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2531年に日本人の全ての名字が「佐藤」になるという研究結果が発表され、これは少子・高齢社会の影響を受けたものとされた。

日本の法律では、結婚時に夫婦のどちらかが名字を変える必要があるため、結婚するたびに名字の多様性が減少していき、結果的に全員が同じ名字になる可能性があるという仮説が立てられた。

この研究をきっかけに、選択的夫婦別姓制度の導入を促すためのプロジェクトが展開され、これに多くの企業も参加した。

日本の現状では、法律上夫婦は同じ名字を名乗らなければならず、婚姻届を提出する95%のカップルが妻の名字を捨てている。

また、選択的夫婦別姓制度の導入に賛成する人々は83.9%にも上り、国民の大部分がその必要性を認識している。

これに対し、政府や立法機関の動きは鈍く、28年間も改正法案が国会提出されない状況が続いている。

この問題に取り組むプロジェクトや当事者たちの取り組みが進められている中、政府や立法機関の決断と実行が待たれている。

(要約)

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*イメージ写真 

 

 2531年には、日本人の名字がすべて「佐藤」になる――。そんな驚きの研究結果が4月1日に公表され、話題となった。 

 

【写真】(株)ワーク・ライフバランスがXにアップした「佐藤さん」ばかりの社員一覧 

 

 エイプリルフールとあって一見単なる冗談のようだが、これは、少子・高齢社会の経済分析を専門とする東北大学経済学研究科・高齢経済社会研究センターの吉田浩教授による研究結果だ。 

 

■ 笑いを禁じ得ない記者会見 

 

 公表した一般社団法人「あすには」によると、約13万種類あるという日本の名字の中で最も多いのは「佐藤」。2023年時点で全体の約1.5%、割合にして100人に1人から2人がすでに佐藤さんという国なのだが、結婚する2人のうちどちらかが名字を変えない限りは法律上の結婚ができない日本の現行制度がこのまま続いた場合、いずれ日本人全員が佐藤さんになってしまう、というのだ。 

 

 年間50万組が結婚するこの国で片方の名字は必ず淘汰され、徐々に名字の種類が減っていったら、やがてみんな一つの名字になってしまうのではないか――。 

 

 そんな仮説から生まれた研究。「あすには」が吉田教授に独自調査を依頼し、佐藤姓の増加率や人口動態から分析を行った。その結果、夫婦のいずれも名字を変えずに結婚することを選べる「選択的夫婦別姓」を導入しないままだと、今から約500年後の2531年には、佐藤姓が100%に達する、というシミュレーションが導き出されたのだ。 

 

 「2446年には50%が佐藤さんなので、何か多数決するときに佐藤さん同士がみんな佐藤さんに入れると、何でも佐藤さんの思う通りになるという世の中になるわけです」。そんな調子で、スクリーンを使って大真面目に研究成果を発表する吉田教授の姿に、会見にオンラインで参加していたわたしは思わず噴き出してしまった。 

 

 この突飛な研究結果は、「あすには」が呼びかけた「THINK NAME PROJECT」という企画の一環。男女の平等な婚姻やキャリアを応援するため、日本人が選択的夫婦別姓について考えるきっかけをつくり、名前について考えを促すことを狙ったプロジェクトだ。 

 

 注目すべきは、このキャンペーンに、多くの企業が参加した点だ。 

 

■ 企業も参加したエイプリルフール企画 

 

 働き方改革コンサルティング業務を展開する株式会社ワーク・ライフバランスは4月1日、「一億総活躍の前に一億総佐藤時代が来る?」などとX(旧ツイッター)に投稿。小室淑恵社長が「佐藤淑恵」になるなど、スタッフの顔写真が「佐藤化」した社員名とともにずらり並んだ画像をアップした。 

 

 

■ 日本の未来はこんなにも画一化された社会なのか 

 

 アーティストマネージメント・音楽配信会社のつばさレコーズは、佐藤康文社長がプロジェクトの公式サイトにこんなコメントを寄せた。 

 

 「『さとう』だけに甘く考えていました。このお話を頂いた事をきっかけに夫婦で話をしました。男性側の『当たり前』が知らぬ間に女性側の負担になっていたんですね。全ての人が自分の家、家族、名字が大事なのは当たり前ですよね」 

 

 4月1日、同社の公式サイトでは、所属アーティストの名前がずらりと佐藤となった形でアップされた。「水曜日のカンパネラ」は「佐藤のカンパネラ」、「川嶋あい」は「佐藤あい」といった具合に。 

 

 オイシックス、三菱鉛筆、ドワンゴ、KADOKAWA…プロジェクトに賛同した企業などのパートナーは40近くに上った。 

 

 「あくまで名前の多様性について考えてもらうのが目的で、佐藤さんの名字を否定するものではないんです」 

 

 そう前置きをした上で、「あすには」代表理事の井田奈穂さんは、このプロジェクトにかけた思いをこう説明した。 

 

 「500年後にはわたしはこの世にいないけど、多様性、多様性といって各企業がダイバーシティに取り組んでいる中、『画一化』というものが進む世界を視覚化したらどうなるんだろうなって」 

 

■ 1996年からずっと終わらない宿題 

 

 500年先なんて、そんな未来のことは正直考えられない。ただ、逆に過去を振り返ってみると、選択的夫婦別姓の問題が、長く問題として存在しながら、なかなか立法府が動かないというのがしみじみよくわかる。 

