( 160661 )  2024/04/17 13:47:46  
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 4月9日、こども家庭庁は、少子化対策拡充の財源として公的医療保険に上乗せして徴収する「子ども・子育て支援金」について、衆院の特別委員会の理事会で、会社員らが加入する被用者保険の年収別の負担額を示した。元プレジデント編集長で作家の小倉健一氏が解説するーー。 

 

 日本の「少子化対策」が根本的に誤っていることを、政治家、行政、エコノミスト、学者たちは早く学ばなければならない。 

 

 米国・ワシントン大学のInstitute for Health Metrics and Evaluation (IHME)が主導する研究活動【Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study 2021】(https://www.healthdata.org/research-analysis/gbd)にもとづく最新の分析によると、1950年以来すべての国で減少している世界の出生率は、今世紀末まで急落し続け、その結果、深刻な人口動態の変化が起こるという。 

 

 出生率は、1950年の4.84から2021年には2.23となり、2100年には1.59まで下がり続けることになる。 

 

 この調査の上席著者でIHME所長のクリストファー・マレー博士は、CNN(3月21日)の取材(https://edition.cnn.com/2024/03/20/health/global-fertility-rates-lancet-study/index.html)に対して、「教育や雇用における女性の機会の増加、避妊やリプロダクティブ・ヘルス・サービスへのアクセスの向上など、この変化には多くの理由がある」と述べている。 

 

 同様に、世界保健機関(WHO)のギタウ・ムブル博士は「子育てにかかる直接的なコスト、子どもが死亡するリスクの認識、男女平等や自己実現に関する価値観の変化といった経済的要因のすべてが、出生率の低下に寄与している可能性がある」と述べている。 

 

 安定した人口を維持するためには、女性1人あたり2.1人の合計特殊出生率で、この数字を下回ると人口は長期的に減少することになる。2021年には46%の国が出生率が、女性1人あたり2.1人の出生率を下回っており、これが2100年には97%に増加。今世紀末には世界のほぼすべての国の人口が減少することになる。 

 

 同分析において、下記のことも判明している。 

 

1、育児補助金、育児休暇の延長、税制優遇措置など、一部の国が実施している出産促進政策の効果も調べた。その結果、出産促進政策が実施された場合、女性1人当たりの出生数の増加は0.2人以下であり、強力で持続的な回復を示唆するものではなかった。 

 

2、子育て支援政策は、他の理由からも社会にとって有益かもしれないが、現在の人口動態の変化の軌道を変えるものではない。 

 

 

 以上の分析から得られる結論は、少子化を止めることはほぼ不可能であるか、まだ方法が見つかっていないという事実である。日本は世界中の誰も成功したことのない少子化対策に、莫大なお金を注ぎ込むのか、一度冷静に考えた方がよいだろう。 

 

 例えば、スウェーデン。 

 

 日本の有識者たちは、スウェーデンの少子化対策が素晴らしいなどと手放しに絶賛しているが、スウェーデンも少子化が進行している。というか、スウェーデンの出生率には、移民も大きく関与している。それにもかかわらず、スウェーデンの子育て支援が分厚いから、とか、子育てにおいて男女平等が達成されているというほとんど出生率と関係ないことが注目 

 

 され、日本も真似しろと叫ばれてきたわけである。 

 

 こうした元凶をつくったのは、少子化担当大臣時代の上川陽子氏、現在の外務大臣だ。国会には税金をもっと上げて効果のない政策にお金をぶちこめという旨の議事録が残されているが、この人物が「次の首相」の呼び声が高いというのだから、日本の将来が思いやられる。 

 

 子育て支援(家族政策)には不介入を基本とするアメリカやイギリスが、出生率で日本より高いのだから、国に少子化でお金を使わせず、その分、減税で家庭に還元した方が効果が高い可能性すらある。 

 

 いずれにしても、現在の日本の少子化対策がいかに間違っているかをまず確認しなくてはいけない。 

 

「対策」という言葉は非常に便利な言葉で、何かを行うと「対策」をしていることになる。太平洋戦争の最中、日本各地に、アメリカの爆撃機B-29がやってきて、爆弾や焼夷弾を落としまくった。そこで日本政府が考えついたB-29対策は「竹やり攻撃」である。町内で集まって、竹を削り、B-29がやってきたら、叩き落とすべく、毎日訓練をしたわけである。 

 

