( 159314 )  2024/04/13 14:08:54  
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このままでは電気料金は5倍になる(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Airubon 

 

なぜ電気料金が上がっているのだろうか。キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志さんは「再生可能エネルギーの導入にかかる費用を国民に負担させる『再エネ賦課金』の負担が大きい。しかもそうした負担をさらに増やすことが計画されている」という――。 

 

【写真】再エネ推進をねじ込んだ政治家の名前 

 

 ※本稿は、杉山大志『亡国のエコ 今すぐやめよう太陽光パネル』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。 

 

■小泉進次郎氏と河野太郎氏が押し込んだ「再エネ最優先」 

 

日本は菅義偉(よしひで)政権のときに、2030年までのCO2 

削減目標(2013年比)を26%から46%へと、20%も引き上げました。 そして、エネルギー政策の基本的な方向性を示すエネルギー基本計画書には「再エネ最優先」と書き込まれました。 

 

 これは当時の小泉進次郎環境大臣と河野太郎規制改革担当大臣が押し込んだものです。 

 

 しかし、これを実現しようとすると、費用はいったいいくらかかるのでしょうか。政府は沈黙したままです。 

 

■3人世帯で年間約6万円が上乗せされている 

 

これまでの実績を確認してみましょう。再生可能エネルギーは過去10年間、「再生可能エネルギー全量固定価格買取制度」のもとで大量導入されてきました。これによるCO2 

削減量は年間約2.4%に達しています。 ところが、これには莫大な費用がかかりました。 

 

 それを賄うため、「再生可能エネルギー賦課金」が家庭や企業の電気料金に上乗せされて徴収されてきたのです。この賦課金は総額で年間約2.4兆円(2019年度)に達しています。 

 

 これは1人あたりで約2万円ですから、3人世帯では6万円になります。3人世帯の電気料金はだいたい月1万円、年間では12万円くらいです。 

 

■「再エネ賦課金」で電気料金が約1.5倍に 

 

 12万円に対して6万円ということは、賦課金によって実質的に電気料金が1.5倍になるほどの、極めて重い経済負担がすでに発生していることになります。 

 

国の総額でみると、2.4兆円を負担して2.4%の削減なので、これまでの太陽光発電等の導入の実績からいえば、CO2 

削減量1%あたり毎年1兆円の費用がかかっているわけです。 すると、単純に計算しても20%の深掘り分だけで、毎年20兆円の費用が追加でかかることになります。 

 

■「消費税率20%」に匹敵する 

 

 言うまでもなく、20兆円というのは巨額です。今の消費税収の総額がちょうど約20兆円です。すなわち、20%もの数値目標の深掘りは、消費税率を今の10%から倍増して20%にすることに匹敵します。 

 

 これを世帯あたりの負担に換算してみましょう。 

 

 20兆円を日本の人口一人あたりで割ると約16万円、3人世帯だと3倍の48万円です。 

 

 電気料金が年間12万円で、それに48万円が上乗せされるとなると、電気料金が実質5倍の60万円になってしまいます。 

 

 もちろん、現実にはこれらすべてが家庭の負担になるわけではありません。 

 

 しかし、たとえ企業が負担するとしても、それによって給料が減ったり物価が上がったりして、結局は家庭に負担がのしかかります。 

 

 

■政府の脱炭素目標は破綻する 

 

 政府が目標に掲げた2030年といえば6年後です。 

 

 これに国民が耐えられるとは、到底思えません。脱炭素は必ず破綻します。 

 

 電気代が上がるだけでも国民の生活は十分に苦しいのに、岸田政権はさらに、化石燃料の炭素含有量に応じてコストを課する「カーボンプライシング」まで導入しようとしています。 

 

2022年6月21日には環境省の審議会が開かれ、「CO2 

排出1トンあたり1万円の炭素税をかけても経済成長を阻害しない」という試算が示されました。 いったいどういう理屈でそうなるのでしょうか? 

