( 156698 )  2024/04/06 00:23:25  
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Photo:消費者庁/JIJI 

 

 小林製薬の「紅麹」(べにこうじ)による健康被害が拡大している。左派系メディアや野党は「機能性表示食品」の制度や安倍晋三元首相時代の規制緩和を問題視するが、こうした主張には大きな疑問がある。(イトモス研究所所長 小倉健一) 

 

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● メディアの「決めつけ」に注意を 

 

 小林製薬の紅麹の成分を含む健康食品を摂取した人の健康被害が、連日報告されている。厚生労働省は、3月31日の時点で、のべ786人が医療機関を受診し、のべ157人が入院したことが小林製薬からの報告で明らかになったと発表した。関連が疑われる死者数は5人にもなる。 

 

 この問題では、小林製薬の「紅麹」の成分を含む「紅麹コレステヘルプ」を摂取した人が腎臓の病気を発症し、去年製造された紅麹原料と製品から「プベルル酸」とみられる、製造工程で想定しない成分が検出されている。 

 

 プベルル酸は青カビ由来の物質で、1930年代に発見された。読売新聞オンライン(3月30日)によれば〈感染症の原因となるマラリア原虫に効果があることを突き止めていた北里大のチームは2017年、マウス5匹に注射した実験で4匹が死んだと報告。しかし今回のサプリで問題となった腎臓への影響はわかっておらず、プベルル酸以外の物質が腎障害を引き起こした可能性も残る〉という。 

 

 小林製薬の一連の対応には私も疑問があるものの、悪意ある人物の犯行という線も消えておらず、意図的なものでなければ業務上過失致死の可能性もあり、小林製薬が被害者である可能性も捨てきれていない。メディアから流れてくる決めつけ報道には十分な注意が必要だ。 

 

 いずれにしろこの問題、小林製薬の「紅麹」製造過程のどこかで毒物が混入した模様であるのだが、メディアや立憲民主党、共産党の議員によって、小林製薬による健康被害がいつしか「機能性表示食品」へと責任が転嫁されてしまっている。 

 

● 「機能性表示食品」が悪者なのか? 

 

 例えば、朝日新聞の大村美香記者は解説動画で「機能性表示食品だからこそ消費者が手に取って、被害が大きくなった」「健康食品のリスクをあらわにした事件」(朝日新聞デジタル、4月2日)などと断言している。 

 

 また、蓮舫参議院議員は〈機能性表示食品を規制緩和で推し進めた人物は安倍元総理の知人であり、今は大阪パビリオン総合プロデューサー、そして実現しなかった大阪発ワクチン開発の当事者でした。全てが繋がっています〉(3月30日のXへの投稿)と述べている。 

 

 野党第一党が騒げば、世論対策、選挙対策上、政権与党も対応を迫られることになる。消費者及び食品安全担当大臣である自見はなこ氏には毅然とした対応を求めたいところだ。 

 

 なぜか、問題視される「機能性表示食品」とは何か。何故に悪者扱いを受けるのかを考えていきたい。 

 

 問題が明るみに出たのは、3月22日だ。小林製薬の製造した「紅麹」原料により、健康被害が発生していることがわかった。 

 

 製薬業界関係者は、匿名を条件に筆者に以下のような見立てを披露した。 

 

 

 「小林製薬の原料製造の品質管理(おそらくプベルル酸による原料汚染)に問題があったこと、そして、小林製薬が2カ月間、行政報告を遅らせていたことが、事件の調査で今後明るみに出ると思われます」 

 

 紅麹による健康被害を受けて、関連業界では解約の急増、売上激減の憂き目に遭っている。そして、メディアや野党議員からは「機能性表示食品」という制度に起因する問題なのかという指摘が相次いでいる。 

 

● トクホとの決定的な違い 

 

 「機能性表示食品」とは、そもそも何なのか。消費者庁の資料によれば、以下の通りだ。 

 

 〈機能性を表示することができる食品は、これまで国が個別に許可した特定保健用食品 (トクホ)と国の規格基準に適合した栄養機能食品に限られていました〉 

 

  〈そこで、機能性を分かりやすく表示した商品の選択肢を増やし、消費者の皆さんがそうした商品の正しい情報を得て選択できるよう、平成27年4月に、新しく「機能性表示食品」 制度がはじまりました〉 

 

 つまり、許可制の「トクホ」に対して、届出制の「機能性表示食品」というわけだ。このトクホは、「許可が下りるまでに4年、企業にとって数億円のコストがかかる」(先述の関係者)とされており、トクホ市場の横ばいが続いている。 

 

 数億円というコストも大変だが、許可が下りるまでに4年では、その間に新しい商品が開発されてもおかしくない。 

 

