( 160259 )  2024/04/16 13:00:13  
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写真提供: 現代ビジネス 

 

 岸田文雄首相(自民党総裁)の総裁任期が9月に迫る。当面の政局の焦点は、 

 

 1、岸田は総裁選に勝利して続投できるのか。 

 

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 2、岸田は総裁選までに衆院解散・総選挙を行うことができるのか。 

 

 この2点に大きく収斂する。今後のおよそ半年間を見通してみたい。(文中敬称略) 

 

 自民党は派閥による裏金事件の決着を目指し、国会議員39人を処分した。しかし各種世論調査では内閣支持率は20%程度と逆風下にある。現状では衆院選を行っても自民党(現有約260議席)は、単独過半数の233議席確保さえ危うい。自民党有力者の一人は「内心は首相に早く退陣してほしいと思っている与党議員は少なくない」と「潜在的な岸田降ろし状態」を口にする。 

 

 未曽有の危機であるが、岸田を首相の座から降ろそうと明確に仕掛ける者は出ていない。ある党幹部は「09~12年の野党時代の屈辱を知らぬ若手議員らに危機意識と行動力が欠けている」と言う。野に下る怖さを知っていたなら、もっと早く行動に出ているはず、ということだ。 

 

 岸田は、自身が率いた岸田派の解散表明や、衆院政治倫理審査会への自らの出席という思い切った判断を「特に執行部などへの相談なく行った」(自民党ベテラン)。党内の「膠着状態」が岸田の自信を支える。 

 

 4月28日に東京15区、島根1区、長崎3区の衆院小選挙区3補欠選挙が投開票される。自民党が唯一公認候補を立てた島根1区は、立憲民主党候補が先行している。 

 

 東京15区は都民ファーストの会副代表の新人・乙武洋匡が立候補を表明したが、日本維新の会新人、立憲新人との激しい当選争いになっている。長崎3区は自主投票。仮に自民党が支援する候補が全敗すれば、岸田の求心力低下に拍車がかかり、早期退陣の機運が出ることも否定できない。 

 

 唯一の挽回策として、岸田は日本人拉致問題解決に向けた北朝鮮訪問に意欲を燃やす。3月26日、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記の妹である金与正党副部長は、日本が首脳会談を求めてきたとした上で「日本側とのいかなる接触、交渉も無視し拒否する」との談話を発表した。 

 

 しかし北朝鮮側の対応は「岸田訪朝を完全には拒絶しておらず、いかに北朝鮮に有利な内容で首脳会談を行うかの駆け引き」(関係筋)との見方があり、岸田が訪朝するかどうかは予断を許さない。 

 

 一方で日本人拉致被害者の奪還は困難を極める。岸田が訪朝しても被害者を連れて帰れなければ「北朝鮮に利用されただけだ」との非難も予想される。岸田は金正恩との対話の足がかりを築き、解決の突破口を開こうと狙うが「国内世論がどう振れるかは読み切れない」(与党筋)。対日本における優位を国際社会に誇示したい北朝鮮側と、拉致問題解決を目指す日本側との間で神経戦が続く。春のうちに山場が来ることも否定できない。 

 

 岸田が総裁任期内の衆院選をうかがう理由は、自身の再選戦略の一環だからだ。総裁選直前の衆院選で「勝利」と言える結果を出せば、実績となる。衆院議員に対し「当面は衆院選がないのなら、岸田続投で構わない」と思わせる心理的効果は大きい。 

 

 しかし、逆に自民党が単独過半数を失えば政権は「死に体」となり、事実上の「ジ・エンド」だ。このため、勝敗の見通しがつかぬまま行う「破れかぶれ解散」は論理的にあり得ない。会期延長がなければ6月下旬である今国会会期末の解散論が取り沙汰される。だが「勝てる」という科学的根拠のない、時期ありきの会期末解散論はいわば「都市伝説」である。 

 

 そのなかで、5月に内閣改造・党役員人事を行う観測がある。これは会期末などの衆院解散には、選挙を戦うため執行部の強靱化を図り、主要ポストに人気政治家を配するのが目的とされる。選挙の軍師となる茂木敏充幹事長は、岸田との関係が「冷え切っている」(閣僚経験者)。茂木を交代させ、体制を新たに選挙に臨むという文脈もある。 

 

 しかし、やるかどうか分からない選挙のためだけに、通常は重要人事をしない。とりわけ茂木は次期総裁選出馬をうかがい、茂木を野に放てば、岸田に挑むお墨付きを与えることになる。5月人事論も根拠は多くない。 

