( 154968 )  2024/03/31 22:45:54  
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サンリオのキャラクターの前で話す辻朋邦社長(7日、東京都品川区で) 

 

 今年誕生50周年を迎えた「ハローキティ」で知られるサンリオが第2の創業を掲げて社内改革に取り組んでいる。創業者の祖父の後を継いだ2代目、辻朋邦社長に聞いた。(聞き手・香取直武、写真・平博之) 

 

【写真】サンリオ創業者の辻信太郎名誉会長 

 

<サンリオへの入社は副社長だった父・辻邦彦氏が亡くなった、その日に決まった> 

 

 2013年11月に父が滞在先の米ロサンゼルスで急逝しました。知らせを受けた日に祖父(辻信太郎社長)の自宅に行くと、その場で「もう(サンリオに)入ってもらうよ」と告げられました。 

 

 それまではまず父が祖父の後を継ぐという感じでしたし、父からは「入社するのはまだ先でいい」と言われていました。いつかはサンリオにと思っていましたが、自分で描いていた時期より10年くらい早まった感じでした。 

 

 入社後は祖父の考えでまず経理を担当しました。当時は海外での売り上げが良かった。経理で1年、数字を学んでから営業担当になったら、すごく売れているイメージからかけ離れていきました。 

 

 原因は海外からのライセンス収入の落ち込みでした。キャラクターの人気というのは、どうしても浮き沈みがあります。当時、北米や欧州はハローキティ1強という状態で、そこが低迷すると、一気に売り上げが落ちてしまいました。動画や他のプロモーションの展開もあまりできていなかった。上昇気流にも乗りやすかったのですが、競合キャラクターが出てきて、ぐらついた時に打つ手があまりないという状態でした。 

 

<連結決算は15年3月期から減収減益が続いた。さらにコロナ禍が直撃した20年7月に社長に就任した> 

 

 就任前から、祖父とは、私が思う改革案について話をしていました。私は正しいことを並べれば改革できると思っていたのですが、言い合いになったこともありました。 

 

 ただ、よくよく考えると、祖父には祖父の思いがあります。強行するのではなく、どうしたら理解してもらえるか考え、1年間ぐらい毎日対話をするようにしました。 

 

 

 仕事の話に限らず会話することによって、自分がやりたいことも伝えやすくなり、祖父も「そういうことならいいよ」と言うことも増えました。こうした対話を重ねたことがあったから社長交代もスムーズにいったのだと思います。 

 

<21年3月期は本業のもうけを示す営業利益が赤字に転落した> 

 

 利益が消えた状況に対して社内の危機感が薄かった。サンリオの企業理念は「みんななかよく」ですが、企業理念を体現するには、まずしっかり利益を出さないといけません。単純にやり方を変えるだけではなく、会社の組織風土から変えていかないといけないと思いました。 

 

 そこで痛切な反省のもと第2の創業を掲げた中期経営計画では「サイロ化した組織」「頑張っても報われにくい人事制度」など反省すべき点をしっかり掲げました。 

 

 ただ、自分だけの考えでは空回りしてしまうと思いました。そこで1年半かけて私と社員、1対4の形で年代別に全社員と対話する場をもちました。何のための改革かを理解してもらおうと。 

 

 私はこの会社で30年、40年働いてるわけでもないし、何か超優秀な戦略を立てるようなタイプでもない。トップダウンで引っ張っていくのではなく、知見のある外部人材に来てもらい、社員の力を借りないといけない。コロナ禍で就任のあいさつ回りもできず、社内に使う時間があったのは非常にラッキーでした。 

 

 祖父はトップダウン的な部分が強かった。それが悪いわけではないですが、反面、社内の議論が少なかった。キャラクターをどう育てていくのかという議論もあまりなかった。まずはそこを変えようと、経営会議を新設しました。 

 

 IP(知的財産)開発育成の専門部署も作りました。それまでは開発の仕方も曖昧で、長期的な育成方針が考えられないままデザイン主体で始まり、投資が分散して、なかなかキャラクターが育たない感じでした。どのカテゴリーで、どのくらいの規模感か。キャラクターをそこまで育てるには何が必要なのか。売れなかったらズルズルやらず、撤退プランも考える逆算型の開発に変えました。 

 

 

<22年から23年にかけては、ファン投票でデビューを決める「ネクストカワイイプロジェクト」を始めた> 

 

 今まではアンケートをとっても、最終的には自社で判断してキャラクターを開発していましたが、次世代のカワイイは最初からお客さんを巻き込んでいこうと。 

 

 デザイナーが考案した120以上のキャラクターから社員が25点を選び、一般のお客さんに投票いただく過程を何度か重ねて、デビューキャラクターを選抜しました。そこから出てきたのが「はなまるおばけ」です。開発段階からお客さんを巻き込んでいるので一定の認知度があり、一から始めるより圧倒的に売り上げのスタートダッシュが良く今もよく売れています。 

 

 コストもかかるので経営会議でも議論しましたが、元々は社員の発案から始まった企画で、チャレンジを重要視する風土や人事評価制度を変えた効果を実感しました。 

 

<22年3月期の営業利益は黒字に転換し、23年3月期は増収増益。24年3月期の売上高は974億円、営業利益は268億円を見込む> 

 

 ここまで業績を好転できたのは予想以上でした。組織改革がこの業績を支えてくれたのは間違いないと思います。 

 

 でも、ビジネスは利益のためだけにやっているわけではありません。1人でも多くの人を笑顔にしていこうというビジョンでやっています。 

 

 そこでサンリオの商品にふれている時間がどれぐらいかを可視化してみようと作ったのが「サンリオ時間」です。LINEのスタンプを送る、ショップやサンリオピューロランドに行く、キャラクターの動画を見る。細かい計算式があり、どんどん積み重ねていくんです。本当に「みんななかよく」の世界を実現したい。そのためには利益だけが増えてサンリオ時間が増えてなかったら良くない。 

 

 サンリオが開発したキャラクターは450種類に上ります。まだまだ、できることはたくさんあると思います。Eコマース(電子商取引)やゲームなどデジタルの分野を成長させたい。 

 

 

(写真:読売新聞) 

 

 将来的に、サンリオってどういう会社ですかと聞かれた時に「エンターテイメント企業です」と答えられるようにしたい。ありとあらゆる時間を笑顔に変えていく。そんなエンタメ企業でありたいと思っています。 

 

辻社長の加湿器。右側がタキシードサム 

 

 サンリオは、みんなを笑顔にする非財務指標「サンリオ時間」について、2021年度から10年間で、全世界累計3000億時間創出することを目標に掲げる。サンリオの商品やサービスへの「夢中時間」と、そばにある「寄り添い時間」を足して算出している。23年9月時点で累計648億時間。 

 

 タキシードサムの加湿器…サンリオのグッズに囲まれて育ったが、思い出の品の一つが子供の頃、祖父の信太郎氏の家に泊まりに行った時、寝室に置いてあった「タキシードサム」の加湿器だ。噴き出した水蒸気でよく遊んでいた。今は会社のレセプションに展示しているという。 

 

 ◇辻朋邦(つじ・ともくに) 1988年東京都生まれ。2011年慶大文卒。メーカー勤務を経て、14年サンリオ入社。16年取締役企画営業本部副本部長、17年専務、20年7月から現職。 

 

 

 
 

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