( 156783 )  2024/04/06 12:54:30  
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Gettyimages 

 

 「一般社団法人つくろい東京ファンド」と「NPO法人北関東医療相談会」のふたつの団体を中心に活動する大澤優真さん(31)は、主に難民申請中や仮放免と言われる、生活に困窮する日本に住む在留資格のない外国人の生活支援をしている。 

 

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 さまざまな事情で故国にいられず、日本に逃れてきた外国人の難民申請を支援するが、日本の難民認定率は2%。日本政府から「日本にいてはいけない」と言われながら、故国に帰れない外国人は「入管」に収容され、一時的に「入管」を出ることが許されても、「仮放免」といって、仕事をすることも、住んでいる都道府県の外に出ることも許されず、健康保険や生活保護などの社会保障制度も受けられない。 

 

 そういった状況に置かれた家族がどのように困窮していくかは、2022年に公開された映画「マイスモールランド」(川和田恵真監督)でも描かれている。だが、いまなお故国で生命の危機にあい、逃れるように日本にやって来る外国人は後をたたない。 

 

 今日も中野区にある「つくろい東京ファンド」の事務所に、日本に来たばかりのふたりの外国人男性が訪れた。ふたりを案内してきたのは、すでに来日10年以上になり、大澤さんたちの支援を受けながら、いまはその活動の手伝いもしている外国人男性で、彼が大澤さんの日本語をふたりの話せる言葉に通訳する。 

 

 事務所のスタッフがお茶を出すと、彼はふたりに対して、「アリガトウゴザイマス。言ってみて」と日本語でのお礼の言い方を教えていた。これから日本で生活するための最低限のスキルとして、まずは「ありがとう」が言えなければ、とのことだろう。 

 

大澤優真さん(筆者撮影) 

 

 来日10年以上の外国人が説明することによると、ふたりは昨日成田空港に到着した。そのあとどうすればいいかわからず呆然としていたが、アフリカ系の人に話しかけたらふたりがイスラム教徒であることから埼玉のモスクまで連れていってくれ、昨夜はそのモスクのそばで夜を過ごした。そのモスクでつくろい東京ファンドに関係する外国人と出会い、ここまで連れてきてもらったという。 

 

 ふたりに大澤さんが伝える。 

 

 「私たちはパブリックではない、入管とは違う、民間の支援団体です。小さい団体ですが、あなたたちの生活をサポートしたいと思います。今日はまずホテルを取ろうと思ってます。そのあとシェアハウスかゲストハウスに移ってもらおうと思っています。お金もずっとは続かないのですが、相談しながらやっていきましょう」 

 

 まずはふたりのパスポートを見せてもらい、名前と年齢、ビザの種類と期限を確認する。そのあとふたりが説明したところによると、ふたりは兄弟で、政治的なグループに加わっていたところ、政府に弾圧され、いとこも殺されて、命の危険を感じ、日本行きの飛行機のチケットとビザを手に入れてやってきた。日本を選んだのは、フランスやイタリア、アメリカだとその国についたとたん、捕まって連れ戻されるが、日本だとそれはないと聞いたからだという。警察から殴られてできたという傷も見せてくれた。 

 

 

 大澤さんがふたりに告げる。 

 

 「あなたたちが大変だったことは理解しています。あなたたちがこれから必ずしなくてはいけないことを説明します。まず難民申請をしてください。この書類は書くのが難しいので準備が必要です。難民の審査には大体4年かかります。申請して8ヵ月が経つと働けるビザがもらえます。もし申請が却下されるとまったく働けなくなってしまいます」 

 

 疲れたようすのふたりは、大澤さんが渡した難民申請の書類をめくりながら、不安そうな表情になるが、「何か質問はありますか」と聞かれると、「いまはただありがとうございます」と答え、その日は大澤さんが手配したホテルにと向かっていった。 

 

 ふたりがいなくなったあとの事務所で、大澤さんが記者に説明する。 

 

