( 157128 )  2024/04/07 13:57:51  
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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/baona 

 

新NISAを今始めるべきなのか。金融アナリストの高橋克英さんは「NISAを始めれば自動的に儲かるものでは当然ない。損失リスクもある。さまざまなデメリットもあるため、口座開設すらしない人もいる」という――。 

 

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■「株で儲かった」広まる成功体験とキャンペーン 

 

 NISAとは、日本国内での株式や投資信託などの投資における売却益と配当への税率を非課税とする制度である。2024年1月から始まった新NISAでは、非課税期間を無制限にし、年間の投資上限額を最大360万円(成長投資枠240万円+つみたて投資枠120万円)に引き上げ、生涯に亘る非課税限度額も1800万円に増やされた。 

 

 ちょうど軌を一にして日経平均株価が4万円を超えるなど、株式市場が高騰するなか、「実際に株で儲かった」、「スマホアプリ上の含み益がどんどん増えている」といった成功体験が広がっている。それを背景に、楽天証券やSBI証券などネット銀行だけでなく、大手証券会社やメガバンクに地銀や信金に至るまで、「NISAキャンペーン」と称し資産運用セミナーの開催、キャッシュバックやポイントや金利の優遇とあの手この手で顧客の取り込みを図っており、NISAの新規口座数は増加し続けている。 

 

 もっとも、NISAを始めれば、自動的に儲かるものでは当然なく、細かい点も含め、実際に始めてみるとさまざまなデメリットがあることも明らかになりつつある。 

 

■クレジットカードでの積立購入金額が引き上げられたが… 

 

 新NISAが既にスタートした後の今年3月8日にようやく内閣府令が改正され、クレジットカードでの投資信託など積立購入が月10万円まで可能となった。この改正を受けて、楽天証券やSBI証券などネット証券などが、クレジットカード積立の上限金額を引き上げており、新NISAでもつみたて投資枠でも、年間投資枠120万円に対して、月10万円のクレカ積立でスムーズに対応できることになる。 

 

 もっとも、新NISAは既にスタートしており、月10万円の積み立てを、クレカ積立で5万円、その他銀行口座引き落としで5万円と仕方なく分けて対応してきた個人も多い。クレカ積立10万円とするには、既存の積立設定をいったん解約して再設定する必要があったりするため、「分かりにくい」「面倒くさいのでそのままにしている」といった声も聞こえてくる。 

 

■30代会社員Aさんを待っていた「落とし穴」 

 

 今年からNISAを利用し始めた都内在住の30代会社員Aさんは、雑誌やSNSの情報を参考に、成長投資枠にて、米国マグニフィセント・セブンの一角である、マイクロソフトとエヌビディアの個別株を年初にそれぞれ120万円相当分購入してみた。スタート早々、株価上昇が続き、円安効果もあり、両銘柄とも2カ月足らずで30%を超える上昇となった。このため、後者のエヌビディアをいったん手じまいして利益確定しようと、全額売却し、手取りの月給近い売却益を手にすることができた。 

 

 

■新NISAでは売却分の枠で再投資できるのは「翌年以降」 

 

 ビキナーズラックだと思いながらも、幸先の良い結果に気を良くしたAさんは、次はどこに投資しようかと、探した結果、同じくマグニフィセント・セブンの一角であるメタに決定し、早速、購入しようとネット証券のスマホアプリを開き、クリックしながら操作を進めるも、「決定」ボタンが押せず、進まない事態になってしまった。 

 

 よくよく調べてみると、新NISAでは保有資産を売却すると、売却した分の非課税投資枠にて再投資できるとある。しかし、再投資できるのは、保有資産を売却した翌年以降になる、という。 

 

 Aさん曰く「何それ、使えない」。3月初めの時点で早くも今年1年間の成長投資枠の半分が利用できないこととなってしまった。「基本的に売買するな、ということでしょうね」と嘆く。今年の相場のように年初早々から株価が急騰したことで早々と売却すると、そこから年末まで当該枠が使えず、NISAでの追加投資は終了ということになるのだ。 

 

 資産運用では長期的な計画も大事だが、マーケットの変化に応じて、同時に走りながらその都度考え即断即決する世界でもある。そうした一種の覚悟を持つことが投資を行う上での前提となってくる。そう考えると、期中で売買すると以降その枠は使えないNISAは、本来の投資のあり方と相性がよくないのだろう。 

 

■損益通算も繰越控除もできない 

 

 さらに不便なことに、仮に、NISA口座で保有する商品を売却して、売却損が生じた場合、特定口座にある他の商品の配当金や売買益等と損益通算ができないのだ。また、損失の繰越控除(3年間)もできないことになっている。 

 

