( 157893 ) 2024/04/09 15:39:55 0 00 写真提供: 現代ビジネス
日銀がマイナス金利を解除すれば、円高に振れる。昨年来、盛んに吹聴された専門家の予測は、見事に裏切られた。異次元の金融緩和の反動はこれからが本番。日本国民を未曽有の物価高が襲う―。
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「私は今の円安が日本と米国の金利差によるものだとは考えていません。日本円は著しく劣化しており、円安は長期的なトレンドと言っていい。1ドル=200円という水準も現実味を帯びてきたと思っています」
衝撃的な見通しを語るのは、経済ジャーナリストの磯山友幸氏だ。岸田文雄総理が就任してからというもの、急ピッチで進む円安ドル高が止まらない。
3月19日に日本銀行(日銀)がマイナス金利政策を解除すれば、日米の金利差が縮小して円高に振れるなどと言われていたが、実際は違った。再び1ドル=150円台に下落し、152円台をうかがう様相を呈している(4月7日現在)。
いったい、なぜか。磯山氏が解説する。
「日米の金利差だけを為替変動の要因と考えていると、長期的なトレンドを見失ってしまうでしょう。現在の円安は、日本政府と日銀が大量に通貨を発行したことによる、円の劣化が原因です。
円がどれほど劣化しているかは、通貨の総合的な実力を示す『実質実効為替レート』を見れば一目瞭然です。'20年の実質実効為替レートを100としたとき、統計を取り始めた'70年1月は75.02でしたが、'24年2月は70.25です。統計開始以来、日本円の価値は最低となっている。'70年の為替レートは1ドル=360円の固定相場制でしたが、今の円の実質的な価値はその当時よりも低いのです」
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もちろん、日銀の利上げや米FRB(連邦準備制度理事会)の利下げなどの金融イベントがあれば、短期的には円高に振れる局面もあるだろう。
しかし、長期的な円安トレンドは変わらないと磯山氏は力説する。
「金融アナリストは、1年前には1ドル=120円まで戻ると言っていましたが、さすがにそんな人はもういなくなりました。実質的には1ドル=360円だった水準になっているわけですから、今後は1ドル=200円になってもおかしくありません」
すでに現状の円安水準で、庶民の暮らしは相当厳しくなった。多くの国民は、スーパーなどでの食品の買い物で強烈な物価高を痛感している。
経営する側も辛い。東京都練馬区の食品スーパー「アキダイ」社長の秋葉弘道氏がこう話す。
「円安は日本の食生活に非常に大きな悪影響を与えています。国産のものでも、餌や肥料を輸入するコストが上がって価格が高騰しています。外国産のものは為替の影響で価格が上がる。円安以外にも、運送料の上昇、電気代の高騰、異常気象による農作物の価格上昇など、われわれスーパーを取り巻く状況は年々厳しくなっています。
現実的には店頭価格へ転嫁していかなければなりませんし、実際、商品を選んで値上げしています。一方でお客様も価格への関心がこれまでで一番高くなっていると、肌で感じています。こうしたなかで、なんとかお客様に足を運んでもらえるよう、ここ数年間、ずっと我慢をしてきました」
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円安に歯止めがかかれば、その苦労も報われる。秋葉氏はそう思ってきたが、最近考えを改めざるを得なくなった。
「物価高の一因である円安が、マイナス金利の解除でようやく和らぐと思っていました。苦境にあるスーパー業界の追い風になると考えていたのですが、実際にはとてもそうなりそうもない雰囲気です。しかも、さらに円安が進むという話もある。当初想定していたよりも、事態はもっと深刻なのだなと、思い始めているところです……」
もちろん、物価上昇を上回るペースで賃金が上がれば、痛みは感じない。スーパーが仕方なしに値段を上げても、問題なく代金を支払えるはずだ。政府もそれを見込んで、民間企業への賃上げを要請してきた。
「たしかに春闘では5%を超える賃上げとなっていますが、これは大企業が中心です。雇用者の7割を抱える中小零細企業では、物価上昇並みの賃上げはむしろ少ないのではないでしょうか。当然、家計への負担は大企業に勤務する人よりもさらに大きくなります」(ファイナンシャルプランナーの深野康彦氏)
第一生命経済研究所首席エコノミストの嶌峰義清氏は、人手不足に陥っている業界でさえ賃金が上がらないことに懸念を示す。
「物流業界はドライバーが足りないにもかかわらず、今月から労働時間が制限される2024年問題を抱えています。残業時間が制限され、今までのような残業代がもらえなくなる人も出てくるでしょう。介護業界で働く人も、政府が介護報酬を決めているため賃上げは限定的で、生活が苦しくなるかもしれません。
また、人手不足なのに、賃金がうまく上がらない業界もあります。たとえば、飲食業界です。原材料や水道・光熱費がすでに上昇しているため、従業員の賃金を上げようと思っても思うようにできないのです。大手は、配膳ロボットを使ったり、タッチパネルで注文を取ったりと、省人化が進んでいますが、個人経営の飲食店は相当厳しい」
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東京商工リサーチによれば、'23年度の「飲食業」の倒産は過去最多を更新する見通しだ。「新型コロナ」「物価高」「人手不足」がその原因とされる。
コロナ禍が収束し、人波が戻ったというのに、繁華街に空きテナントが目立つのは、こうした事情が背景にある。
その一方で、日経平均株価がバブル後最高値を34年ぶりに更新するなど、株式市場は好調だ。実感なき株高。そこにはこんなカラクリがある。
「輸出で稼いでいる大企業を中心に、株価が上がっています。企業業績がよくなっているから、株価が上がっているという見方もありますが、実態として円安、つまり円の劣化の影響が大きい。
海外で稼いでいる企業は仮にドル建てで同じ金額を稼いだとして、円安のおかげで収益が上がっているように見えています。見た目が改善している面が大きく、実際に稼ぎが大幅に増えているわけではありません。それでも決算上、業績が上がっているように見えるので、株価が上がっていく」(前出・磯山氏)
後編記事『「異次元緩和」の反動はこれからが本番…1ドル=200円の衝撃に備えよ! 「ヤバすぎる円安」が止まらない「残念な理由」』で引き続き、日本経済の実相を紹介する。
「週刊現代」2024年4月6・13日合併号より
週刊現代(講談社)
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