 この竹やり訓練は「対策」ではあるが「成果」が上がることはないだろう。 

 

 少子化は恐ろしいスピードで進んでいるからといって、意味のない「対策」をしても、成果が上がることは一切ない。少なくとも、日本の少子化は、晩婚化、未婚率の上昇が原因の9割であることが学術的には判明しているわけである。子育て支援をしたからといって、晩婚化や未婚率が抑えられるわけがないのである。高校の学費を全額税負担(教育費無償化)したところで、女性の妊娠適齢期を考えれば、これが、少子化対策に並べられているのがおかしいことに気づかなくてはいけない。日本の「異次元の少子化対策」は、根本的な発想、方向性が間違っている。 

 

 私は別に目新しい話をしているわけでも、奇をてらって、珍説を披露しているわけではない。CNNでもBBCでも海外のニュースサイトで出生率の記事を探せばすぐにでてくるような常識的な話なのである。こんな話、おそらく、行政や政治家の多くはわかっているはずだ。わかっているのに無意味な政策に莫大な予算を投じ、当然、財源が足りなくなってしまったのが、今日現在の岸田文雄首相率いる無能な閣僚たちだ。 

 

 

 子育て支援金なる増税は、会社の負担額を合わせると、2028年度には、 

 

年収200万円  年間8400円の増税 

 

年収400万円  年間1万5300円の増税 

 

年収600万円  年間2万4000円の増税 

 

年収800万円  年間3万2400円の増税 

 

年収1000万円 年間3万9600円の増税 

 

 となることが判明した。政府説明は、なぜか国民1人の数で割ったり、会社負担が書いてなかったりするが、きちんと説明すれば上記の数字が正確な数字だ。会社に負担させたとて、会社が用意できる人件費は同じなのだから、結局、労働者がもらえる分が取られているわけだ。「増税感」は和らぐが、「増税額」は増えるという、見掛け倒し。名目賃金の上昇ばかりを強調し、23か月連続の実質賃金を目減りさせてきた岸田首相ならではの、ウソと誤魔化しであろう。 

 

 先ほども述べたように、少子化の原因は、ほぼ未婚率と晩婚化で説明できるわけだが、若い労働者からさらなる負担を求めて増税するわけで、そうなれば結婚しようという意欲や能力を、政府が税金によって奪っていくことになる。少子化対策によって少子化が進むという皮肉な結果が生まれるということである。 

 

 現在、こうした有害な政策を担当し、推進しているのが加藤鮎子こども政策担当大臣だ。2月29日の衆院予算委員会の中央公聴会で公述人が「少子化の原因は未婚率の上昇」と指摘したことを受け、「担当大臣として、未婚率の増加の原因はなんだと考えているか」と国会で問われた。 

 

 すると、加藤大臣は、「未婚化の原因については……」と話し始めると、答弁に窮し、「ちょっとお待ちください!!!」などと答弁書で答えを探すも見つからず、必死に探し当てると以下のような答弁をした。 

 

「少子化の要因としては経済的な不安定さや出会いの機会の減少、仕事と子育ての両立の難しさ、家事・育児の負担が依然として女性に偏っている状況、子育ての孤立や負担感、子育てや教育にかかる費用負担、年齢や健康上の理由などが背景にある」 

 

 経済的な不安定さ、出会いの機会の減少まではいいと思う、しかし、仕事と子育ての両立の難しさ、家事・育児の負担が依然として女性に偏っている状況、子育ての孤立や負担感、子育てや教育にかかる費用負担などは、未婚率とは関係がない。それは、子育て支援策と出生率が関係ないことから考えても導きだせるものだ。 

 

 この加藤大臣の頭の混乱が、そのまま岸田政権の少子化対策の迷走を表しているといってもいい。もはや経済的な不安定さを、子育て支援金という大増税(消費税0.8%分)がもたらすことも、頭の配線がつながっていない加藤大臣には理解できないだろう。 

 

 しどろもどろの答弁を繰り返す時点で、自分の所管分野においてすら、何も理解できていないことが明白な加藤大臣。大臣としての資質がないのはもちろんだが、よく考えれば、加藤大臣は前任者から始まる意味不明な少子化対策の弁明に追われているだけともいえる。 

 

 やはり元凶は、岸田首相ということになる。一刻も早く、退陣し、この異次元の少子化対策を全面的に撤回しなくてはならないということだ。 

 

小倉健一 

 

 

 
 

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