( 157468 ) 2024/04/08 14:22:07 0 00 Photo by iStock
---------- 生涯独身の男性の平均寿命は、67歳……。こんなショッキングなデータが存在するのをご存じだろうか? 近刊『老後ひとり暮らしの壁』の著者で、遺品整理・生前整理などの事業を手がける山村秀炯氏が、「おひとりさま」の男性が早死にしやすい科学的理由と、「結婚する」以外の解決策を提示する。 ----------
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写真:現代ビジネス
「孤独・孤立が寿命を縮める」といわれています。
NHK健康チャンネルによれば、死亡リスクを増加させる要因として、肥満、過度の飲酒、喫煙などと並べて「孤立(社会とのつながりが少ない)」を挙げています。なんと、この4つの中で、「孤立」が最も死亡リスクを上げてしまうというのです。
NHK健康チャンネルの元ネタになっているのは、アメリカのブリガムヤング大学のジュリアン・ホルト・ランスタッド教授による2015年の論文です。
同教授は、148の研究、30万人以上のデータをメタ分析して、死亡リスクの上昇率は、「社会的孤立」で29%、「孤独感」で26%、「一人暮らし」で32%と結論付けました。
社会的なつながりが少なくて、孤独感を感じていて、ひとり暮らしであると、そうでない人に比べて死亡リスクは約1.9倍になってしまうのです。
同教授の以前の論文では、孤独であることの死亡リスクは、「1日たばこを15本吸うことと同等」であり、「アルコール依存症であると同等」であり、「運動をしないことよりも高く」、「肥満の2倍高い」とされています。
喫煙や飲酒は定量的なデータですが、孤立かそうでないかのボーダーラインはどこにあるのでしょうか。
同研究によれば、「社会的孤立」は客観的な他人との接触率で、「孤独感」は主観的な感覚でした。つまり主観的には「ひとりでいて幸せ」と感じていたとしても、実際に他人との接触やコミュニケーションが少ない場合は死亡率が高まっていたのです。
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なぜそのようなことが起きるのか、都内でメンタルクリニックを経営する精神科医・江越正敏先生は次のように考えています。
「孤独が寿命を縮めるという論文は珍しくありません。2012年のカリフォルニア大学の研究でも、60代以上の高齢者において孤独が死亡率を1.7倍高めることが報告されています。また、2014年のシカゴ大学のカシオッポ博士の研究でも、孤独感が交感神経の緊張の増加、炎症制御の低下、睡眠の減少を引き起こすと報告されています」
「孤独感というのは純粋に身体に影響するのです。別の研究では、孤独により、全身の炎症が強まるとの報告があります。炎症とは、風邪のときに喉が赤くなって、痛みを感じる状態のことです。風邪を引いて喉が痛くなっても数日すれば痛みや赤みは引きますよね。これを炎症が引いたと表現します。
風邪による炎症は一時的ですが、孤独による炎症はずっと続いてしまいます。孤独が続くと体がずっと風邪を引いているような状態になってしまうので、うつや認知症、心臓病など様々な病気を引き起こしてしまうんですね。他の研究においても、孤独によって心臓病やうつ病が引き起こされるといわれています」
孤独が健康に害を及ぼすというのは、生理学的にも事実らしいということ。
孤独研究の第一人者であるカシオッポ博士は、孤独感は睡眠不足や血圧上昇を招き、ストレスホルモンであるコルチゾールの上昇や、免疫細胞の遺伝子レベルでの変化などを引き起こすとしています。
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江越先生によれば、独身または離婚した人は、結婚している人に比べて孤独スコアが高く、それはうつ病の発生確率と正の相関関係があるそうです。
孤独スコアは性別、年齢、社会経済的地位とは無関係とされているのですが、一方では、女性より男性のほうが孤独感を感じやすいとする研究もあります。
これは精神科医として様々な患者さんとお話しする中での実感でもあるそうです。
一般に、男性のほうが孤独について周囲に伝えることが苦手であり、男性が孤独であると周囲に助けを求めると、女性の場合よりも話を聞いてもらえなかったり、非難されやすかったりするからです。
みずほリサーチ&テクノロジーズが2022年に行った調査では、ひとり暮らし高齢男性の15%が「2週間内の会話が1回以下」だったとされています。これは女性の場合の3倍の割合です。
ですから、独身でひとり暮らしの中高年男性は最も孤独を感じやすく、身体的にも精神的にも病みやすいと自覚しておいたほうがよいのです。
女性に比べると、男性のおひとりさまはメンタルを病んでクリニックを受診する確率が圧倒的に多いそうです。
江越先生のクリニックで最もよく見るのは、未婚の独身男性。彼らは頭痛、腹痛、腰痛、あるいは胸が痛いとか、目が痛いなどの症状を訴えるのですが、原因は心にあります。心の奥では「結婚したいけどできない」ことに無自覚に悩んでいて、それを表立って口にできないために身体症状として表れてしまうのです。
痛みがともなうので最初は内科を受診するものの、これといった原因が見つからず、不定愁訴として精神科を紹介されるパターンが多くあります。
人間は不快なことを我慢し続けていると、コルチゾールが増えて、最終的に痛みや炎症が発生するようにできています。それが前頭葉の神経細胞を不活化させて、うつ病になるのではないかと考えられています。
ですから、いま原因不明の痛みがあるという方は、それはもしかすると「孤独感」からくるものかもしれません。もちろん女性であっても同じです。
江越先生はその解決策として、最も手っ取り早いのは「結婚すること」だといいますが、手段はそれだけではありません。
そもそも、おひとりさまにはそれぞれの事情があります。結婚したくない人もいれば、すでに離婚したり配偶者に先立たれたりして、再婚する気がない人もいます。
ここで注目したいのが「孤独」と「孤立」という言葉の使い分けです。
「孤独」というのは「寂しい」という心理状態です。一方、「孤立」というのは他者との接触やコミュニケーションが少ないという物理状態です。
この「孤独」や「孤立」を解消できるのであれば、結婚にだけこだわる必要はありません。
たしかに結婚して家族を持てば日常生活における「孤独」や「孤立」は解消されるかもしれません。子どもが生まれれば、単純につながる人数も増えますし、社会的なつながりが嫌でも増えていくこともあるでしょう。しかしひとり暮らしであっても人間関係や社会的なつながりは作れます。
ちなみに、フランスでは1999年以来、結婚数は減少を続けています。これは同年にパックス(PACS)という事実婚を認める契約制度が作られて、結婚せずに事実婚のまま子どもを作っても、不利益がほとんどなくなったからです。
また、2004年に離婚の手続きが改正されて簡単になってから、フランスでは離婚数も増えています。恋愛の国フランスでは、いずれお互いに新しい相手が見つかって離婚するのであれば、最初から正式な結婚ではなく事実婚でよいと考える人が増えているのでしょう。
結婚するということは、相手から「死ぬまであなたと一緒に暮らしたい」と承認されることですし、自分の家庭という所属先ができて、愛情を受け取ることができます。
しかし、人によっては配偶者からいつも文句を言われるなど、想定していたような承認を受け取ることができず、家に帰りたくないからと夜遅くまでバーやスナックでお酒を飲んでいる人も少なからず存在します。家庭が安らぎの場所ではなく、所属感よりも責任やプレッシャーを感じてしまう人もいるのです。
山村 秀炯(株式会社GoodService代表)
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