 

■「炭素税導入」は消費税を15%に上げるのと同じ 

 

その主張をまとめると「炭素税の収入の半分を省エネ投資の補助に使うことで、経済成長を損なうことなく、CO2 

の削減ができる」とのことです。 そんなはずはありません。 

 

CO2 

排出1トンあたり炭素税1万円なら、日本の年間CO2 

排出量は約10億トンなので、税収は10兆円となります。 この金額は消費税収20兆円の半分にあたるので、消費税率を10%から15%に上げるのと同じことです。普通の経済感覚があれば、これが大変な不況を招く結果になることはすぐに分かることでしょう。 

 

■地方経済にとって重い負担になる 

 

 この「炭素税1万円」が実際に導入されれば、人々の生活はどうなるでしょうか? 

 

北海道などの寒冷地では、年間のCO2 

排出量は一世帯あたり5トンを超えます。つまり、炭素税率1万円ならば、年間5万円の負担が発生するわけです。過疎化、高齢化が進む地方経済にとって、これは重い負担になります。 産業はどうなるでしょうか? 

 

例えば大分県のように製造業に依存している県では、県内総生産100万円あたりのCO2 

排出量は6.7トンにのぼります。炭素税率1万円ならば、納税額は年間6.7万円。県内総生産のうちこれだけが失われると、企業の利益など軒並み吹っ飛んでしまうことでしょう。 

 

■「再エネ投資で経済成長」はナンセンス 

 

 また、「炭素税収を原資に、大々的に省エネ投資への補助をすれば経済は成長する」という議論もナンセンスです。 

 

 確かに、数値モデル上では、そのようなことも起こりえます。「愚かな企業や市民がエネルギーを無駄遣いしている」ところを「全知全能のモデル研究者と政策決定者」が儲かる省エネ投資に導く、という前提になっているからです。 

 

 しかし、「政府が税金を取って、民間に代わってどの事業に投資するか意思決定することによって経済成長が実現する」という考え方は、そもそも経済学の常識に反します。 

 

 特に省エネ投資のように、大規模な公共インフラとは異なり、無数の企業や市民が自分の利害に直結する意思決定をする場合は、なおさらです。 

 

 政府の補助があったので購入したものの、受注が不調で工場が稼働しない(で使われていない)、という“ピカピカの無駄な設備”は日本のいたるところにあります。 

 

 政府の補助をもらってゼロエミッションの大きな住宅を建てたものの、予想外に家族構成が変わってしまい、一人で住むことになってしまった。そこでローンの支払いに苦労するといったこともあるかもしれません。 

 

 

■「再エネ投資が進まない」のは理由がある 

 

 将来のことはよく分からないと思ったら、あまり大きな投資をしないで、現金を手元に置いておいた方がよい、というのは常識的な経済感覚を持つ経営者や普通の人々がする賢明な判断です。 

 

 単純な計算では、投資回収年数が短くて、一見するとすぐに元が取れそうな省エネ投資でも、現実にはあまり進まないというのは、それなりに合理的な理由がある場合が多いのです。 

 

 政府には、エネルギー効率が悪い粗悪品を市場から排除したり、エアコンなどの機器のエネルギー消費量の表示を義務付けたりすることで、消費者に情報提供をするといった役目はあります。 

 

 しかし、個人が何を買うべきかまでこまごまと指図するのは出しゃばり過ぎです。 

 

■政府の事業はよく失敗する 

 

 政府の事業はよく失敗します。これは決して政府の人間が無能だからだということではありません。政府が何か事業をするとなると、政治家が介入し、官僚機構が肥大し、規制を歪ませて利益誘導しようとする事業者が入り込むので、うまくいかないことが多いのです。これを経済学では「政府の失敗」と言います。 

 

 「政府が民間より効率的に投資ができる」という発想は、計画経済そのものです。 

 

 北朝鮮と韓国と、どちらが経済成長したかに思いを馳せれば、この考え方の愚かしさが分かるでしょう。朝鮮戦争の直後に南北が分かれた時点では、むしろ北朝鮮の方が工業化は進んでいて、韓国の方が遅れていたのです。 

 

 ところが、今では大きく逆転しています。 

 

 韓国は先進国なみの経済水準に達したのに、北朝鮮は世界で最も貧しい水準です。 

 

 このように、環境省審議会の試算は前提のところですでに根本的に誤っています。 

 

 モデルの詳細は資料を見てもブラックボックスになっていてよく分かりません。というより、知る価値もありません。 

 

■審議会は御用学者ばかり 

 

