( 158352 )  2024/04/10 23:09:11  
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離党勧告の処分を受け、記者団の取材に応じる世耕氏 

 

「いつ選挙になってもおかしくない雰囲気です」。和歌山県内の首長はそう語る。県内の自民党議員を牽引してきた2人の重鎮が相次いで裏金問題の責任を取ることになった和歌山。早くも県内政界の再編が始動している。 

 

【写真】「岸田首相はかなりムッとしていた」 即日離党の世耕氏と悠然と引退の二階氏に“差”が出た理由 

 

 4月4日、自民党は裏金事件を受けて安倍派、二階派計39人の処分を発表。安倍派幹部で参院議員の世耕弘成前参院幹事長を離党勧告とした。世耕氏は即日、これを受け入れて離党届を提出、「無所属」となった。 

 

 一方、これに先立ち、二階俊博元幹事長も3月25日、裏金問題の責任を取り、次の解散総選挙には出馬しない「政界引退」を表明していた。 

 

■無所属で衆院選へ? 

 

 翌5日。世耕氏の地元、和歌山では、世耕氏の今後の身の振り方を伝えるニュースが流れた。「世耕氏が参院から衆院に鞍替えし、無所属で出馬の意向」。和歌山県の政治情勢は、長く二階俊博元幹事長が牛耳ってきた。そこへ、近年は世耕氏が経産相、参院幹事長と要職につくことで頭角を現わし、和歌山県の自民党は二階氏vs.世耕氏という構図となってきた。 

 

 参院議員として当選5回を重ねる世耕氏は、これまで何度も衆院への転身を噂されてきた。その際に、ターゲットに上がっていたのは現在の和歌山3区、二階氏の地盤だ。「2021年の衆院選では、直前まで二階氏と争う覚悟で準備していた。最後に思いとどまった」と世耕氏の支援者は打ち明ける。裏金問題で2人が一度に「失脚」してしまい、県政界は混迷を極めているのである。 

 

 衆院鞍替えのニュースは、世耕氏側が飛ばしたアドバルーンだったのではないかという見方がある。 

 

「まず、参院から衆院転身の情報を流して二階氏陣営の動きを見ようとしたのでしょう。最初は支援者へ挨拶まわりにくるらしいという話だったが、実際には来なかった」(前出・世耕氏の支援者) 

 

 次の衆院選では、定数を人口に応じて増減させる「アダムズ方式」を初適用し、15都県で選挙区が「10増10減」となる。和歌山は3から2に減る。世耕氏が狙うとみられるのは新しい和歌山2区。ここは自民党県連がすでに二階氏を支部長にと決めていた。 

 

 

■ 「やりすぎ」が仇に? 

 

 世耕氏は自らの処分について、まさか離党勧告という厳しいものになるとは想定していなかったとされる。二階氏が記者会見で政界引退を表明した後、急激に世耕氏の処分が厳しいものになるとする報道が相次いだ。同じ安倍派の参院議員によると、世耕氏は「どうしてそんな処分になるんだ」「岸田首相は何を考えているのか」とかなり怒っていたという。 

 

「世耕氏は最大派閥安倍派の参院のトップに君臨して我が世の春だった。4月4日の数日前まで、処分をひっくり返すとも言っていた。ただ、岸田首相に対してやり過ぎたことで、厳しい処分につながったように思います」 

 

 昨年10月、代表質問に立った世耕氏は、 

 

「支持率が向上しない最大の原因は、国民が期待するリーダーとしての姿が示せていないということに尽きる」 

 

「国民が岸田政権に対し、もう一つ物足りないと感じているのはスピード感」 

 

 などと政府を批判した。これが「やり過ぎ」という理由の一つだ。 

 

「岸田首相はかなりムッとしていた。その後に安倍派などの裏金事件が表面化。そりゃ厳しい対応に傾きますよね」(官邸関係者) 

 

 世耕氏にとっての想定外はさらに続く。4月6日に行われた近畿大学の入学式。理事長を務める世耕氏は挨拶に立ち、 

 

「激しい社会における自分の立ち位置をしっかり把握してください」 

 

 と激励した。このスピーチが厳しいバッシングを浴びることになった。 

 

 立憲民主党の蓮舫氏は〈ご自身の立ち位置が見えていない方に言われても…〉と早速反応。SNSでは世耕氏関連のキーワードが急上昇した。 

 

 逆風からの起死回生を期す世耕氏に対して、二階氏は悠然と構えているようだ。 

 

「安倍派も二階派も同罪。安倍派が責任のなすりあいをする中で、絶妙のタイミングで政界引退を表明した二階氏の潔さが際立った。引退表明によって、岸田首相も二階氏には処分が打てなくなったが、世耕氏には厳しくやれるようになった」 

 

 宏池会の職員から自民党政務調査会の調査役を長年務めた田村重信氏は そう分析する。 

 

 

■絶妙の引き際を演出 

 

 安倍派は最大派閥としてキングメーカーとなったが、裏金問題によって岸田首相にはしごを外された。二階氏は非主流派とされながら最後は岸田首相にしっかり恩を売った。二階氏の引退表明直後の夕刻、岸田首相がわざわざ、記者団に話した言葉に二階氏への配慮が読み取れる。 

 

「自民党の再起を強く促す出所進退であると思いました。そのうえで二階氏とお会いさせていただきました。50年にも及ぶ政治経験、印象深いお話を聞かせていただいた」 

 

 岸田首相の思いを代弁しているのか、茂木敏充幹事長の記者会見では、世耕氏ら安倍派幹部に対して厳しい言葉が目立った。 

 

「不正・不適切な会計処理について、派閥幹部の立場にありながら適切な対応を取らず、大きな政治不信を招いた者の政治責任は極めて重い」 

 

 和歌山における自民党の勢力図はこれからどうなるのか。注目はもちろん二階氏の後継候補だ。二階氏は記者会見で「それは和歌山3区の皆さんが決めることだ」と語った。しかし地元では、二階氏の秘書を務める長男か、三男か、などと、身内から後継を出すのが決まったのも同然と受け止めているという。二階氏の支援者はこう話す。 

 

「二階氏は政界引退表明後も『県連で後継は決めればいい』とすっかり余裕で、世耕氏の処分は全く意に介さない感じです。無所属で、かつ裏金事件のイメージダウンが激しい世耕氏ではとても勝ち目がないと誰もが考えますよ。ただ、二階氏も世襲批判が巻き起こるのは間違いない。もし世耕氏にチャンスがあるなら、そこでしょう」 

 

■「どっち派」のリストも 

 

 和歌山の自民党県議によると、「この議員は二階氏側、この町長は世耕氏側」というリストまで出回っているという。二階vs.世耕となれば、県内を衆院と参院で棲み分けていた2者による初めての激突になる。 

 

 世耕氏の参院議員の任期は来年夏まで 。今のまま参院議員を続けるにしても、二階氏の牙城に挑むにしても、当面は無所属での活動になる。 

 

「政治家にとって最も実力を試されるのは無所属での選挙。世耕氏が衆院か参院かどちらを選ぶのかはわかりませんが、これを勝ち抜けば、彼にとっても新たな展開が生まれてくるはずです」(田村氏) 

 

(AERA dot.編集部・今西憲之) 

  

 

今西憲之 

 

 

 
 

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