( 157146 ) 2024/04/07 14:17:38 1 00 ライドシェアが日本で本当にタクシー不足を解消できるかどうかについて、牧村和彦氏は懐疑的な見解を示している。 |
( 157148 ) 2024/04/07 14:17:38 0 00 ライドシェアで本当にタクシー不足を解消できるのか?(写真:アフロ)
4月から一般ドライバーが自家用車で客を有償で運ぶ「ライドシェア」が一部解禁された。東京などの一部地域でタクシー会社が運行管理をする、いわゆる「日本版ライドシェア」だ。8日から順次サービスが始まり、「Uber」「GO」などのタクシー配車アプリでライドシェアの自家用車も呼べるようになる。 すでに地方自治体のなかには福祉などの一環として、「自家用有償旅客運送」という既存の枠組みを活用したライドシェアを実施してきた地域もある。今後は大都市圏でもタクシー会社が運行管理する形で事業が可能になった。タクシー会社以外の新規参入についても議論が進む。 だが、世界のモビリティサービスに詳しい牧村和彦氏は、そもそも日本版ライドシェアの普及に懐疑的だ。その理由を聞いた。 (湯浅 大輝:フリージャーナリスト)
【写真】日本でライドシェアが普及しない理由
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■ ライドシェアの需要は本当にあるのか?
──日本でライドシェア導入に向けた議論が活発になっています。4月から大都市圏でもタクシー会社が運行管理をする形で一部解禁になりました。3月には北陸新幹線の延伸開業に合わせて石川県加賀市でもサービスが始まりました。「加賀市版ライドシェア」では、加賀市観光交流機構が事業実施主体となり、Uber Japanが配車アプリを提供、加賀第一交通が運行管理を担います。
そうしたなか、牧村さんは一貫して日本版ライドシェア普及に懐疑的です。なぜでしょうか。
牧村和彦氏(以下敬称略):3月に始まった「加賀市版ライドシェア」を事例に考えてみましょう。私は、加賀市版ライドシェアの先行きには不安を感じていますが、その理由を一言で言えば、加賀市にはライドシェアの需要があまりないと見ているからです。
加賀市などは北陸新幹線の延伸で観光客が増加し、ライドシェアの需要が高まると予測しているようですが、はたしてそうでしょうか。
北陸新幹線の加賀温泉駅では、発着は上り、下りともに昼間で1時間に2~3本。主な観光地としては著名な温泉街があります。その温泉街には、駅から旅館が運営する送迎バスと民間が運営する路線バスで行くことができます。足のない地域ではありません。
そこに一般人が自家用車で送迎するアプリ専用のライドシェアのサービスを行政主導で導入することに疑問を感じます。
■ ライドシェアのドライバーでは儲からない?
牧村:他にも課題があります。まず、ドライバーの収入の低さです。加賀市版ライドシェアの運賃はタクシー料金の8割で、そこから経費などが差し引かれて売り上げの7割がドライバーの収入になります。
現時点で70人以上のドライバーが応募しているとのことですが、需要が乏しく給料も安いなか、数年後にどれだけの人がドライバーを継続してやっているか定かではありません。
例えば、京都府京丹後市で展開されているライドシェアでは、日本経済新聞によるとドライバーの数は現在16人*1 。年間の利用は1100回程度、1日に3回ほど利用されている計算です。 *1:過疎地「ライドシェア」、関西は京都先行 通院も手厚く
非営利目的なら問題ないのかもしれませんが、これくらいの利用頻度では持続的に事業として成り立たせていくのは難しいのではないでしょうか。これは地方でライドシェアを運営する地域に共通の課題です。
地方でライドシェアのドライバーに応募する人は、平日の日中に時間がある高齢者が多くなるでしょう。配車依頼をドライバーが常に確認できるのか、配車が短時間で成立するのかどうか、プロの運転手ではない一般ドライバーの健康管理を円滑にできるのかなど懸念が残ります。
つまり、需要が乏しく運転手の報酬も不十分な現在の制度設計では、ライドシェアが事業として根付くのは難しいのではないでしょうか。
Uber JpanはJBpressの取材に対し、「規制緩和によって運賃が(タクシー料金の)5割から8割に引き上げられたことで、ビジネスとして成立する公算が大きくなった」と答えた。
──東京など大都市圏ならうまくいくのでしょうか。
■ タクシー不足の原因はドライバー不足だけではない
牧村:大都市圏でも需要がそれほどないという問題はついて回ると思います。東京ではタクシーが不足していると言われ、京都などの観光地ではオーバーツーリズムが問題になっています。日本版ライドシェアはタクシー不足の解消が目的とされていますが、ライドシェアでタクシー不足の問題をどこまで解決できるのか疑問です。
