( 163959 )  2024/04/26 17:10:57  
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コロナ禍前の訪日外国人観光客が増加し、観光公害が深刻化している中、地方自治体が宿泊税などの導入を検討している。

訪日客の増加により観光地は混雑し、自治体はインフラ整備や観光案内に大忙し。

財源を捻出するため、新たな税の導入が急務となっている。

京都市や大阪府などの自治体は宿泊税や入湯税、入山税などの導入を検討しており、観光客からの税収を活用して観光地の環境保護やインフラ維持に充てる方針。

訪日客の増加は続き、自治体の財政事情も厳しさを増しているため、法定外税導入は避けられない状況。

(要約)

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四条河原町のバス停で乗客を積み残して発車する京都市バス(画像:高田泰) 

 

 コロナ禍前を上回る訪日外国人観光客の殺到で観光公害が深刻化するなか、「宿泊税」などの検討に入る地方自治体が相次いでいる。背景に厳しさを増す自治体の懐事情がうかがえる。たこ焼きをほおばりながら歩く若いカップル、グリコの看板前でポーズを取って記念撮影する家族連れ。4月末の土曜日、大阪市中央区の道頓堀かいわいは足の踏み場もない人出で埋め尽くされた。そのほとんどが欧米やアジア各地からやってきた訪日客だ。 

 

【画像】「えっ…大混雑!」これが大阪ミナミ「戎橋」の現状です(12枚) 

 

 台湾から初めて来た女性(23歳)は「たこ焼きが大好き。やはり本場の味は違う」とにっこり。戎橋近くで営業するコンビニの店員は 

 

「このところ人出がすごいが、今日もびっくりするほどいる」 

 

と目を丸くしていた。 

 

 京都市下京区の四条河原町では祇園方面へ向かうバス停で20人以上の市民が立ち尽くしていた。バスは次々に来るのだが、どれもほぼ満員状態。2、3人乗せては発車の繰り返しでなかなか乗車できない。なかにはバスをあきらめて歩き出す人も。千葉県浦安市から来た30代の夫婦は 

 

「街全体がディズニーランドみたいな人出。歩いたほうが早い」。 

 

 日本政府観光局は3月の訪日客数推計値がコロナ禍前の2019年3月比で11.6%増の308万人に達したと発表した。単月で300万人を超えたのは初めて。1~3月期も856万人で、第1四半期として過去最高を記録している。 

 

 その結果、人気観光地は訪日客であふれ、観光公害が深刻さを増している。自治体はごみ箱やトイレの整備、交通整理、観光案内などで大忙し。想定外の支出も次々に発生する。これらの予算を捻出するために、自治体が相次いで新たな財源の模索に動き出した。 

 

大勢の訪日客を高野山駅へ運んできた南海電鉄のケーブルカー(画像:高田泰) 

 

 自治体が観光客から税金を徴収する方法としては、 

 

・宿泊に課税する「宿泊税」 

・温泉入浴に課税する「入湯税」 

・指定された地域に入ることに課税する「入山税」「入島税」 

 

などがある。これら法定外税は条例で定めたうえ、総務相の同意を得て導入される。 

 

 宿泊税は東京都、大阪府、京都市、石川県金沢市など、入湯税は神戸市、大分県別府市、神奈川県箱根町など、入島税は広島県廿日市(はつかいち)市、沖縄県渡嘉敷(とかしき)村などが導入し、インフラ維持や環境保護などに充てている。入山税は山梨県が富士山を対象に夏から導入を予定する。 

 

 真言宗の聖地・金剛峯寺(こんごうぶじ)があり、世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」を構成する和歌山県高野町は、入山税か宿泊税の徴収を検討している。2023年に高野山で宿泊した観光客は約22万人で、うち9万人余りが欧米中心の訪日客。日帰りも含めた観光客総数は町の人口約2600人を大きく上回る約140万人に上った。 

 

 観光客受け入れに欠かせない上下水道の維持や警備員の配置に必要な経費は、それぞれ年間2000万~3000万円。高野町計画公室は 

 

「金剛峯寺とも協議し、高野山と文化財の価値を守るため、観光客に協力を求めたい」 

 

と説明した。 

 

 宿泊税は北海道ニセコ町が11月、静岡県熱海市が2025年4月からの導入を決めたほか、広島県、宮城県、仙台市も検討を急いでいる。観光地を抱える自治体は導入ラッシュの状態だ。 

 

 2018年から宿泊税を導入している京都市は、税額引き上げに向けて4月から有識者会議で議論を始めた。引き上げは2月に初当選した松井孝治市長の選挙公約で、有識者会議は今後、宿泊事業者にアンケート調査するなどして8月中に答申をまとめる方針。京都市税制課は 

 

「混雑対策には財源が必要。有識者会議でよく協議してほしい」 

 

と述べた。 

 

 大阪府は訪日客に一定の負担を求める全国初の徴収金制度創設を検討中だ。有識者会議の初会合が24日に開かれ、本格的な議論に入ったが、2025年の大阪・関西万博開幕に合わせた導入に向け、徴収金額や方法の検討を急いでいる。 

 

 

訪日客も多く訪れる広島市の原爆ドーム(画像:高田泰) 

 

 自治体が法定外税の検討を急ぐ背景には、厳しさを増す財政事情がある。首都圏を除けば大半の自治体が急激な人口減少に入り、税収に影響している。バブル経済の約30年前、自前の税収が予算の3割しかない自治体が財源と権限を国に握られている現状を 

 

「3割自治」 

 

と呼んだが、いまや自主財源が1割前後の自治体も珍しくない。 

 

 しかも、高齢化の進行で2023年度、国全体の社会保障給付費は134.3兆円まで膨れた。社会保障費は国だけでなく、自治体も負担している。国民健康保険だと都道府県が2割強、市町村が1割弱、介護なら都道府県、市町村とも3割弱を受け持つ。 

 

 2025年には戦後のベビーブームで生まれた団塊の世代約800万人が全員、75歳以上の後期高齢者になる。社会保障費のさらなる増加が避けられず、自治体財政はますます困窮する見込み。観光地を抱える自治体が法定外税導入へ動くのはやむを得ない一面もある。 

 

 ただ、法定外税の導入が観光公害の緩和につながるかといえば、それは期待しにくい。訪日客が殺到するのは日本旅行が 

 

「安上がり」 

 

だからだ。バブル崩壊後、日本人の所得が増えないなか、海外では賃金上昇が続いた。その結果、欧米との経済格差が広がり、アジア諸国に追いつかれたところへ円安が追い打ちをかけている。 

 

 京都市東山区の五条坂で串に刺した宮崎牛や神戸牛の小さなステーキが1本2000円で販売されていた。日本人観光客が尻込みするなか、訪日客は「安い」と大喜び。日本が“格安の旅行地”である限り、訪日客ラッシュに終わりが見えない。自治体は当面、訪日客の増加を覚悟して財源を探すしかなさそうだ。 

 

高田泰(フリージャーナリスト) 

 

 

 
 

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