老人の円預金愛好であり、就活学生でいえば大企業サラリーマン愛好です。また経営や商売においても前例踏襲、派手に動かないことが好まれてきました。しかしこれから「動かないことのリスク」が高まることでしょう。 

 

これへの対応としては「動かないことは積極的な選択である」ことを自覚することです。例えば、会社の派閥争いでA・Bいずれに所属するかを決めるとき、「決められない」人がいます。本人はトロいだけなのですが「AかBかを選べない」ことは、実は積極的な選択です。会社でも恋愛でも「選べない」人は、本人の意に反して「決断が遅く優柔不断」な人間性をしっかり相手に伝えています。 

 

 

安全とされる環境に逃げ込んで何もしないこと、優柔不断を忙しさを言い訳に決められないこと――このような「動かないリスク」を自覚することが大切。 

 

嵐のときには動物の本能として「ピンチの巣ごもり」に陥りがちですが、ここは外に一歩踏み出して動くことを心掛けましょう。どんどん外へ出ましょう、ご同輩! 

 

■田中靖浩(たなか・やすひろ) 公認会計士、作家。三重県四日市市出身。早稲田大学商学部卒業後、外資系コンサルティング会社勤務を経て独立開業。会計・経営・歴史分野の執筆・講師、経営コンサルティングなど堅めの仕事から、落語家・講談師との共演、絵本・児童書を手掛けるなど幅広くポップに活躍中。「会計の世界史」(日本経済新聞出版社)などヒット作多数。 

 

 

 
 

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