そもそも、東京のタクシー不足の背景には、単に「ドライバーの絶対数が不足している」という要因にとどまらない、構造的な問題があるのです。
東京ではもう20年以上前から、雨の日や金曜日の夜、繁華街の夜などのタイミングでは、タクシーをすぐに拾うことができません。この状況の背景には、政策的な需給調整で配車台数に上限が設定され、供給力そのものが不足しているという事情があります。
また、東京では(タクシー会社が主導する)複数の配車グループがあり、それぞれのグループが運行管理をしていることも指摘しておく必要があります。特定のグループで時間や場所によってタクシー不足が生じることはあっても、東京全体で本当に不足しているのか、疑問が残ります。
こうしたタクシー業界を取り巻く構造的問題が解決されないまま配車サービスが普及した結果として、流しのタクシー(走りながらお客を見つける営業方法)を捕まえにくくなったという新たな問題も出てきています。配車サービスに登録すれば迎車料金の一部を収入として得られることから、流しのタクシーを選択するドライバーが減っていることが原因です。
新幹線の乗客を含め1日に多くの乗客が乗り降りする京都駅でも、地下鉄とバスが充実しています。1時間に100人も輸送できないライドシェアが必要とされる素地があるようには思えません。これ以上自動車が増え、渋滞がさらに激しくなれば、京都の観光都市としての価値自体が毀損する恐れもあります。
■ 欧米でライドシェアが普及した理由は「安さ」ではない
牧村:「タクシー不足の解消」を謳うのであれば、タクシー運転手の給料を引き上げればいいのではないでしょうか。そもそも、タクシー運転手のなり手が足りないのは、諸外国と比べても給料が安いからです。
欧米でライドシェアが普及した理由を、「タクシーよりも運賃が安いから」と認識している人が多いように思いますが、それは必ずしも正しくありません。実際、欧米のライドシェアの運賃は需給によって決まるケースが一般的ですので、需要が増えると必然的にタクシーよりも運賃が高くなる場合も少なくありません。
米ニューヨークでは15分移動するだけで1万5000円ほどかかる場合もあります。欧米の大都市では鉄道・バスをはじめとした公共交通機関が充実していない地域も少なくないからこそ、運賃が高くてもライドシェアが普及するという現実を知っておいた方がよいと思います。
欧米と比較すると日本のタクシー会社の給料は低く、ライドシェアはそれよりもさらに安く設定されているわけです。自家用車を維持管理する負担もあり、急激にドライバーが増えることは考えづらいと思います。
■ タクシー会社に「丸投げ」でいいのか?
牧村:他にも、日本固有の問題があります。それは、日本版ライドシェアでは、運行管理をタクシー会社に任せており、行政のチェックが甘くなりそうなことです。
一方、欧米のライドシェアでは配車アプリ会社に行政の厳しいチェックが入ります。ドライバーの犯罪歴や健康状態、利用履歴などを把握するためです。警察とも密に連携しています。
外資の配車アプリが普及していくことについても不安を感じます。例えば、東京でライドシェアの利用が増えると、誰がどこで乗車・降車したかといった情報がデータとして蓄積されていきます。個人情報の漏洩リスクはどんなサービスでもありますが、個人の行動履歴が国外に流出すると、テロのリスクなど安全保障の観点からも問題になり得ると考えています。
■ ライドシェアより、まずはタクシーの規制緩和を
──結局、日本にライドシェアは必要なのでしょうか。
牧村:もちろん、短距離の移動に関して日本も多くの問題を抱えています。ただ、都市部では公共交通機関が発達していますし、自由な移動を好む富裕層に対しては個人ハイヤーも充実しています。
地方の移動手段不足という課題には、病院の送迎、商業施設の送迎、スクールバースの送迎、通勤バスの送迎など、様々な送迎サービスの混乗での解決策を議論していくことが大切で、「ビジネス目的で個人の自家用車を使い、1~2人を運ぶ」というモデル自体が必要とされているのか、疑問が残ります。
解決策のひとつとして私が提唱したいのは、個人タクシーの規制を緩めること。タクシー運転手不足の問題は、給料が低いことのほかに、35歳以上しかなれないという問題があります。
タクシー会社に勤めるよりも、個人タクシーを開業した方が自由な働き方が可能で、乗客を乗せられた分だけ売り上げもアップしますから、キャリアとしては魅力的です。30歳以上は開業を認めるなどの施策が必要だと思います。
また、企業が許可したマイカー通勤の方は、毎日一人乗りで朝夕移動しています。企業と従業員による共助型のライドシェア(相乗り)を国が主導して進めていくことも必要だと思います。
湯浅 大輝
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