( 159334 ) 2024/04/13 14:35:33 0 00 2024年4月16日、敦賀駅では上島豊敏駅長と俳優の中条あやみさんが出発を合図し、東京に向かう一番列車「かがやき502号」は定刻通り午前6時11分に発車した(時事通信フォト)
JR新宿駅に東西自由通路が完成したのは2020年7月のこと。それまで、東口から西口、西口から東口へと移動するには、甲州街道まで出てぐるっと大回りするか、1927年に完成した天井が低い角筈ガードまたは地下街へ潜ってメトロプロムナードを利用するしかなかったが、東西自由通路ができたことで格段に便が良くなった。駅によって行き来がしづらくなる不具合が、北陸新幹線延伸で沸く福井県・敦賀駅で生じている。ライターの小川裕夫氏が、敦賀駅で現地を歩き、自由通路が設置されなかったことで起きていることをレポートする。
【写真】敦賀駅西口
* * * 2024年3月16日、北陸新幹線が石川県の金沢駅から福井県の敦賀駅まで延伸開業した。
久々の延伸開業という話題性や、福井県は今回の開業でようやく新幹線が走り始めるということもあって終着駅となる敦賀駅は大いに注目が集まっている。
福井県を含む北陸地方は歴史的にも大阪・京都、名古屋などの関西・東海地方との結びつきが強く、鉄路はこれまで大阪からは特急「サンダーバード」、名古屋からは特急「しらさぎ」が運行されて北陸と関西・東海を結んできた。
しかし、2015年に北陸新幹線が金沢駅まで延伸するとサンダーバードやしらさぎの運行区間は短縮。今回の北陸新幹線の延伸開業で、再びサンダーバードとしらさぎの運行区間が敦賀駅まで短縮された。
東京方面から北陸地方へと交通利便性は飛躍的に向上した一方で、経済・産業・観光といった部分で結びつきの強かった関西・東海地方との往来は不便になる。北陸新幹線フィーバーで活況を呈している間は、そうしたマイナス要因は気にならないかもしれない。
しかし、落ち着きを取り戻す頃に、それらの影響は少しずつ表面化していくことが予想される。
なによりも、今回の延伸開業によるフィーバーでかき消されているが、北陸新幹線のメリットを最大限に享受していると思われている敦賀市でも北陸新幹線開業に関連する問題をいくつか抱えている。そのひとつが、敦賀駅における北陸新幹線と在来線との乗り継ぎ問題だ。
北陸新幹線の開業と同時に北陸本線の敦賀駅―大聖寺駅間は第3セクターのハピラインふくいへと移管された。北陸本線とハピラインふくいは、敦賀駅付近で地上線を走っている。他方、北陸新幹線の敦賀駅は高架線という構造になっている。そのため、1階にある在来線ホームから2階乗換改札を通過して3階にある新幹線ホームへ、逆もまた同じように延々と移動しなければならない。
なぜ、新幹線ホームをせめて2階に設置できなかったのか。どうしてこんな構造になってしまったのか。それは敦賀駅のすぐ北東に高架の敦賀バイパス(国道8号線)があり、北陸新幹線の高架線はこれをオーバークロスしなければ建設できなかったからだ。
そうした経緯から、敦賀駅の新幹線駅舎は12階建てになった。約37メートル高さに位置する新幹線ホームと地上に位置する在来線ホームを移動するのは一苦労で、JRはホーム間の移動には約8分の所要時間が必要とアナウンスしている。
実際に大人が歩くと3~4分程度で移動できるようだが、利用客には子供を連れた家族や大きな荷物を抱えた観光客なども少なくない。そうしたスムーズに移動できない利用者を考慮すると、やはり敦賀駅は使い勝手が悪いと言わざるを得ない。
新幹線と在来線を乗り継ぐ利用客は、そのまま敦賀駅を通過する。下車するわけではないから、敦賀市は乗り換えの大変さを大きな課題としては受け止めていないかもしれない。それよりも敦賀市が問題と認識しているのが敦賀駅に東西出口を結ぶ自由通路がない点だ。
「敦賀市は駅の西側に市街地が広がっていますので、これまでは駅の出口も西口しかありませんでした。新幹線の延伸開業に合わせて東口が新設されましたが、東西を結ぶ自由通路はありません。駅の東西を行き来するためには入場券を購入して改札内を通り抜けるか、もしくは駅から外に出て、回り道をしてもらうことになります。回り道は徒歩で約20分かかります」と困惑するのは敦賀市観光部新幹線誘客課の担当者だ。
