( 155638 )  2024/04/02 23:19:18  
00

AdobeStock 

 

 静岡県庁で川勝平太知事が4月1日に発した「新規職員向けの訓示」が話題だ。川勝知事は「県庁はシンクタンクだ。毎日毎日、野菜を売ったり、牛の世話をしたり、モノを作ったりとかと違い、基本的に皆さま方は頭脳、知性の高い方たち。それを磨く必要がある」。この発言にネットから「職業差別だ」と批判の声があがっている。それを受け「6月議会をもって職を辞そうと思う」と翌2日に辞職を表明した。 

 

 川勝知事を巡っては、リニア中央新幹線・静岡工区の着工を認めようとせず、日本中から注目されるようになった。JR東海も2027年リニア開業の断念を発表するなど、「国益にまで影響が及ぶ」と各方面から苦言が呈されている。例えば実業家の堀江貴文氏も「静岡県知事1人のゴネで国家的プロジェクトがここまで遅れてしまうという民主主義のバグ」「さすがに静岡県民はそろそろ「うちの県のわがままが過ぎた」と気付いてくれないと困る」「マジで静岡県に対して損害賠償請求して欲しいくらい」と声を荒げている。 

 

 そんな中で、元経済誌プレジデントの編集長で作家の小倉健一氏は「川勝知事にこそ、本当に知性はあるのか」と疑問視する一方で、「この知事の擁護を無批判に続けた地元紙・静岡新聞にも問題があった」と指摘するーー。 

 

 JR東海の丹羽俊介社長は3月29日、リニア中央新幹線品川―名古屋間の開業時期について、当初目標にしていた2027年の開業を断念する方針を正式に表明することになった。丹羽社長は開業目標時期について、静岡工区は工事契約締結からすでに6年4カ月が経過していることから、「名古屋までの開業の遅れに直結している。残念ながら、27年の開業は実現できる状況にない」と述べた。 

 

 静岡工区は着手から開業まで約10年を見込んでおり、明日、川勝平太静岡県知事が着工の許可を出しても2034年の開業となる。もちろん、川勝知事には、着工の許可を出す意思など皆無で、川勝知事が着工許可を出さない限り、リニア開業は後ろ倒しを続けることになる。 

 

 川勝知事はリニア開業が「2027年に実現できない」と断念したことについて、次のようなコメントを発表している。 

 

 

<静岡工区以外の工区は、2027年までに完了できるということなので、その状況をしっかり確認した上で、どのような活用をしていくべきかを、リニア中央新幹線建設促進期成同盟会において考えていきたい><本県としては、モニタリング会議にできる限り協力するとともに、リニア中央新幹線の整備推進と大井川の水資源及び南アルプスの自然環境の保全との両立に向けて、JR東海との対話を、できる限り速やかに進めていく> 

 

 まるで他人事のような言い分だが、2027年にリニア着工ができなかった原因は、川勝知事にある。このJR東海の表明を受けて、新聞各社はさまざまな報道をしている。 

 

 一番激しい怒りを見せたのが、産経新聞(3月30日)だ。 

 

『<主張>リニア開業延期 川勝知事の妨害許されぬ』と題する社説を掲載。<静岡工区の工事が、契約締結から6年4カ月が経過した現時点でも静岡県の反対で着工すらできていないためで、丹羽社長は「新たな開業時期は見通せない」と述べた。/誠に残念である。> 

 

<大規模工事に伴う環境対策はもちろん必要だ。JR東海は工事中に出る水を大井川に戻すなど具体的な環境対策案を幾度も提示している。/それでも知事は頑(かたく)なに態度を変えない。知事の言動が科学的知見に基づいているとはみえないのはどうしたことか> 

 

 まったく同感である。こうした強い危機感は、国民が共有できるものではないだろうか。 

 

 リニアが通る予定の沿線の知事からも、怒りの声が相次ぎ挙がっている。お隣の神奈川県の黒岩知事は、<神奈川県としてはやるべきことをやってきた。国家プロジェクトなのでそれぞれの責任を果たしていくのが当然>と静岡県に注文をつけた。リニア中央新幹線建設促進期成同盟会の会長も務める愛知県の大村知事は、<科学的な論拠やエビデンスに基づいてしっかりと議論して解決策を見いだし、一日も早く静岡工区を着工して、できる限り早期のリニアの開業を強く要望したい>とコメント。名古屋より先の三重県の一見勝之知事も、<開業が遅れることは国益を損なっている>と苦言を呈している。 

 

 それでもなお、静岡新聞は、リニア問題については、JR東海が折れろ、言うことを聞けという主張をいまだに続けている。 

 

 

 3月21日付の社説では、 

 

<JRが状況に応じて的確な対策を講じるかどうかを、国も関与する形で客観的に監視することは欠かせない> 

 

<JRは矢野座長の求めにできる限り応じる必要がある> 

 