● 届出制=ザルではない 

 

 しかし、機能性表示食品は届出制であるために、時間は大幅な短縮ができる。また、機能性の科学的根拠は、システマティックレビューによって評価されるため、コストも数百万円で済むことになる。 

 

 何より届出制とはいえ、「(機能性表示食品には)消費者庁による細かいチェックが入っており、管理がなされている」(前述の関係者)のが現状だ。 

 

 今回の小林製薬の紅麹の問題でも、消費者庁は届出のおかげで基本情報を瞬時に把握することができた。問題の発覚後、3月26日には総点検の方針を示し、28日には全事業者に報告を求めている。 

 

 もし、小林製薬の紅麹が、機能性表示食品ではなく、一般の健康食品であれば、基本情報を取得するだけでも相当な時間がかかり、対応はさらに後手後手に回ってしまったことだろう。 

 

 しかし、朝日新聞や野党の手にかかると、こうした機能性表示食品のメリットは一切考慮されず、安倍晋三元首相のもとで行われた「規制緩和」の一環であり、見直す必要があるという合理的根拠を欠いた結論が導き出されてしまう。 

 

 

● 風評被害を生み出す見当違いな批判 

 

 大きく彼らの言い分を整理すると以下のようになる。 

 

 (1)届出制が問題であり、許可制にすべきだ 

(2)安倍元首相による規制緩和が問題であり、規制を強化すべきだ 

(3)機能性表示食品だからこそ手に取った人がいる。機能性表示食品の問題だ 

 

 彼らの誤った言い分に、1つ1つ丁寧に反論をしていきたいが、上記3つの中で、いちばん大きな問題を生んでいるのは、3の「機能性表示食品だからこそ手に取った人がいる。機能性表示食品の問題だ」という主張だろう。冒頭に紹介した朝日新聞の記者も同様の主張をしている。 

 

 この問題が、小林製薬のガバナンスの問題、もしくは故意に毒物が混入されたのであればその犯人のせいであり、機能性表示食品と健康被害には関係がない。そして、機能性表示食品が悪いというのであれば、風評被害を生み出すことにもなる。 

 

 例えば、あるフルーツパーラーで提供された「国産バナナ」が食中毒を出したからと言って、「国産バナナだから、買った人もいる。国産バナナの問題だ」などという主張がまかり通れば、関係のない国産バナナ業者は、理不尽な打撃を受けるということだ。 

 

 朝日新聞はどれだけ荒唐無稽な主張をしているかに早く気づいたほうがいいだろう。 

 

● 許可制なら防げたのか? 

 

 届出制だから問題というのも意味不明だ。現在、明らかになっている事件の詳細からは、許可制にしたところで、未然に防ぐことはできなかった。 

 

 あたかも「届出制」が、届出さえ出せばOKという仕組みであるかのような、ミスリードがあるが、実態は、これまで述べてきたようにきちんとしたシステマティックレビューで科学的根拠を示す必要がある。 

 

 こちらも、AさんとBさんが結婚して、のちにAさんのDVによるトラブルがおきて離婚してしまったとする。現状の結婚制度は届出制だが、DVトラブルや離婚は届出制ゆえに起きたのだろうか。結婚を許可制にすると、トラブルや離婚は起きないのだろうか。言いがかりに近い主張であることがお分かりいただけるだろうか。 

 

 届出制ゆえに起きた問題が、今回の小林製薬なのだとしたら、届出制の見直しを進めるべきだが、むしろ今回、届出制によって行政は素早い対応ができたという点を評価すべきだろう。 

 

 であるならば、見直しでなく「届出制の強化」を進めていくべきだ。 

 

 

● 機能性表示食品の「廃止」で起こる恐ろしい事態 

 

 ここまで読んできた人なら容易に理解できると思うが、安倍元首相時代の規制緩和が問題だという「謎主張」はまったく関係がない。 

 

 むしろ、機能性表示食品にしてよかったということだ。こと、安全性に関しては「規制緩和」ではなく「規制強化」であったのだ。食品の安全の問題をくだらない政争に巻き込まないでほしい。 

 

 もし、立憲民主党が次の選挙で、政権交代を果たしたなら、機能性表示食品を廃止(縮小)して、トクホを拡充するのだろうか。そのとき、何が起きるか? 

 

 数億円、4年もかかる許可など、多くの企業は利用せず、普通の健康食品として売り出すことになる。そうなれば、今回の事件のようなことが起きたときに、行政が基本情報を把握することもできず、迅速な対応など不可能だ。安倍元首相への怨恨を、食品の安全分野に持ち込むのはやめてほしい。 

 

小倉健一 

 

 

 
 

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