 なぜなら、NISA口座では、配当金や売買益等は非課税となる一方で、これらの売却損は税務上ないものとみなされている、からだそうだ。 

 

 確かに、初めから損する前提で投資を始める人はいないと言われればその通りかもしれない。「頻繁な回転売買を避けるように設計されている」(大手証券会社役員)、「損切をためらわせ、長期保有するための仕組みなので」(銀行アナリスト)との声もある。いずれにせよ、現実には売却損は発生するものである。 

 

 

■「口座開設すらしていない」富裕層の実態 

 

 日米で株価が最高値を更新し、NISAや資産運用で盛り上がるものの、上述したように、クレジットカード積立の上限額変更、売却後の再投資に制約があること、損益通算も繰越控除もできないことなど、いろいろと制約や条件がありそうだ。 

 

 このため、既に特定口座などで個別株を売買している人からは、「わざわざNISA口座を別枠で作るのは、面倒くさい」「手続きが分かりにくく、途中でやめた」との声も相変わらず聞かれる。 

 

 富裕層にとっても、「投資枠が小さくてメリットがない」との声も多く、「ややこしいことが目に見えているので、口座開設すらしていない」(外資系ファンドマネージャー)と、意外にも金融のプロでもNISAをやっていない人は多かったりする。 

 

 もっとも、NISAは富裕層や金融のプロのためというより、投資家のすそ野を広げるため、少額投資家のための制度なので、と諫める声もある。 

 

■NISAなら損するリスクが減るわけではない 

 

 いずれにせよ、忘れてはいけないのは、NISAによる投資においても、損失リスクがあるということだ。 

 

 もれなく貰えるポイントやキャッシュバックにつられてはいけない。当たり前だが、NISA口座を開設すれば、誰もがお得で自動的に儲かる話ではないのだ。 

 

 そもそも金融マーケットはトレンドも含め将来予測は困難であるケースがほとんどである。よって、「必ず儲かります、値上がりします」といった誘い文句はありえない。それはNISA口座による投資においても同じだ。 

 

 金利リスク、クレジットリスク、為替リスク、流動性リスク、地政学リスク……マーケットには多様なリスクが存在する。リスクとリターンはトレードオフ(表裏一体)の関係であり、リスクを抑えてリターンを享受するのは、理想ではあるが虚構ともいえる。 

 

 ローリスク・ハイリターンとか、ローリスク・ミドルリターンといった「おいしい金融商品」は幻だ。リスクテイクをある程度認めてリターンを得る、ということになろう。 

 

 NISAのメリットは、当該商品を売却した際の売却益が非課税になることであり、当たり前ではあるが、NISA口座で投資すれば、マーケットリスクが軽減される訳でもなく、当該商品に補塡(ほてん)が付与される訳でもない。 

 

 

■今は始めるタイミングとして最悪 

 

 更に、残念なことに、今はNISAを始めるタイミングとしては最悪といえるかもしれない。安い時に買い、高い時に売るのが、投資の基本。足元のような日経平均もNYダウも最高値更新が続く現地点からのスタートは、典型的な高値づかみにもなりかねない。空前のNISAブームが続く今は、誘惑に負けず何もせずひたすら耐え忍ぶ。なかなか実行はできないが、みんなが躊躇する、相場が下落したり、危機のときこそ動き出して買うのが理想ではある。 

 

■「長期・分散・積立」が計画通りできる人はいない 

 

 「安く買い、高く売る」が言うは易し行うは難し、だからこそ、「長期・分散・積立」が大事であり、NISAでの投資は理にかなっている、となるのだが、果たしてそうなのだろうか。「長期・分散・積立」も実は、「言うは易し行うは難し」ではないかと思っている。 

 

 例えば、はじめの元本はどのように調達するのだろうか。概して20代30代の多くは、月々5万円どころか、月々1万円の拠出でも大変な人はいるのではないのだろうか。毎月の通信費や交遊費などに加え、住宅購入や教育費など近い将来の大きな目標に向けての貯蓄などを優先したいことも多くある。そもそも、長期間の積立でようやく資金が貯まった頃には人生残り10年では、ライフスタイルとも合わないのかもしれない。 

 

 人生もマーケットも予測不能であり、就職や結婚、病気や介護、転職などによって途中で、金融資産を取り崩したり、予定通り投資できなくなることも起こるはずだ。いや、計画通り長期の積立ができる人はまずいない。 

 

 こうした予測できないライフイベントと予測不能なマーケットの上に成り立つ金融商品を組み合わせた個人の資産運用は、もともと非常に不安定なものにならざるを得ない。さらに、分散すればするほど、単品投資よりもパフォーマンスは劣るのではという疑問もある。 

 

 

 
 

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