( 166454 )  2024/05/03 15:10:33  
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黄色信号で止まっただけで「ため息」を吐く客も…バスドライバーが明かす「乗せたくない客」とは? 写真はイメージ ©getty 

 

「遅れているんだから、そのくらいのタイミングなら、止まらず行っちゃえよ」 

 

 バスドライバーとして法律を正しく守っているだけなのに、不満を向けるお客も…できることなら乗せたくない“残念なお客様たち”とはいったい? 元バスドライバーの須畑寅夫氏の著書『 バスドライバーのろのろ日記――本日で12連勤、深夜0時まで時間厳守で運転します 』(三五館シンシャ)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/ 後編 を読む) 

 

【写真を見る】不正乗車を試みる若い女性も…「乗車拒否したいお客様」 

 

◆◆◆ 

 

 平日の朝、通勤や通学のお客が多く乗車すると、バス停ごとの停車時間が長くなる。この時間帯はクルマの数も多くなり、駅に近づくにつれて渋滞が発生してくる。都市部の朝は、どこもこんな感じでバス運行に遅れをきたす。 

 

 国道16号線とバイパスが交差する交差点に差しかかり、信号が青色から黄色に変わったときだった。ブレーキを踏んで停車すると、運転席後方から「はぁ~」というため息が聞こえる。 

 

 これでもう3度目。黄色信号で停車するたびにこちらに知らせるようにわざとらしく大きなため息をつくお客がいる。車内ミラーで確認すると、くたびれたスーツを着た、50代と思われる男性のようだ。黄色信号での停車に対し、「遅れているんだから、そのくらいのタイミングなら、止まらず行っちゃえよ」という意思表示なのであろう。 

 

 このお客ほど露骨ではなくても、舌打ちをしたり、ため息をついたりするお客は多い。 

 

 黄色信号での停車は道路交通法上、守るべきルールだが、片側2車線以上ある道路で並走しているクルマが止まらずに走り去っていくのに、自分の乗っているバスが停車すると、のろのろと運転しているように思えてイラッとするようだ。 

 

 1回の信号で停車する時間は数十秒程度。黄色信号を無視して突っ走るよりも、バス停でのお客の乗降を迅速にするほうが時間の短縮になる。黄色信号で止まって舌打ちをするくらいなら、一本前のバスに乗ってほしいものだ。 

 

 法定速度を守って走っているときも同様で、私に聞こえるか聞こえないか程度の小声で「おせーなぁ」とか、ため息まじりに「トロイなあ」とぼやくお客もいる。そういう声ほど不思議と耳に入ってくる。聞かせたくて言っているのだろうが、はい、バスドライバーにはよく聞こえております。 

 

 途中バス停にあるバスの時刻表は、電車の時刻表と違う。電車では発車時刻を意味するのに対し、バスの場合は「その時刻より早い時間には発車しませんよ」という意味なのだ。 

 

 

 電車と違ってバスは信号で止まったり渋滞があったり、運賃収受やお客の対応などで時間を使うため、電車のような定時運行は難しい。バス停の時刻表に表記された時刻より遅れることなどしょっちゅうだ。なお、時刻表に表示してある時間より1秒でも早く発車してしまうと「早発」という運行ミス扱いになる。私の同僚で20秒早発して処分を受けた運転士が実際にいる。 

 

 お客にはそういったバス会社側の事情を斟酌しない人がいる。バス停に1分遅れて到着したときだった。 

 

「お待たせしました。横浜駅行きです」 

 

 そう言って前扉を開けると、40代くらいの男性が乗り込んできた。 

 

 不機嫌そうに顔をしかめ、自分の腕時計をこれみよがしに見せつけながら、「遅いじゃねえか。何分遅れているんだよ」と文句を言ってくる。 

 

「1分しか遅れていませんよ。バスが道路事情によって遅れることがあるのは当たり前でしょう」 

 

 そうノドまで出かかっているが、こうしたお客にそんなことを言えば火に油を注ぐことになるのは目に見えている。「お待たせして、すみませんでした」と謝る。 

 

 さすがに1分遅れで文句を言う人は珍しいが、5分ほど遅れたときは、電車に間に合わないとか会社や学校に遅れるとか言って急かしてくるお客や、クレームをつけてくるお客が結構いる。 

 

 この仕事に就いたばかりのころは、こんなクレームが気になって仕方なかった。「おせーなぁ」と言われれば腹が立ったし、イラつきもした。言い返してやろうかと思ったのも一度や二度ではない。 

 

 しかし、入社して1年ほどがすぎ、何度もこんな経験をするうちに慣れるようになった。「慣れる」という表現はおかしいかもしれないが、「そういうものだ」と受け入れられるようになった。それにより、腹立ちやイライラもずいぶんと軽減した。「慣れ」とはすごいものだと思う。 

 

 一方で、こんなことに慣れて、何か言われても「そういうものだ」と思ってしまう自分が怖くなることがある。でも、慣れなければやっていられないのもバスドライバーの真実なのである。 

 

「も、漏れる…」“トイレを我慢できない”バスドライバーを救った「意外な解決策」とは? へ続く 

 

須畑 寅夫/Webオリジナル(外部転載) 

 

 

 
 

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