 こんな経済学の初歩に反するような話がなぜ政府の審議会で大手を振って議論されるのでしょうか。 

 

 審議会の委員のセンセイ方は何をしているのでしょうか。 

 

 知り合いのエネルギー経済学者に聞いてみると、経済学を本当にやっている人は、環境やエネルギーのことをよく知らず、興味もないので口を出さないのだそうです。 

 

 その結果、このような審議会に出てくるセンセイ方は政府のお気に入りの御用学者ばかりとなる。 

 

 御用学者だらけの学会も学部もあるので、何も困ることもない。博士にもなれるし、先生にもなれて食い扶持ちには困らない。それどころか、「気候変動」という接頭辞をつければ潤沢な政府予算をもらうこともできる。残念ながらこんな構図になっているようです。 

 

■再エネの大量導入で日本の製造業は全滅 

 

最近よく聞く意見に「日本は海外に比べ温暖化対策が遅れている。製造業が生き残るためには、製造工程でのCO2 

を減らすために、ゼロエミッション電源の比率を上げなければいけない」というものがあります。ゼロエミッション電源というのは、原子力や再生可能エネルギー(太陽光、風力、地熱、水力)などによる、発電時にCO2 

を排出しない電源のことです。 もちろん、原子力の再稼働でゼロエミ電源比率を上げるなら、安価なので何も問題はありません。 

 

しかし、再エネの一層の大量導入でそれをやろうとすると、コストが嵩みます。これでは、CO2 

云々以前に、そもそも日本の製造業自体がサプライチェーン(供給網)に生き残れず、全滅してしまいます。 

 

 

■4.3%だけゼロエミッションであればいい 

 

 海外が製品のサプライチェーンに対してゼロエミを義務付けるといっても、すべての企業がそうするわけではありません。世界全体での割合でいえば、ごく限定的になると思われます。 

 

 ここでは仮に「米国とEUのすべての企業が輸入品に対してゼロエミ電源100%を義務付ける」と想定した上で、日本の輸出のために必要なゼロエミ電源の量を勘定してみます。 

 

 日本の対世界の輸出総額は2019年は7060億ドルでした。 

 

 このうち、対EU輸出総額は820億ドルで、対米輸出総額は1400億ドルです。したがって、これに対EUと対米分を足すと2220億ドル。これは輸出総額の31%にあたります。 

 

 これに対して日本のGDPは5兆1540億ドルでしたから、米国とEUへの輸出合計金額はGDPとの比率では222/5154=4.3%に過ぎません(以上のデータは日本貿易振興機構・ジェトロによる)。 

 

 ここでGDPを1円生み出すための電力消費と、輸出を1円にするための電力消費を等しいとすると、日本の電源の4.3%だけゼロエミッションになっていれば、それを使うことで米国とEUへの輸出製品はすべてゼロエミッション電源で賄えることになります。 

 

■日本のゼロエミ電源は“あり余っている” 

 

 具体的な業務手続きとしては、輸出する製品について投入電力量を計算し、実際にそれだけのゼロエミ電力を買えばよいのです。 

 

 もしそれで足りなければ、それに見合うだけのゼロエミ電力の証書である「非化石証書」を買えばよいのです。 

 

 日本のゼロエミ電源比率は2018年度で23%でした。これは2030年度には44%になる予定(図表1)なので、実は日本のゼロエミ電源は、すべての輸出を賄ってなお“あり余っている”のです。 

 

 もしも強引に再エネを大量導入して、前述のように電気料金が高騰すれば、日本の製造業は壊滅するでしょう。 

 

 

 

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杉山 大志(すぎやま・たいし) 

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 

東京大学理学部物理学科卒、同大学院物理工学修士。電力中央研究所、国際応用システム解析研究所などを経て現職。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)、産業構造審議会、省エネルギー基準部会、NEDO技術委員等のメンバーを務める。産経新聞「正論」欄執筆メンバー。著書に『「脱炭素」は嘘だらけ』(産経新聞出版)、『中露の環境問題工作に騙されるな!』(かや書房/渡邉哲也氏との共著)、『メガソーラーが日本を救うの大嘘』(宝島社、編著)、『SDGsの不都合な真実』(宝島社、編著)などがある。 

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キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 杉山 大志 

 

 

 
 

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