 としている、同社説では、県にも提言をしているが、それらは「協議を加速させよ」や「真摯に議論を重ねよ」などと、JR東海にはコストがかかることや煩雑なことを求めているのに、静岡県に対しては、川勝知事への名指しを避け、協議をするだけでいいという、お手盛りの提言しかしていない。 

 

 社説で主張すべきは、科学的根拠のない川勝知事の妨害をやめさせることだ。静岡新聞の社説は、ゴニョゴニョ言って何が言いたいかわかりにくく、丁寧に読むと、JR東海にばかり、文句を言っている。 

 

 これまで川勝知事の妨害を全面的にサポートしてきたのが、地元紙・静岡新聞だ。静岡新聞は静岡県下で圧倒的なシェアを誇っており、デジタル時代が進んできたとはいえ、例えば、高齢者の中には、静岡新聞に同調してしまう人もいるだろう。 

 

 川勝知事が、能登地震後の石川県知事との大事なミーティングを欠席し、副知事を引き連れてまで出席した新年の賀詞交換会も、静岡新聞主催だった。今年1月の静岡県の広報誌では、去年の夏まで静岡新聞の論説委員長だった中島忠男氏が、川勝知事と仲睦まじいヨイショ対談を行っていることが確認できる。 

 

 例えば、川勝知事肝いりで行った東アジア文化都市事業について、静岡県にとって実質的に何の効果も無かった事業を、知事に同調する形で手放しで褒めたたえている。沼津の新貨物ターミナルについてもその重要性とともに話題に出しているが、この事業は川勝知事が「貨物駅不要論」を唱えてただただ10年遅らせた事業である。遅らせた責任に触れることなく話題にあげるなど、県政を監視する県紙の役割を放棄しているとしか思えない。 

 

 このように、川勝知事が自身の論理のみに基づき暴走しているのは、誰の目にも明らかなのに、どうしてここまでJR東海ばかりを、静岡新聞はたたき続けてきたのか。最近では世論の川勝知事の猛反発を知ってか、JR東海批判はひとまず矛を収めているようだが、リニア建設着工の6年4カ月の遅れのうち、幾分かは影響させたであろう、凄まじいまでのアンチキャンペーンの嵐だった。 

 

 

 現在でもデジタル版紙面(あなたの静岡新聞)では、過去のJR東海叩きが、大きく掲載されているので、少しだけ覗いてみよう。その一連の「JR東海叩き」キャンペーンは<大井川とリニア 連載アーカイブ>と題されている。2020年9月5日に開始され、確認できるだけで41本もの記事がある。見出しを並べてみると、 

 

<命の水 譲れない> 

 

<JR東海の説明、丁寧さ欠き混乱 不信感> 

 

<地方創生という大義 期待が先行、衰退懸念も> 

 

<希少種保護へ奔走 南限の植生失う可能性> 

 

<事務次官、異例の知事訪問 国交省27年開業へ焦り> 

 

<前のめりの小委員会、環境面の議論深まらず> 

 

<効率と安全追求の陰で 環境保全技術これから> 

 

<JR東海の企業体質 問われる地方への姿勢> 

 

<南アルプスルートの絞り込み 大量湧水、考慮の跡なく> 

 

<工区設定 説明なく進行 湧水の県外流出、後出し>…… 

 

 といった具合だ。例えば、今でこそ国交省有識者会議が出した水資源に関する中間報告では、「水資源について大きな心配はない」と結論付けていることについて正しい理解が広まっているが、中間報告が取りまとめられた際、2021年12月の静岡新聞の見出しは、「水量維持 JR予測不確実」、「中間報告対策要請 全量戻し方法は示さず」という酷く偏った内容であった。 

 

 このように、リスクを誇張して大きく取り上げる手法により、徹底的にJR東海を悪者にしてやろうとする取材意図を感じる半面、川勝知事の非論理的な言説を取り上げて、暴走を止めるような記事はごく僅かである。最近でも、昨年4月17日には、<なぜ協議が混迷するのか。最大の要因は、リスクの提示より安全のアピールが優先し、本県が求めてきた全量戻しは「できない」とJRがけじめをつけないからだ>として、これまたJR東海が悪いと決めつけている。 

 

 このリニアの静岡工区を巡る議論を少しでもウォッチすれば理解できることだが、これら静岡新聞が騒ぐような混乱、不信感などは起きていない。先にも少し触れたように、着工に必要な課題は、国が仲裁して設置された有識者会議において科学的・工学的にすでに解決済みか、今後解決することがわかっている。よく考えればわかりそうなものだが、すでに工事が進んでいる他の工区でも、自然環境の問題、水の問題、トンネルの問題などが各地で相次いで起きているかというと、川勝知事と静岡新聞が騒ぐような事態には、全くなっていない。なぜ、静岡工区でだけ問題が起きるのかといえば、それは川勝知事と静岡新聞の問題であることは明白だ。 

 

 

 
 

IMAGE