 「いまの日本の難民認定率は2%で、しかもその内訳はアフガニスタンとミャンマーの人が多くを占めているので、今日来たおふたりの難民申請が認められる確率は非常に低い。でも今日はそれを言うと彼らの心が折れてしまうと思って言いませんでした。これからタイミングを見て伝えようと思いますが、ショックを受けると思います。難民認定率は2%ですとお伝えすると、黒人の人が多いので表現が正しくないかもしれませんが、本当に一瞬で顔が青ざめるのが見ていてはっきりと分かるんですよ」 

 

 日本の難民認定率が低いという情報を、日本に来る前に知ることはネットがあっても難しいのだと言う。日本はいい国だと学校で教わったとか、欧米もいまは入国が厳しくなっているという情報で日本にやってくる。しかし日本でも2023年に入管法が改正されて、3回以上難民申請をした人は本国へ強制送還できるようになる制度が2024年の6月までに始まる。ますます厳しくなる状況のなか、大澤さんはどうしていまのような活動を続けているのだろうか。 

 

 「私は取り立てて裕福でも貧しくもない、工場勤務の父親と農業やパートの仕事をしている母の間に生まれました。両親が何かの社会活動をしていたということもありません。小学生のとき、テレビで中東で用水路を作る、あとからわかったのですが中村哲さんの関係の仕事をした人の映像を見て、自分も中東あたりでそういう活動をしたいと思って、中東研究ができる法政大学に入ったんです。 

 

 そうしたら当時あるお笑い芸人の母親が生活保護を受けてバッシングされたことがあって、先生がそのことを授業で取り上げていました。そのとき、私も内心、生活保護の不正受給は問題だと思っていたのですが、先生の話を聞くと、実は不正受給はそれほど多くなくて、むしろ受給するべきなのに受給していない人のほうが多い。そのときに自分も貧しい人を差別する側の人間になりかけていたのかとショックを受けて、ある団体のホームレスの方を支援する夜回りに参加したのが、こういった活動に参加するきっかけでした」 

 

 その後さまざまな活動に参加しながら、法政大学大学院人間社会研究科の博士課程を納め、博士論文をもとに『生活保護と外国人 「準用措置」「本国主義」の歴史とその限界』(明石書店)を刊行。現在は日本女子大と立教大の講師も務めている。「つくろい東京ファンド」のスタッフとしては、仮放免の問題に特に取り組んできた。日々更新している大澤さんのX(旧Twitter)には、困窮した外国人から毎日逼迫した相談を受けている様子が書き込まれる。相談件数は毎週数十件にのぼる。 

 

 

 「仮放免の人たちはいま日本に大体5000人くらいいるのですが、生活の状況からいうと、まず働けない。自営業も、人の手伝いでお金をもらうのもダメ。かつほとんどの社会保障からも排除されている。必然的に困窮しています。あとは難民申請中の方の支援の活動も多いです」 

 

 そこまで困窮しながらどうして日本にいつづけるのかと思いそうだが、彼らにはどうしても故国に帰れない事情があるのだという。 

 

 「アフリカのマリという国から来た人の例では、政府とロシアの民間軍事組織ワグネルが組んで、イスラム原理主義派を討伐している。イスラム原理主義派のほうでも色んな人を殺しているけど、ワグネルのほうも髭が生えているからというだけでイスラム原理主義派だと決めつけて人を殺したりしていると。 

 

 その人は大学院の修士を出て学校で先生として働いていたのですが、イスラム原理主義派からも銃をつきつけられ、お父さんと弟も連れ去られてしまった。知り合いから『お前もここにいると殺されるぞ』と言われて、家を売って全財産をチケット代に変えて小さいリュックとサンダルだけで日本にやってきたそうです」 

 

 そういった国からやって来た人たちは、たとえ仮放免などの状況に置かれようとも、命の危険のある故国には帰りたくない。できることなら日本にいたいと訴えるという。 

 