  

「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」とした民法750条や、戸籍法74条などの規定によって、日本では法律上の結婚をしようとすると夫か妻のどちらかが、それまで使ってきた自分の名字を捨てることを強制されている。 

 

 これらの「強制的夫婦同姓」の規定について、法制審議会は1996年2月、名字を変えずして婚姻届が出せるようにする選択的夫婦別姓制度の導入を盛り込んだ「婚姻制度等に関する民法改正要綱」を法務相に答申した。これを受け、法務省は改正法案を準備したが国会提出には至らず、以来28年間、法改正に至っていない。 

 

 28年前…。Mr.Childrenの「名もなき詩」や、ウルフルズの「ガッツだぜ!!」が流行っていたころ。ああ、懐かしい。ただ、大学入学を控えていた18歳のころに提案されたことが、40代2児の母になった今も実現しないのは驚きだ。 

 

 夫婦が同じ名字を名乗らなければならないというルールは変わらない上に、婚姻届を出すカップルの95%は、妻の側が名字を捨てる、というのが現実の姿なのだ。巷には、「女性活躍推進」とか「ダイバーシティ&インクルージョン」といった掛け声が響きまくっているというのに。「ジェンダー平等の実現」を項目の一つに掲げたSDGsのカラフルなピンバッジを、スーツ姿の人たちは皆つけているのに。 

 

 

 制度導入を求めた当事者たちが幾度も訴訟を起こしてきたが、違憲判決には至っていない。ただ、2015年の最高裁判決は、その補足意見で、「夫婦別姓制度の導入は司法の問題ではなく、国会による立法で解決すべき問題」と示した。 

 

 「国民の間にさまざまな意見があり、より幅広い理解を得る必要がある」。と岸田文雄首相は消極的だ。だが、基本的に自民党以外のすべての党は、制度導入に賛成を表明している。そして、国民は「理解」が必要な状態ではもはやない。国立社会保障人口問題研究所と法政大学の研究チームの調査によると、選択的夫婦別姓に賛成する人の割合は、圧倒的多数の83.9%にも上るのだ。 

 

 そして、2024年の今、夫婦が同じ名字を名乗らない限り婚姻届が受理されない「強制的夫婦同姓」の国は、世界中で唯一、日本だけなのだ。 

 

■ 「決断と実行」いずこ 

 

 「国際社会をリードしていく」(2023年9月、国連SDGsサミットでの演説で) 

 

 「国際社会を牽引する決意と覚悟」(2023年5月、G7広島サミット開催前のX投稿) 

 

 「グローバル・スタンダードを尊重」(2016年1月、経済団体の会合で) 

 

 これらの勇ましい発言の主は、すべて「決断と実行。」をキャッチフレーズにしてきた岸田首相だ。「国際」「グローバル」といったスケール感が好物のようだが、世界をリードするどころか大きく立ち遅れ、グローバル・スタンダードからもかけ離れている現実を打破すべく、決断と実行をしてくれないのはなぜなのだろう。防衛装備品移転、いや、武器輸出に関しては、さっさと決断してしまうのに。 

 

 SNSでの世論の高まりを受け、2018年に任意団体「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」を立ち上げ、全国各地の地方議会への働きかけを重ねてきた井田さんは昨年、この団体を母体として一般社団法人として「あすには」を設立した。 

 

 一般社団法人化したことで企業や経済団体とスムーズに協働できるようになり、今年の国際女性デーだった3月8日には、2021年から集め続けてきたビジネスリーダーの個人署名1046人分を、経団連や経済同友会といった経済団体とともに政府に届けた。 

 

 「ジェンダーギャップ指数が125位と立ち遅れている日本で、ジェンダー平等への取り組みは企業にとっては喫緊の話題。グローバルの視点からもESG投資がすごく重視される今、こうした対策を怠ると、投資も優秀な人材も集まらない。そんな時代なんです」。井田さんは言う。 

 

 経団連の十倉雅和会長が、会見で力強い発言をしたのも記憶に新しい。「政府には、女性活躍や多様な働き方を推進する方策の一丁目一番地として制度の導入を検討してほしい」 

 

 2025年には必ず実現させると、井田さんは言い切る。企業は一歩も二歩も、政府の先を行っている。28年前から時計の針が進まない立法府と行政府は、いつになったら動き出すのだろうか。まさか500年も待たねばならない、なんてことはないだろうが。 

 

 【宮崎園子】 

広島在住フリーランス記者。1977年、広島県生まれ。育ちは香港、米国、東京など。慶應義塾大学卒業後、金融機関勤務を経て2002年、朝日新聞社入社。神戸、大阪、広島で記者として勤務後、2021年7月に退社。小学生2人を育てながら、取材・執筆活動を続けている。『「個」のひろしま 被爆者 岡田恵美子の生涯』(西日本出版社)で、2022年第28回平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励賞受賞。 

 

 ■著者のその他の記事 

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◎「震度7から29年後のまち」神戸市長田区で、能登半島の今後を想う(2024.1.6) 

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◎8月6日の広島の式典、なぜ毎年、総理の言葉は空々しく響くのか(2023.8.6) 

◎広島市の図書館の移転問題、開示請求で出てきた黒塗り文書から「見えるもの」(2023.7.6) 

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宮崎 園子 

 

 

 
 

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