( 156038 )  2024/04/04 00:15:24  
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岸田文雄首相と面会後、取材に応じる日本銀行の植田和男総裁=3月19日午後6時、首相官邸 

 

 日銀がついにマイナス金利を解除した。政策金利で久しぶりのプラス金利の登場だ。預貯金や住宅ローンの金利はどうなるのか。AERA 2024年4月8日号より。 

 

【図表】26年度に金利はどこまで上がる? 

 

*  *  * 

 

 普通の生活者が金利を実感し始めたのは昨年秋からだろう。 

 

 2023年11月、メガバンクの先頭を切って三菱UFJ銀行が、10年定期の金利を0.002%から100倍の「0.2%」に引き上げた。 

 

「お申し込み状況は想定以上でした。1日あたり金利引き上げ前の数倍から数十倍のお申し込みをいただきました」(同行広報部) 

 

 年が明けると今度は日本生命が一時払い終身保険の予定利率を0.6%から「1%」に上げた。こちらも反応は上々だった。 

 

「2カ月半で前年比300%超の約6万5千件の契約を獲得しました。約3割が新規のお客さまです」(同社広報部) 

 

 預貯金など元本確保型商品に「うま味」がなかった期間が長かったためか、誰しも金利の変化には敏感だ。 

 

■家計と金利の関係 

 

 これらは一昨年暮れから日銀が容認し始めた長期金利の上昇を受けたものだが、ここに来て日銀はもう一段の大きな政策変更に動いた。3月19日、「マイナス金利」を解除し政策金利を「0~0.1%」にするとしたのだ。日銀の金融調節の本丸である短期金利でも利上げを行い、13年から続いた「異次元緩和」に終止符を打った。政策金利の利上げは実に17年ぶりである。 

 

 日銀は今回の政策変更を、賃金上昇と物価上昇の好循環が見込まれたからとしている。これは日本経済が自律的に成長し始めている証拠ともいえ、となると金利は今後、着実に上昇してもおかしくないことになる。 

 

 家計にとって「金利」とは何か。冒頭の預貯金などを通した「もらえる利息」があるが、住宅ローンなど、資金を借りた場合に払わなければならない「支払う金利」もある。金利上昇は「もらえる利息」については家計にプラスだが、逆に「支払う金利」は利息が増えるぶんマイナスだ。家計にとって金利が上昇するかどうかは一大事なのだ。 

 

 

 ただし、経済評論家の塚崎公義氏によると、今回の利上げ、当面は実体経済に大きな影響は出ないという。 

 

「日銀の植田(和男)総裁は非常に慎重に事を進めています。今回の利上げも何回も政策変更を示唆する発言をして市場に十分に織り込ませてから実行しており、その姿勢は今後も大筋で変わらないでしょう。金利が0.1%上がった程度では、実生活にほとんど影響はありません」 

 

■住宅ローン、急上昇も 

 

 ならば中期的にはどうか。 

 

「今回の利上げは欧米の歴史的な物価上昇とそれに伴う金利上昇が出発点ですが、その上昇はあれよあれよと言う間の出来事でした。同じことが日本で起きないかと言うと、他人事とは思えません」 

 

 こう話すのは、みずほリサーチ&テクノロジーズの主席エコノミスト、宮嵜浩氏だ。こうした見方から宮嵜氏のチームは昨年11月、日本の「金利のある世界」について一つのシミュレーション結果を公表した。 

 

 前提としたのは持続的・安定的な2%の物価上昇とそれを上回る賃上げ率が実現すること。まさに日銀の利上げ理由を先取りしている。そしてこれに投資が活発化して潜在成長率が現状の0.5%から0.8%に上がる条件をプラスした。主な試算結果が表だ。 

 

 宮嵜氏は「日本経済が強く成長し、金融正常化が進んだ場合の話です」と強調するが、並んでいるのはどれも驚きの数字だ。 

 

 26年度の日銀の政策金利は11回の利上げを経て2.8%に上昇、これに伴って長期金利も3.5%まで上がる。預金金利が10年定期で2.5%に上がるのはうれしいが、半面、住宅ローンは、半年ごとに金利が見直される変動型で3.1%にまで上がる。 

 

 注視すべきは次の2点だろう。一つは、普通預金の金利は0.4%に上がるが、物価上昇が2%のため、実質金利がマイナス1.6%になること。つまり、銀行に預金したままでは資産は目減りする。もう一つは、やはり住宅ローンの急上昇だ。みずほの担当者によると、「変動型では未払い利息までは発生しないが、利息の返済が大幅に増える」。ここまで上昇すると、元本の減り具合が鈍ってしまう。 

 

 繰り返すが、このシミュレーションは日本経済が力強く成長することが前提になっている。現実がどう動くかはわからないが、「日経平均、34年ぶり高値更新」とか「賃上げ、33年ぶり5%超え」など「○年ぶり」が続く現状を見ると、少なくとも「上限」として視野に入れておくべき数字であるかもしれない。(編集部・首藤由之) 

 

※AERA 2024年4月8日号より抜粋 

 

首藤由之 

 

 

 
 

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