 「あるいはすでに何十年も日本で暮らしていて、子供も日本で生まれ育って日本語しか話せない。日本にしか生活の基盤がないというケースもあります。いま技能実習制度が新しく育成就労という制度に作り変えられようとしていますが、経済合理性だけを考えれば、すでに何十年も日本に暮らしている人の在留資格を奪って仮放免にするよりも、かれらに在留資格を出せばすでに日本語も話せるのでちょうどいいはずです。 

 

 しかし実際は、すでに日本に生活の基盤がある人に対しても、仕事がなくなって生活に困窮したりといったきっかけがあると、あなたは日本にいてはいけない人ですから帰ってくださいと言っているのがいまの日本の状況です。一度入管に収容され、出されると仮放免という身分になる。働けないし社会保障もないという状況において、苦しめて帰らせようとしているとしか思えません」 

 

 国はいま技能実習制度を育成就労制度として作り変えて労働力として入れようとしている。それなのに、これらの困窮外国人はどうしてシャットアウトするのだろうか。 

 

 「おそらく国は入国者をコントロールしたいんだと思います。難民の人はなかなかコントロールできませんから。あとは、最終的には定住させないで、若くて元気なうちに働いてもらって、歳を取ったら帰ってもらいたい。いいとこ取りですけど、人間はロボットではありませんから、年も取るし病気にもなれば、家族も作ります。果たしてそんなに都合よく労働力だけになってもらえるものでしょうか」 

 

 

 仮放免の人たちは家賃を滞納したり、自分では家を借りられなくて友人宅を転々としていることも多い。仮放免の人の5人に1人が路上生活の経験があるというデータもある。また、NPO法人北関東医療相談会の調査によると、43%の人が「生活がとても苦しい」46%の人が「生活が苦しい」と答え、1日の食事回数が1回と答えた人は16%、2回と答えた人は60%にのぼる。また、84%の人が「経済的問題により医療機関を受診できないことがある」と答えている。 

 

 そのような状況の外国人に対し大澤さんたちは支援を続けているが、その内容がネットで伝えられると、「そのような外国人は自分の国にお帰りください」といったコメントが書き込まれることも多い。そのことについて大澤さんに聞いてみると、 

 

 「ネットではそのような声がありますが、実際に対面の場面で、困って助けを求めている人を罵倒するような人はあまりいないです。私も生活保護の不正受給は悪いことだと思っていたこともあったし、知らないことについてはなかなか想像が及ばないのかな、と思っています」と言う。 

 

 現在、つくろい東京ファンドや北関東医療相談会の活動にかかる費用はほとんどを寄付で賄っている。食料品なども寄付されたものを配っているが、ホテルを手配するにもいまはインバウンドによる高騰で東京で1泊1万円以下で探すことは難しくなっており、運営は苦しくなる一方だ。 

 

 「日本政府は労働力として外国人をたくさん日本に入れるといいながら、一方で日本社会の労働状況を安定化させるのとは反対の方向にも向かっていて、方針がちぐはぐな気がします。 

 

 仮放免の人や難民として来た人たちのなかには、健康で働ける人がたくさんいるのに、働けない状況におかれるとだんだん心身のバランスが崩れて病気になってしまう。そうなるよりは、働ける時間を制限してもいいから、就労を認めれば彼らは税金も払ってくれるし、日本社会の一員になってくれる。だから何よりも彼らに働くことを認めて欲しいと思うんです」 

 

 2024年2月には、技能実習制度に代わる育成就労制度の導入に合わせて、すでに永住許可を持っている外国人の永住資格を、税金の未納や滞納が繰り返された時には取り消せる方針も決定された。 

 

 すでに永住資格を持っている外国人の身分も不安定化させるこういった方針に大澤さんは懸念を抱いている。これからの人口減少社会に向かって、外国人の受け入れをどのように進めていくべきなのかが問われている。 

 

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里中 高志(フリージャーナリスト) 

 

 

 
 

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