敦賀駅の市街地は西口に広がり、多くの観光客・来街者でにぎわう。その一方、東口は住宅や工場などが並ぶ。
観光客や来街者が東口側へ足を運ぶことは考えづらいが、出口を間違って駅を出てしまう観光客もいるだろう。また、東口で用事を済ませて時間が余ったから街をぶらっと散策してみようと考えるビジネスマンだっている。
敦賀駅の東口には新幹線開業で観光客が増えることを見込んで、観光バスも駐車できるような大型の駐車場も整備された。観光バスは西口で観光客を降ろしてから東口で待機することになる。それだったら不便は感じない。
しかし、バス車内に財布やスマホなどを忘れてしまうことだってある。東西自由通路がないと、東口で待機している観光バスに忘れ物を取りに戻ることができない。こうした駅の構造は観光需要を遠ざける一因にもなり得る。
筆者も敦賀駅に降り立ち、実際に西口から東口へと徒歩で移動してみた。移動に時間を要したことは言うまでもないが、道中は歩車分離されていない区間もあって安全面においても東西自由通路の必要性を感じた。
敦賀市も北陸新幹線が開業する前に、約300メートルの東西自由通路を建設することを検討したが、
「駅東西の自由通路は、整備費だけでも最低で50億円との試算が出されました。市議会でも自由通路の設置を議論しましたが、莫大な工費になるのに費用対効果は薄く、自由通路の整備は見送られました」(同)
敦賀駅は、独立行政法人 鉄道建設・運輸施設整備支援機が設計を担当しており、敦賀市が駅舎の設計に関与できる裁量は小さかった。敦賀市は工費の問題で自由通路の開設が難しいのなら、改札内で東西の行き来ができるようにしてほしいとJR西日本へと要望している。
「通常のきっぷだと、不正乗車の観点から改札内を自由に行き来できるようにすることは難しいかもしれません。しかし、IC乗車券ならデータの書き込みができますので、そうした不正乗車は防げます。これならコンピューターの設定を変更するといった費用は発生しますが、自由通路の整備費よりも安く済みます。だから、”IC乗車券利用に限り”という条件で東西自由通路の行き来ができるようにお願いしたのです。しかし、JR側からは『東西を行き来する需要は多くないのではないか?』と疑義を呈されて、この案も暗礁に乗り上げています」(同)
敦賀市は駅東西を誤って出てしまった観光客への対策や東西の移動需要がどれほどあるのかを計測する目的も含めて、北陸新幹線の延伸開業時から駅東西を結ぶ無料の東西連絡バスの運行を開始した。
「駅東西を結ぶバスは約20分間隔で駅の西口と東口を行き来しますが、開業した3月は8時から20時まで毎日運行しました。4月からは土日祝日、そしてゴールデンウィークと夏休みといった繁忙期のみの運行になります。3月の集計では、東西連絡バスの利用者は多い日で150人を超えています。バスの運行は8月末日まで続け、そのデータをもとにして駅東西を行き来する需要がどれほどあるのかを判断します。データが揃っても、すぐJR側に対して『IC乗車券利用に限り、東西自由通路の行き来を認めてほしい』と再要望するという話ではありませんが、需要がある・ないを把握するために実施しています」(同)
北陸新幹線は最終的に東京―大阪間を結ぶとされている。途中駅になれば、敦賀市に足を運ぶ観光客や来街者は少なくなる可能性はある。だから、莫大な整備費を投じて自由通路を整備する必要はないと判断したのかもしれない。
金沢駅から敦賀駅までの延伸だけでも、約8年もの歳月を費やした。着工すらしていない大阪までの延伸は、開業年のメドすら立っていない。大阪まで一気に開業するのではなく、部分開業も考えられるが、いずれにしても当面は敦賀駅が北陸新幹線の終着駅となる。
北陸新幹線の延伸フィーバーで、敦賀市には多くの観光客が押し寄せている。しかし、浮かれている余裕はない。敦賀駅の構造に端を発した乗り継ぎや東西自由通路はすぐに解決できる問題ではないが、フィーバーが続いている間に道筋だけでも示しておきたいところだろう。
|
![]() |