( 155118 )  2024/04/01 13:24:49  
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引退会見をした二階元幹事長(時事) 

 

 自民党の長老、二階俊博氏が次回総選挙への不出馬を表明した。裏金問題での責任を取ったという。 

 

 二階氏は引退会見で謝罪の言葉は口にしたものの、肝心の疑惑の内容については、説明を避けた。国民の不信は何ら払拭されないままだ。裏金問題の帰趨への影響は不可避だが、岸田文雄首相はこの混乱の中、衆院の解散・総選挙の可能性を探っている。 

 

 スキャンダルと強引で内向きの政局運営――。日本政治の劣化は、国際社会における日本の一層の地盤沈下をもたらすだろう。  

 

 「自民党内でもっとも政治技術をもった人」(故安倍晋三元首相)といわれた二階氏は昭和、平成、令和の3代にわたって党内で要職を歴任。幅広い人脈、時に権謀を用いる老獪さで時の政権に影響力を与えてきた。評価は功罪相半ばするが、その退場はやはり時の移りを感じさせ、永田町では感慨深く受け止める向きも少なくない。 

 

 二階氏は不出馬を表明した記者会見で、「政治不信を招く要因となったことにあらためてお詫びする」と謝罪した。しかし、裏金問題の経緯、自らの秘書が政治資金規正法違反で有罪が確定したことについての詳しい説明は一切避け、記者からの質問の多くを同席した側近議員が答えた。 

 

 高齢が引退決断の理由かと聞いた記者に対して「年齢に制限があるのか?お前もその年が来るんだよ」と凄みをきかせ、「ばかやろう」と」吐き捨てた。 

 

 テレビカメラの前での見苦しい言動だけに、これが自民党の元幹事長かとあっけにとられた人も少なくなかったろう。 「自民党が再び国民の期待に応えられるよう再起することを願う」という言葉が何とうつろに響いたことか。 

 

 疑惑の中心人物のひとりである二階氏の不出馬表明は、国民の信頼回復においてはほとんど意味を持たないだろう。 

 

 二階氏に対しては今後、引退表明を考慮したうえでの、それなりの処分がなされるのだろうが、焦点は安倍派でキックバック継続を決めた2022年8月の会合に出席した4人の処分に移る。 

 

 次期選挙での非公認など厳しい処分が検討されているというが、選挙後に復党させるなど甘い対応がなされることはないか。〝刺客〟候補をたてるなど党を永久追放するくらいの徹底的な処分でなければ有権者は納得しない。 

 

 責任ある立場の人たちには重い処分を、そのうえで〝その他大勢〟にはしかるべきペナルティが科されるべきだ。 

 

 処分決定にあたって、岸田首相自身が4氏の事情聴取を行った。閣僚、党役員経験者を処分するからには総裁自ら乗り出す必要があるということかもしれないが、内閣総理大臣が不祥事の細部について捜査官のように事情聴取するというのは、どうだろう。熱心さを通り越して、異常な印象すら感じざるを得ない。 

 

 総理・総裁にそんなことをさせてだまってみている自民党全体ももはや正常とは言えまいが、岸田首相には、自身の思惑、計算があるのだろう。 

 

 

 首相の狙いは衆院の解散だ。首相にとっては、この裏金問題さえなければ、総選挙を断行するにはベストタイミングだったはず。 

 

 株価が4万円超えの過去最高値をつけ、春闘では要求以上の回答、満額回答が相次ぎ、6月からは定額減税が始まる。4月には国賓待遇で米国を訪問、上下両院での演説も予定されている。この余波をかったなら与党に十分勝機はあったろう。 

 

 首相は3月28日夜の記者会見で早期解散を強く否定したが、こうした背景があるだけに、通常国会会期末の6月に解散に打って出るのではないかとの憶測が自民党では乱れ飛んでいる。安倍派幹部に自ら事情聴取、厳しい処分をすることで、世論向けに「自分自身が究明にあたって問題を処理した」と宣言、政治資金規正法改正案を可決して選挙を有利に運ぼうという思惑がうかがえる。 

 

 その布石として4月にも抜き打ちで党役員人事、内閣改造を行うとの観測もある。裏金問題で手腕を発揮できない茂木敏充幹事長を更迭し、二階氏、菅義偉前首相と関係が良好な森山裕総務会長を幹事長に据えて挙党体制を整え、閣僚に小泉進次郎氏ら見栄えのする顔ぶれとするのではないかとも予想される。 

 

 問題は4月に3選挙区で行われる衆院補選だ。裏金問題や区長選違反事件で現職自民党議員が辞職した長崎3区、東京15区では候補擁立を見送ったものの、細田博之衆院議長の死去にともなう島根1区で勝利すれば明るい材料になるだろう。苦戦を伝えられてはいるが、候補者の地道な選挙運動が実をあげ互角に持ち込んでいるとの分析もある。 

 

 メディア各社の世論調査によると、首相の支持率は軒並み20%前後の低空飛行だが、いずれの調査も下げ止まりの傾向を示している。 

 

 底を打つ気配は、一部メディアでは昨年暮れごろからみられたが、あの時期にそうした結果が出始めていたのはむしろ驚きだ。 

 

 自民党内には、自民党と野党の支持率になお隔たりがあることに安堵する向きも少なくない。NHKの3月の調査の各党支持率は自民28.6%、立憲民主が6.8%、日本維新の会3.8%、公明3.1%、れいわ新選組2.5%などとなっている。読売の調査では、自民23%、立民8%、維新5%などいずれも自民党が圧倒的に強みを見せている。 

 

 野党の弱さについてはさまざまな見方がなされているが、有権者に対する政権担当能力のアピール不足が大きい。裏金問題をとってみても、野党は自民党の関係議員の政倫審への出席を執拗に求めていたが、実際に開かれてもウソや矛盾を指摘し、弁明者を立ち往生させることはできず、何ら成果へ結びつけることはできなかった。 

 

 政倫審がだめなら次は証人喚問を求めるなど次々の舞台装置の設置要求を繰り返すだけで、衆院予算委員長解任決議案の趣旨説明では3時間近い演説で予算案通過を阻もうとするなど55年体制時の野党を髣髴とさせるよう手段では、とうてい国民の支持は得られまい。 

 

 

 裏金問題のさなか、日本の国内総生産(GDP)がドイツに追い越されて世界4位に転落したという残念なニュースが伝えられた。ウクライナ問題でも、戦闘の長期化にともなって支援も息切れが見え始めて久しい。米国大統領選でトランプ氏がカムバックした時の備えはできているのだろうか。 

 

 どのメディアも報じなかったが、2月にドイツで開かれたウクライナ支援に関する主要7カ国(G7)を上川陽子外相は欠席、外務審議官を派遣した。理由は明らかではないが、G7議長国の任期が昨年いっぱいで終わったので、あとは「我関せず」かという批判も受けよう。 

 

 日本の官民が裏金問題に気を取られている間も世界は刻々と変化している。それについていけないのは日本だけだ。 

 

樫山幸夫 

 

 

 
 

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