 

 

 さて、岸田以外の総裁選候補の顔ぶれは、上川陽子外相の浮上が目につく。麻生太郎副総裁が1月の講演で手腕を褒め「新しいスター」とぶち上げ、世論調査でも期待度が上がった。ただ上川は岸田派育ちであり、総裁選に立つのは岸田が続投を断念した場合に限られる。「総裁選で岸田と相まみえるのはあり得ない」(自民党筋)わけだ。 

 

 麻生の「上川推し」は、総裁候補としてお墨付きを与え、有力後見人としての立場を確保する「青田買い」と言える。しかも岸田派には総裁候補と目される林芳正官房長官がおり、内情は複雑である。 

 

 従来、麻生、岸田両派など主流派で岸田後継の本命と目されてきたのは茂木だ。しかし、忠誠を尽くしてきた麻生が上川を持ち上げたことに加え、総裁の座への野心から岸田の警戒を招き、総裁レースで抜きん出た存在ではなくなった。会長を務める茂木派からは小渕優子選対委員長や関口昌一参院議員会長ら幹部クラスが相次ぎ退会し、足元は揺らぐ。 

 

 総裁ポスト奪取の好機とみるのは菅義偉前首相ら党内非主流派である。菅は前回総裁選で河野太郎デジタル相を担ぎ、石破茂元幹事長、小泉進次郎元環境相らで「小石河」連合を組んだが、故安倍晋三元首相ら重鎮の包囲網に敗れた。 

 

 次期総裁選の隠れた本質は、麻生VS菅の「キングメーカー争い」だ。12年の第2次安倍政権発足以降、副総理、副総裁という最高幹部に君臨し続ける麻生は、うまみを十分に知り尽くす。岸田とは「犬猿の仲」(岸田側近)である菅は、非主流派の連携で対抗を模索する。 

 

 総裁候補の一人として、じわり存在感を増しているのは、菅義偉内閣で官房長官を務めた加藤勝信である。安倍と近い加藤は第2次安倍政権以降、ほかに厚生労働相などの閣僚や党四役である総務会長を歴任。「手堅い手腕と抜群のバランス感覚」(政府筋)を内外に知らしめ、党国会議員が「幅広く推しやすい」人材となった。 

 

 自民党総裁選は、特に決選投票で国会議員票のウエイトが非常に高く、最後は国会議員の取り込みが雌雄を決する。加藤が出馬すれば、菅グループや二階派といった非主流派に加え、所属する茂木派や安倍派にある程度食い込む可能性がある。他方、大衆的人気には欠けるため、党員票は苦戦しそうだ。 

 

 

 派閥裏金事件の傷は深く、自民党衆参議員は「深く反省していることを党員や国民に印象付けられず四苦八苦している」(党関係者)。このため党員票数が再生を託せる人物の指標だと見れば、世論調査で次期首相人気トップの常連である石破が上がってくる。半面、石破グループは10人程度で、国会議員の支持が課題だ。あるベテラン議員は、石破が総裁選を制するには「党内の待望論をいかに高めるかに懸かっている」と分析する。 

 

 閣僚である河野は、表面的には総裁選への動きは強めていないが、前回に決選投票に持ち込んだ実績と安定した人気は保つ。初当選同期の菅とは「兄弟分」(麻生派筋)の間柄だ。小泉はライドシェア推進など政策面にシフトした動きを見せ、世論調査では石破に匹敵する支持を得る。石破や加藤を含め、非主流派から「誰が出るか」「誰を出すか」は大きな焦点である。決選投票になったケースなどを見据え、入念な戦略構築が鍵となる。 

 

 非主流派は二階俊博元幹事長が次期衆院選不出に追い込まれたり、武田良太元総務相が党役職停止処分を受けたりするなど、裏金事件の打撃を大きく受けた。 

 

 一方で岸田派でも事務方が立件されており、「首相の責任も問われるべきだ」(塩谷立元総務会長)という岸田への風当たりも強まっている。 

 

 自民党は「政治とカネ」で満身創痍となった。「反省」と「刷新」掲げつつ、内情は事件をもてこにして、「政治の本質は権力闘争」を地で行く権謀術数が渦巻く。自民党という倒れた老巨木の根元から、新芽が生まれる日は来るのだろうか。 

 

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雨宮 和哉 

 

 

 
 

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